JRA3兆4億円……。公営競技売り上げ爆増の理由はコロナ禍だけじゃなかった

◆3兆円も馬券を売ったJRA

 3兆4億円……。昨年のJRAの発売金、つまり馬券が売れた額である。JRA自らの開催レースでは2兆9927億前年比103.5%であったが、海外競馬の発売で3兆円に到達した。3兆円達成は平成15年以来の17年ぶりとなる金額であり、今年も好調に発売金を伸ばしている。そして、伸びているのはJRAだけではない。

・ボートレース 2兆951億円 前年比135.7%(平成3年度に次ぐ歴代3位)

・地方競馬 9122億円 前年比130%(平成3年度以来の9000億超え)

・競輪 7499億円 前年比113.6%

・オートレース 946億円 前年比128.1%

※JRAは令和2年(令和2年1月〜12月)、他は全て令和2年度(令和2年4月〜令和3年3月)

 そう、全ての公営競技で売り上げが伸びているのだ。すでに理由として「コロナ禍での巣篭もり需要」という報道が出ているのが、そこには別の理由も存在していることはご存じだろうか。

◆コロナ禍前からすでに売上は回復 ネット投票が柱に

 コロナ禍の巣篭もり需要という評価が誤りというわけではないが、そもそも近年はネット投票の普及が進み、どの公営競技も売り上げは上昇傾向であった。JRAの場合も平成24年に2兆3943億だった発売金から前年比プラスが続き、プラスは令和2年まで連続9年目で継続中だ。

 中身を見てみると平成27年にネット投票加入者の上昇ペースが加速していることがわかる。平成19年から26年までほぼ300万人と横ばいだった利用者数が令和2年まで毎年増加を続け現在506万人まで増加したのである。

 JRAの場合を見るに、コロナ禍よりだいぶ前からネット投票利用者が増えていたため発売金の上昇は毎年3%前後で令和2年もあまり変わらず3.5%。コロナによって入場者数が99万人(前年比ー15.9%)と大幅に落ち込んだにもかかわらず、すんなり多くのファンがネットで買える環境が整ってきたことが大きな影響を与えていると考えたほうが合点がいく。

 だが、ボートレースなど、競馬以外の他の公営競技はコロナ禍による巣篭もり需要が確実にあったと推察できる。ボートレースの場合は平成25年度から売り上げは上昇を始め、その度合いも年々大きくなっていた。順番に3%、5%、7%、11%、11%、12%、そして昨年度の35.7%である。

 年々上昇率が上昇しているが、昨年はそれが倍以上に加速されていた。毎年の経営努力に加えて、コロナ禍による巣篭もりで新たなファンも獲得した相乗効果と言えるだろう。JRAは基本土日しか開催しておらず、平日も巣篭もりとなった状況で毎日開催がたくさん行われているボートレースこそ、巣篭もり需要を満たすエンタメとして役目を果たした、と言ってよいのではないだろうか。

 他の公営競技もボートレースほどではないが同様にコロナ禍でネット投票が加速した。数字を見ると、やはり土日以外の時間が生まれたファンにレースを提供できていることの大きさが伺える。

◆平日だけではなく朝・夜も ソシャゲと変わらぬ手軽さに

 コロナ禍の影響は平日の巣篭もりだけではない。通勤がなくなった、外に出なくなったことで朝と夜に時間が生まれたという人の比率も上がっており、これに対しJRA以外の公営競技では早朝レースやナイター、深夜レースの開催がファンの心を満たしている。

・早朝レース(モーニング) ボートレース/競輪/(一部地方競馬)

・ナイター 地方競馬/ボートレース/競輪/オート—ス

・深夜レース(ミッドナイト) 競輪/オートレース

 夜中(深夜0-朝8時)以外は現在何かしらのレースが常に行われている。平日休日・朝夜問わずほぼ多くの人の生活サイクルのなかで、どれかのレースには参加できる状況となっており、それがスマホ1台で楽しむことができるのだ。JRAは有料だが、他の公営競技ではレース映像も無料でネット生放送されている。これは言うなればソシャゲを楽しむこととほとんど変わらない環境で、こういったサービスが近年整備されていることが現在の売り上げ上昇のメインの理由だ、ということだ。

 さらに公営競技はレースの時間だけが楽しいワケではない。予想する時間もエンタメだ。前日に走るメンバーが決まり、そこから予想する時間として夜中もファンにとっては楽しい時間であり、前日投票、前売投票もできることを考えると、実質365日24時間、どこからでも参加できる。

 そして、レースが行われる時間が仕事と重なりリアルタイムで見られないとして、必ずしもリアルタイムで見る必要はない。結果を通知で受けたり、あとでレースを見ることが可能だ。そう、これはソシャゲのジャンルでいえば「放置ゲー」と一緒。仕事が一段落してから、ゆっくりリプレイ・ダイジェスト映像を見ればよいのだ(JRAもリプレイは無料でネットで閲覧可能)。

 リアルタイムプレイも、放置ゲーにもできるわけで、公営競技ネット投票はある意味で最強のソシャゲと化していたといっても過言ではないのである。

◆巣篭もり需要は加速装置でしかない

 結局、コロナ禍による巣篭もり需要は売り上げの後押し、加速装置でしかない。そもそもネットで楽しめる環境がそれまでに整っていなかったならば、ここまで加速できなかったはずなのである。昔は電話投票に加入するにも抽選で、保証金を用意する必要があった時代からは想像できない手軽さで、主要銀行口座さえあれば数分でネット投票を開始でき、レースも視聴でき、予想に必要な情報も揃う。

 今、競馬ではウマ娘の効果で今年も売り上げは上昇の一途であるが、ファンが気になったらすぐに買えてレースを楽しめるという「環境を揃える努力」が土壌として存在していたからこそ、今の好調な売り上げと、いつでも楽しめる状況が生まれたのだということを忘れてはいけないのだ。 <取材・文/佐藤永記>

―[公営競技生主・シグナルRightのひたすら解説]―

【佐藤永記】

公営競技ライター・Youtuber。シグナルRightの名前で2010年、ニコ生で全ての公営競技を解説できる生主として話題に。現在はYoutube「公営競技大学」を運営。子育てやSE業界の話題なども扱う。Twitter:@signalright

2021/4/29 8:29

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