菅田将暉も参加!『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道』岩間玄監督が語る

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菅田将暉がファンを自認する、写真家 森山大道のドキュメンタリー映画『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道』が公開されます。メガホンをとった岩間玄監督に企画のきっかけから制作エピソード、菅田将暉が担当した導入部分の意図、撮影を振り返っての思いなどを語っていただきました。

<作品概要>

スナップショットの帝王として知られる森山大道は、国内外の若手クリエイターから絶大な支持を集めてきた。菅田将暉や宇多田ヒカル、木村拓哉、ONE OK ROCKなど時代を彩るトップスターを積極的に撮影するとともに、写真のノーベル賞と呼ばれるハッセルブラッド賞を受賞。名実ともに写真界のトップを走り続ける。

本作は、四半世紀前に森山大道の撮影行程から暗室作業までの制作プロセスを克明に記録したドキュメンタリー番組「写真家 森山大道 1996 路上の犬は何を見た?」(1996年2月24日放送)でプロデューサーを務めた岩間玄監督が森山大道の“今”を捉えたドキュメンタリー作品である。
冒頭のナレーションを担当するのは菅田将暉。森山大道のファンを自認し、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞した『あゝ荒野』のポスター写真を森山大道が撮っている。

音楽を担当したのは三宅一徳。「オーケストラとロックサウンドの融合」をライフワークとし、シリアスドラマやドキュメンタリーのサウンドトラックや邦楽器とのコラボ作品にも定評があり、本作で初めてドキュメンタリー映画作品の音楽を手掛けた。

テーマやコンセプトを決めておくと擦過を見落としてしまう

――本作を撮ろうと思ったきっかけは、森山大道さんとの対談の後で受けた一般の方からの質問とうかがいました。その辺りからお聞かせいただけますか。

1996年に放送した森山大道さんのドキュメンタリー番組を20年ぶりに振り返るイベントで、こう問われたのです。「この20年で写真はアナログからデジタルに大きく様変わりした。カメラももちろん、記録媒体もフィルムからカードへ、作品も暗室作業での焼きつけからプリントアウトへと大変化を遂げた。なのに、森山大道さんは以前とまったく変わることなくスナップワークを続けている。あなたはなぜこんな面白い状況の『今現在の森山大道』を撮らないのか」。思いもよらない質問にびっくりし、その場を繕う返事しかできませんでした。しばらくして、イベントに来られていたテレビマンユニオンのプロデューサー杉田浩光さんから「世界を視野に入れた映画を撮りましょう」と提案され、企画が動き出しました。

©︎『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』フィルムパートナーズ

――本作は森山大道さんの『にっぽん劇場写真帖』の復刊の製作過程を時間軸の中心に据え、森山さんのスナップワークやこれまで発表してきた写真の数々、監督が26年前に撮られたテレビ番組が挟み込まれています。そのバランスが絶妙ですが、最初からこのような構想で撮り始めたのでしょうか。

最初は何も一切決めず、森山さんがスナップワークする姿をただひたすらカメラで撮っていました。企画書も“森山大道の映画を撮りたい”という僕の思いをポエムのように書いただけ。今から考えれば、その企画書でよく出資者が集まりましたよね(笑)。

僕は放送局で作品を作っていた時期が長いので、完成形の構成台本をかなり綿密に作って撮影をしてきました。それがいちばん効率のいいやり方です。しかし、それを最初に作ってしまうと、そこに当てはまる森山さんの姿にしか気づけなくなると思ったのです。

実はこれ、森山さんご自身のスタイルでもあります。「あらかじめテーマやコンセプトを決めておくと擦過を見落としてしまう。だから自分はフラットな状態でセンサーを全開にして、それを取り込んでいく」と語る森山さんはさまざまな人や事物、風景と擦過した瞬間にスパークしたものをどんどんスナップしていく。森山さんは「擦過」という言葉をよく使いますが、僕も図らずもそのスタイルを踏襲していたのです。

とにかく撮る。積み重ねていった先に何か必ず物語のグルーヴが生まれると信じて、構成台本を作りたいという欲求と戦っていたときに、森山さんのデビュー作『にっぽん劇場写真帖』を決定版として復活させるプロジェクトがあることを知りました。
教えてくれたのは、編集者の神林豊さんでした。古本屋で稀少本として売られているものをただ復刻するのではなく、造本家の町口覚さんと“この写真はいつ、どこで、どのように撮られたのか”を森山さんに尋ねて、1点1点、記録として紐解いていき、そのデータも差し込んだ状態でもう一度新たな『にっぽん劇場写真帖』を出すというのです。

僕はそれまでの数か月、森山さんが街に出てスナップをしている姿を撮っていました。それを継続しつつ、編集者と造本家が過去の森山大道を解体していく作業も撮っていけば、この2つは必ずクロスし、そこが映画のゴールになるはず。ようやく全体の背骨のようなものが見えてきて、出資してくれた人に説明できるようなりました。

