彼氏に豚と言われた私は「DVを受けて当然」と思いこんでいた

 こんにちは、コラムニストのおおしまりえです。

 マッチングアプリで出会ったおかしな彼氏により、軟禁状態のような交際をスタートさせた光さん(当時27歳・仮名)。交際相手の純一さん(当時31歳・仮名)のおかしさは1回目のデートから如実に出ていたといいますが、気づけば生活も時間も連絡を取れる相手も握られ、光さんの心は純一さんに支配されていました。

 そんな彼から、光さんはどうやって逃げ出したのか。そもそもなぜそんな毒になる男を拒めなかったのか。振り返ると、そこには彼女のコンプレックスが大きく関係していました。

◆「豚みたいな奴」と言われて、DVも受け入れてしまった

 初めてデートした日から彼の自宅での半同棲がスタートした光さんと純一さん。その生活は、一般的なカップルのやり取りとはほど遠いものでした。

「彼は犬を飼っていたんですが、毎晩私が散歩に連れて行けと命令されていました。でもそのマンションはペット不可だったので、すごく後ろめたかったです。でも断ると怒るし、怒ると時々肩を殴られたり、ベランダの手すりに頭をぶつけるとか暴力もありました

 完全にDVですが、交際してから物凄いスピードで太った私は、彼から『豚みたいな奴』と言われて自己肯定感が下がってしまい、『こんな私はこんな扱いを受けるのが当然』みたいな思考回路になっていました」

 筆者が話を聞いていて一番疑問に思ったのが、彼との生活が同棲にならず“半同棲”だった点です。

「彼の家にほぼ住まわされていましたが、当時近所に住む彼の母親には、私が家にいることは伝えられていませんでした。その結果、母親が来る時には家から追い出され、私の洗濯物も自宅で洗って干すのは禁止されていました。だから週1~2回実家に帰って着る物を取り替えていたんです。たまにしか顔を見せず、どんどん太ってみすぼらしくなる私のことを、周囲も心配していたと思います

 彼とは本当に付き合っていたの? 光さんにそう聞くと、「多分……でも付き合おうというやり取りはなかったです」と振り返ります。一体じゃあこの生活は、何だったのでしょう。

◆もう耐えられない! ついに彼の元から逃げ出した

 洗脳された2ヶ月間の生活は、光さんがついに限界を感じたことをきっかけに終わりを迎えます。

「普通に『別れましょう』だと逆ギレされて殴られる危険性があったので、朝出勤するタイミングで置き手紙をして逃げました。勤務先と実家は知られていましたが、さすがに彼も社会人なのと仕事が忙しいので、そんなに熱心に追いかけてはこないだろうという目論見(もくろみ)でした」

 光さんは彼に、こんな内容の手紙を書き残しました。

死ねとかブスとか日常的に言ってきたり、殴ってくるような人とは一緒にいられない。これで最後にしたいです。ありがとう

 すると意外(?)にも、純一さんは光さんを追いかけてきたそうです。

「純一ははじめ『捨てないでくれ! お前がいなきゃ俺は無理だ!』って、すがるように追いかけてきました。でも私がそれでも無理と突っぱね続けると逆ギレしてきて、『お前なんてそもそも付き合ってない!』と今度はまたいつもの彼のモードになっていました。

 全部無視していたら連絡は来なくなりましたが、しばらくFacebookやTwitterは監視されている気配がありました」

◆なぜおかしな彼に引っかかってしまったの?

 おかしな男から無事逃げ切った光さん。現在は普通の男性と平和な恋愛を楽しんでいるそうですが、改めて「どうしてそんな、見るからにおかしな男性に引っかかったんですか?」と質問すると、そこには自分自身のコンプレックスが大きく関係していた気がすると自己分析します。

「彼に惹かれた部分ですが、彼は国立大卒でマスコミ関係者でした。私は大学受験で失敗して志望する大学に入れず、また就職では大学のレベルが足りなくて、テレビ局など大手マスコミ系企業の就職に失敗しました。二度の挫折から学歴と職業についてのコンプレックスがずっとあって、その反動から付き合う男性はとにかく高学歴の人を選んでいました」

 長身で色白、ぱっと見はモデルの市川実和子さんのような、アンニュイな雰囲気の光さん。仕事について淡々と話す姿は聡明に見え、まさかそんなコンプレックスを抱えているとは思いませんでした。

 しかし男性遍歴を聞くと、出身大学が東工大、早稲田、東大、立命館と、高学歴のオンパレード。彼らの就職先も大手マスコミや大学の研究室といった、“狭き門”の職業が多かったです。

「純一が結婚願望もあると言っていたのもあり、私は完全に条件で彼に惹かれていました。でも改めて考えると、条件で選んだ相手ほど、付き合った時点で自分から上下関係を作ってしまっていたんですよね。もちろん私が下で、相手へお伺いを立てるように接するんです」

◆パートナーとの間に上下関係を作らない

「純一と別れた後、友達関係をなんとか再開できた元カレがいたので、私と別れた原因をフィードバックしてもらいました。そしたら『仕事の話をしている時は楽しかったけど、付き合ったら自分の意志を主張しなくなって、だんだん楽しい話もできなくなってしまった』と言ってきた男性がいました。正直言うと、自分の気持ちを彼氏にどう主張したらいいのか、今も手探りな部分はあります」

 純一さんの性格に問題があったのは言わずもがなですが、DVやモラハラといった支配的な要素は、パートナーの性格や接し方によって、より強く引き出される側面があります(だからといって、被害に遭う方が悪いわけでは決してありません!)。

 光さんの場合、早い段階で無意識に自分の立ち位置を“下”にして相手にマウントを取らせたことで、純一さんのモラハラ気質や洗脳要素をさらに助長していたのかもしれません。

 ここまでわかりやすい被害に合うケースはあまり聞きませんが、女性の中にはどうしても旧時代の男尊女卑的な価値観を引きずっている人がいて、本来対等なはずの男性の“下”に位置取り、支配欲を無意識的に引き出しているケースがあります。

 またそれを求める男性もまだまだ一定数いるように思います。双方がそれで幸せなら外野がどうこう言うものではありませんが、コンプレックスや自己肯定感の低さは、そうした歪んだ関係性に自分を置いてしまうリスクを高めることは、知識として誰しもが知っておいても良いのかもしれません。

<取材・文/おおしまりえ>

【おおしまりえ】

水商売やプロ雀士、素人モデルなどで、のべ1万人以上の男性を接客。現在は雑食系恋愛ジャーナリストとして年間100本以上恋愛コラムを執筆中。Twitter:@utena0518

2021/5/4 8:47

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