「ブルーライトカット眼鏡」は子供に悪影響。じゃあ大人は?医師に聞いた

 スマホやパソコンの画面から発せられる“ブルーライト”から目を守るアイテムとして人気が高い「ブルーライトカット眼鏡」。最近は大人だけでなく、子ども用の商品も販売されています。

 そんななか、日本眼科学会、日本眼科医会、日本近視学会など6団体が共同で「小児のブルーライトカット眼鏡装用に対する慎重意見」を4月14日に発表しました。

「子どもにブルーライトカット眼鏡の装用を推奨する根拠はない」「むしろ発育に悪影響を与えかねない」と注意を促したのです。この声明について「子どもの目を守るにはどうしたらいいの?」「大人についてはどうなの?」など疑問の声も聞こえてきます。

 そこで今回は、和歌山県のさとう眼科院長・佐藤昌昭氏(日本眼科学会認定眼科専門医)に、今回の発表について詳しい話を聞いてみました。

◆「推奨する根拠なし」発表の内容は

 巷で販売されているブルーライトカット眼鏡は、デジタル端末使用時の睡眠障害や、眼精疲労の軽減、眼球への障害を予防すると謳っています。

 今回の発表では「体内時計とブルーライトの関係についてはいくつかの論文があり、夜遅くまでデジタル端末の強い光を浴びると、睡眠障害をきたす恐れが指摘されている。従って、夕方以降にブルーライトをカットすることには、一定の効果が見込まれる可能性はある」としながらも、その他の点はエビデンスに乏しいとし、下記4つの問題点を挙げています。

①デジタル端末の液晶画面から発せられるブルーライトは、曇天や窓越しの自然光よりも少なく、網膜に障害を生じることはないレベルであり、いたずらにブルーライトを恐れる必要はないと報告されています。

②小児にとって太陽光は、心身の発育に好影響を与えるものです。なかでも十分な太陽光を浴びない場合、小児の近視進行のリスクが高まります。ブルーライトカット眼鏡の装用は、ブルーライトの曝露自体よりも有害である可能性が否定できません。

③最新の米国一流科学誌に掲載されたランダム化比較試験では、ブルーライトカット眼鏡には眼精疲労を軽減する効果が全くないと報告されています。

④体内時計を考慮した場合、就寝前ならともかく、日中にブルーライトカット眼鏡をあえて装用する有用性は根拠に欠けます。産業衛生分野では、日中の仕事は窓ぎわの明るい環境下で行うことが奨められています。

 こういったことから、子どもたちにブルーライトカット眼鏡の装用を推奨する根拠はなく、むしろブルーライトカット眼鏡装用は発育に悪影響を与えかねないとの見解を示しています。

◆今回の発表は大人にも言える?

――今回の発表がなされた背景を教えてください。

佐藤昌昭先生(以下、佐藤):まず、2021年3月に米国眼科アカデミーから、ブルーライトが目に損傷を与えたり眼精疲労の原因になることの科学的証拠はなく、アメリカではブルーライトカット眼鏡は推奨しないとの意見が出されたということがありました。

 また、日本では文部科学省が推し進めるGIGAスクール構想(1人1台の端末とICT環境の整備で公正な子どもたちに教育環境を目指すもの)によるデジタル授業の本格化を背景に、目への影響が不安視され、さらには大手メーカー「JINS」がブルーライトカット眼鏡を渋谷区の小中学生に寄贈するという発表が3月にあったことで「現時点で分かっている正しい情報」を知ってもらうために、日本眼科医会を含む6団体から今回の発表がなされました。

――文書の①〜④について、これはすべて成人にも当てはまるものだと考えていいでしょうか?

佐藤:①「デジタル端末から発せられるブルーライトは網膜に障害を生じることはないレベル」と、④「体内時計を考慮した場合、就寝前ならともかく日中にあえて装用する有用性は根拠に欠ける」は大人にも当てはまりますが、成人では子どもと比較して近視化は起こりにくく、②「近視進行のリスクが高まる」は当てはまらないと考えられます。ただ、スマホ等の近見作業が多くなることでの大人の近視化は問題視されています。

③「眼精疲労を軽減する効果がまったくない」については、眩しさやちらつきが軽減することで画面が見やすくなるならば、眼精疲労緩和になるのではないでしょうか。それよりも大人の場合、調節力が落ちてくるので、眼鏡の度数を合わせる方ほうより有効だと思います。

◆子どもの目を守るために、親ができること

――ブルーライトカット眼鏡の装用によって効果がのぞめる症状とは、どんなものでしょうか?

佐藤:体内時計とブルーライトの関係が指摘されており、年齢に関係なく就寝前の装用により睡眠障害を軽減できるのではないでしょうか。ただ、ブルーライトカット眼鏡の使用うんぬんよりは、就寝1時間前からはデジタル機器を見ることを控えるほうが重要ですよね。

 外来では大人の患者から、ブルーライトカット眼鏡を使用することで、パソコン画面の眩しさやちらつきが軽減し、コントラストがよくなって見やすくなったなどの意見はよく聞きます。

――子どもの目を守るために、親ができることは何ですか?

佐藤:スマホを見る距離と時間でしょう。子どもはスマホを20cm前後で見ることが多いようです。これを30cm以上にするだけでも目への負担は減少し、近視化を軽減できます。アメリカ眼科学会では、20分間継続して近くを見たあとは20フィート(およそ6m)以上離れたものを20秒間眺める「20-20-20」ルールを推奨していますが、私も外来ですすめています。

――多くの人が眼精疲労や網膜障害を防ぐためにブルーライトカット眼鏡を装用していると思います。仕事などでデバイス機器を長時間使用する人が、そういった症状を防止するにはどうしたらいいですか?

佐藤:まずは「20-20-20」ルールと画面との距離(姿勢)を心がけることでしょう。画面に集中することでまばたきが減少し、ドライアイ症状が引き起こされます。

 ドライアイの症状としては、異物感・灼熱感・眼痛・眼精疲労・圧迫感・流涙感などがありますが、目の周囲を温める(温罨法)ことでまぶたの血流をよくしたり、マイボーム腺(まぶたにある脂を出す腺)のつまりを軽減することで、ドライアイ症状を緩和することができます。温めましょう!

<取材・文/鴨居理子>

2021/5/1 8:45

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