©︎『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』フィルムパートナーズ

――写真集作りが北海道の材木を伐採するところから始まったのに驚きました。

町口さんに「写真集って何で出来ていると思います?」と聞かれ、僕は質問の意味がよく分からず、しどろもどろで「写真集は、写真で出来てるんでしょ」と答えました。すると町口さんは「写真集は、紙から出来ているんですよ。その紙に写真が載って初めて写真集という体裁を整えていく。その紙は木から出来ていて、その木は森に生えている。デザイナーは“この紙はどこの森に生えているどんな木から出来ていて、どんな匂いがして、どんな手触りがして、どんな重さを伴っていて、この写真をこういう風に印刷して、何ページの本を作る”というところまで因数分解して遡って考えないとデザインはできない」と言うのです。

その話を聞き、森に生えている1本の木から写真集が出来上がるまでを軸にすることにしました。そこに森山大道の過去の作品や記憶、現在のスナップワーク、これからやろうとしている未来の製作をどんどん挟み込んでいく。こうして撮影開始から半年後くらいに全体像が見えてきました。

©︎『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』フィルムパートナーズ

動物的な直観力でぐっと本質をつかんで表現

――冒頭の菅田将暉さんのナレーション、最初の段階では入っていませんでしたね。

2020年の春に緊急事態宣言が出て、公開がいったんストップになりました。新たな公開に向けて何かできないかを考えたときに、菅田さんが大道さんのファンだったことを思い出したのです。菅田さんなら若い世代の人たちを森山大道さんに近づける橋渡しの役割を果たしてくれるのではないか。菅田さんに「森山大道さんへの思いをみんなに伝える形で参加してほしい」と伝えたところ、喜んで引き受けてくれました。映画に新たな命を宿してもらった気がします。

©Daido Moriyama Photo Foundation

通称「三沢の犬」として知られている森山大道氏の代表作。米軍基地のある街・三沢で撮影された。(1971年)

――菅田将暉さんの印象や収録のときの様子をお聞かせください。

気持ちのいい青年ですね。菅田さんが森山大道という写真家をどういう風に好きなのか、好きな人に写真を撮ってもらうのはどういう気分だったのかを取材したのですが、森山大道への愛情が本当に深い。その思いを僕が監督の立場でナレーション原稿としてリライトしました。

吹き込んでもらうときに、「そこ、もうちょっと憧れ感を出してもらうといいかな」というと「あ~そっちかぁ。わかりました!」とぱっとやってしまう。動物的な直観力でぐっと本質をつかんで、それをパフォーマンスできる。さすがです。

完成した作品をご覧になり、「大道さんはやっぱりかっこいい。自分もああいう風になりたい」と言っていました。

©Daido Moriyama Photo Foundation

唇のアップは森山大道氏が好んで撮るモチーフ

――菅田将暉さんのような若い世代に対して伝えたいことはありますか。

森山大道の映画が公開されると聞けば、行ってみようかなと思う人は一定数いてくれると思います。しかし、それはある種、ニッチな世界。もちろん、そういう方々には当然、見ていただきたいのですが、僕はこの映画は普段、写真やアートを意識していない若い人にこそ見てほしいと思っています。

かつて写真は一部のマニアにとっての表現ツールでしたが、今の子たちはそれを飛び越えて、毎日毎日、自分の身の回りのことを1日何十枚もスマホを使って撮っている。“写真は世界の断片のコピー”と森山さんは言っていますが、若い人がこれほどまでに世界の断片をコピーとして記録していた時代はかつてなかったと思います。

森山さんは特殊な場所に行って、特殊な機材で特殊なことを撮っているのではなく、型落ちした小さなカメラで何でもない街角に行って、何でもない看板や雑踏を50年以上、飽きもせず、毎日毎日ただひたすら撮り続けている。それは自分たちがやっていることと変わらない。つまり、世界の断片を撮っているという意味では自分たちも森山大道という写真家も同じ。しかも、森山さんは人から求められるときも求められないときも、褒められるときも褒められないときも、ずっとこつこつ変わらず、積み重ねてきて今の森山大道になった。もしかすると、どんな小さなことでもやり続けていれば誰かがそのことを評価してくれるかもしれない。菅田将暉という存在をきっかけにこの作品に興味を持ってくれた人が、こんな風に思って写真を身近に感じたり、何かをやり続けてくれたりするといいなと思っています。

©︎『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』フィルムパートナーズ

撮る対象やスタイルは変わらないが、被写体に対してより鋭敏に

――作曲家の三宅一徳さんの力強い劇伴は躍動感があり、引き付けられました。どのように依頼をされたのでしょうか。

杉田さんから紹介され、三宅さんにお願いしました。さまざまなジャンルを手掛け、非常に引き出しの多い方ですね。

音楽が一切ない状態で2時間作り上げて三宅さんに見ていただき、 “ここは街を失踪するような音楽で、時折そこに街のノイズが入ってきたり、すれ違う車の音、行き交う人の雑踏がざわめくように入ってきたり、テンポのいい風のような感じ”とか、“ここはメロディーというよりも光が向こうからにじんでくるような感じ”と伝えたところ、山のようにデモを作って送ってくれました。それに対して「こういう疾走感ではない」というと、また別のデモが送られてくる。疾走感がはまったら、そこに危うさや緊張感を足してほしいなどと伝えて、言葉とデモのやり取りを何度も交わしてここに至ります。

ただ、森山大道さんの写真に感じる温度、テンション、世界観は僕と三宅さんでは違います。その違いの溝を埋める方が面白いのか、溝は溝として残した方が映画として振れ幅がより大きくなるのか。その辺の判断が難しかったですね。

©︎『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』フィルムパートナーズ

――森山大道さんは20年前も今もスナップワークを続けていらっしゃいます。20年前と今で変わらないところ、変わったところはありましたか。

基本、変わらないですね。カメラがアナログからデジタルに変わったことで撮る対象やスタイルが変わったと思い込んで撮影を始めましたが、僕が26年前に撮った彼と全く変わっていませんでした。しかも相変わらず、すったかすったか歩いていく。信号を走っていくこともありました。80歳とは思えない脚力です。

ただ、変わったというか、より凄みを増したことはありました。例えば1日に何百枚と撮ることは変わりません。しかし、対象物を見つけたとき、昔は何カットも撮っていましたが、最近は対象物に近づき、一発で勝負を決めて次に行く。保険みたいな撮り方はしない。一撃必殺ですね。森山さんのセンサーがより鋭敏になっているのを感じました。

©︎『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』フィルムパートナーズ

同じことを続けていくことがいかに尊く、かけがえのないものであるか

――監督は森山大道さんから何か影響を受けましたか。

ある種の開き直りができるようになりましたね(笑)。世間には “森山大道の写真は黒くて汚い”、“荒々しくて美しくない”、“チープでジャンクなカメラを使ってチープでジャンクなものを撮っている”と批判する人もいます。

しかし森山さんは早い段階から「誰が何と言おうが、俺はこういうやり方でいくと決めたし、これしかできないからこれでいい」と今も昔もおっしゃっています。

それが今回、僕に過分な影響を与えました。 “世界の森山大道”を撮るのですから、常識的に考えればきちんとした音声さん、照明さん、助監督がいる大所帯で、ちゃんとしたカメラを使ってカッコよく撮ると誰もが思うでしょう。ところが森山さんから「岩間さん、1人で撮れば? カメラは写れば何でもいいんだよ」という2つの開き直りをいただき、僕としての覚悟が決まったのです。森山大道が生々しく街を歩いている現場を僕が生々しく記録していく。表現はある種の覚悟であり、開き直りであり、決意であることに大きな勇気をもらいました。

©︎『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』フィルムパートナーズ

――監督はそろそろかつての森山大道さんの年齢に近づいてきたのではありませんか。

慄然呆然としますよね。自分の歳のとき、森山大道さんはすでに写真のことを突き詰め、「何と言われようとこの方法論でいく」と世界を挑発していたのと同じように、自分が今、映像に対して突き詰められているのか、映像という方法論をある確信をもって世界に投げ掛けているかを考えると、甚だ自信がありません。

©︎『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』フィルムパートナーズ

――これから作品をご覧になる方にひとことお願いします。

変わらない日々に焦るときがあるかもしれません。しかし、森山大道さんが50年以上変わらず写真と向き合っている姿をご覧いただいて、同じことを続けていくことがいかに尊く、かけがえのないものであることを受け取っていただければと思います。

(取材・文:ほりきみき)

<プロフィール>

岩間玄

©Daido Moriyama Photo Foundation

作品を撮影中の岩間玄監督を森山大道氏が撮影

1966年北海道生まれ。
テレビ局に入社後、ゴールデンタイムで多くのドキュメンタリー番組を企画・制作・演出。数々の話題作・ヒット作を手掛ける一方、美術番組やアート紀行番組なども監督。ギャラクシー賞・ATP特別賞など受賞多数。
1996年に美術番組「路上の犬は何を見たか? 写真家 森山大道1996」を制作。撮影行程から暗室作業まで、制作プロセスを克明に記録した。森山大道を捉えた記録としてはもっとも古く、非常に貴重なものである。およそ4半世紀後、森山との親交を昇華させた本作は、初の劇場用ドキュメンタリー映画となる。

『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道』

監督・撮影・編集:岩間玄
出演:森山大道、神林豊、町口覚ほか
音楽:三宅一徳
プロデューサー:杉田浩光、杉本友昭、飯田雅裕、行実良
制作・配給:テレビマンユニオン
配給協力・宣伝:プレイタイム
企画協力:森山大道写真財団ほか
印刷協力:東京印書館、誠晃印刷
2021年/日本/112分/5.1ch/スタンダード/DCP/G
©『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』フィルムパートナーズ
2021年4月30日(金)より全国順次公開(上映劇場は公式サイトにてご確認ください)

映画『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道』公式サイト

岩間 玄(映画監督)|note

※岩間玄監督が撮影時のエピソードを綴っています。

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