夏目アナ引退へ。「すれ違い」をツブさないと結婚はうまくいかないのか
<亀山早苗の恋愛時評>
次々と報道される有名人の結婚離婚。その背景にある心理や世相とは? 夫婦関係を長年取材し『夫の不倫がどうしても許せない女たち』(朝日新聞出版)など著書多数の亀山早苗さんが読み解きます。(以下、亀山さんの寄稿)
◆「すれ違い」を潰さないと結婚はうまくいかないのか
4月1日に結婚して世間をにぎわせた、タレントの有吉弘行さん(46歳)とフリーアナウンサーの夏目三久さん(36歳)。以前噂になったときから5年、ふたりの愛は深く静かに続いていたようだ。
先日、ふたりはテレビ番組に出演、その中で秋には夏目さんが仕事を辞めて引退すると話した。祝福の声がある一方で、一部の女性たちからは、「報道という仕事に就いていながら、やはり女性が仕事を辞めて引退、という結論になるのか」とがっかりする意見もある。
その理由として、有吉さんは「みんなの話を聞くと離婚の原因って、すれ違いか価値観の違い。価値観は仕方ないとしても、すれ違いのほうは(そうならないように)つぶしておくかみたいな」としている。
すれ違いとは生活時間や生活環境のことだろうか。仕事によっては1週間も顔を見ない夫婦も多々いるが、実際にはそれによって離婚にまで追い詰められることがあるのだろうか。
◆最初から時間がすれ違うとつらい
「結婚当初から“すれ違い”が起こることはわかっていたものの、なんとか乗り切れると思っていたんです」
そう言うのは、ナオミさん(34歳)だ。30歳のときに同い年の男性と1年の交際を経て結婚した。つきあっている間も時間的なすれ違いが多かったため、一緒に住んだほうがせめて寝顔だけでも見られると思ったのだそう。
「夫は友人と一緒に会社を経営しているんですが、欧米との取引が多いので、半日ずれている感じなんですよね。
結婚後は職住接近にしたのですが、夫が出社するのは午後から。仕事が大好きなので、そのまま朝近くまで会社にいることも。私が出社するころ帰ってくることもありました。いちばんひどいときは10日もしゃべってなかった」
数ヶ月たって、このままだとよくないねと話し合った。だが、夫は当時、仕事が乗っていて本人もすべての時間を仕事に注入したいというほど。
「男女問わず、仕事の波が来ているというときはあると思います。その気持ちは私もわかるので、思い切って仕事してと励ましたんです。週末はなるべく休むからと言っていましたが、休めるのは日曜日の午後くらいでしたね」
◆夫がいる意味を見いだせなくなり離婚
それでも一緒に出かけることもあった。ナオミさんが行きたかった店で食事をしたり、一緒に観たかった美術館に行ったり。
「だけどあるとき、美術館で彼が歩きながら居眠りをしかけたんです。それを見て、無理させちゃいけないと思いました」
週末は彼を休ませ、彼女はひとりでスポーツジムや映画館に出かけた。そうしているうちに、夫がいる意味を見いだせなくなっていったという。
「結婚して1年半ほどたったとき、久々に顔を見た夫に『私たちってどうして一緒にいるんだろうね』と問いかけたら、夫も『そうだね』って。それで離婚の方向に一気に傾いていきました」
元夫とは今もいい友だちだ。だがこの春、ナオミさんは別の男性と再婚を決めた。
「今度は週末が休みで、仕事は好きだけどプライベートな生活はもっと大事という人と結婚しました。最初の結婚みたいに顔を見ない日が続くこともないし、とても楽しく暮らしています」
時間のすれ違いは、やはり心のすれ違いを生んでいくものなのかもしれない。
◆長くなってからの「すれ違い」はかえっていい結果に?
一方、結婚生活が長くなれば、すれ違いはかえっていいスパイスになると笑うのは、シノブさん(43歳)だ。結婚して14年、中学生になった娘がいる。
現在はコロナの影響もあって東京本社勤務となっているが、シノブさんは昨年夏まで単身赴任をしていた。
「ええ、夫ではなく私が単身赴任です。2年ほど大阪にいました。当時、娘は10歳だったし、関西への単身赴任なんて無理だから断ろうと思ったんです。だけど夫に話したら、『チャンスなんだろ、行けばいいよ』って。
夫の仕事は早朝から昼過ぎまで。以前から夕飯の支度は夫がしてくれていたんですが、朝食は寝る前に用意しておけばいいし、洗濯だって掃除だってなんとかなるさと。娘は寂しそうでしたが、夫が『おとうさんとふたりで仲良く暮らそう』と言うと、にやっと笑ってうなずいていました。
週末はなるべく東京に戻ってくると約束して単身赴任で働きました。独身時代に戻ったみたいで、けっこう飲み明かしたりもして楽しかったですね」
◆「うちの夫、わりといい男なんじゃないか」
その代わり、毎日、娘と夫とのテレビ電話は欠かさなかった。週末もどんなに忙しくても月に2、3回は帰ってきた。夫と娘がシノブさんの元に来たこともある。
「もともと共同生活をしていく上で協力しあっていたし、夫との仲も悪いわけではありませんでした。でもお互いに、相手を異性として見ることはできなくなっていた。でも単身赴任してわかったんです。うちの夫、わりといい男なんじゃないかと(笑)。
夫にそう言ったら『シノブもいい女だよ』って。離れてすれ違ってみたら、気持ちが戻ったというか。それまではお互いに、いて当たり前の存在だったんでしょうね。マンネリでもあったし」
◆すれ違いが功を奏した
昨夏、彼女は予定を半年ほど繰り上げて東京へ戻った。これからは当分、家族3人、自宅で暮らせると思うと、新鮮な気持ちになったという。
「今は娘にからかわれるくらい、夫と仲良くしています。離れていた時間があるから、恋人気分が戻ってきたんじゃないかと思うんです。私たちにとっては、結婚11年目でのすれ違いが功を奏したんでしょうね」
マンネリになった夫婦が物理的に離れてみると、自分にとって配偶者とは何だろうと考えるものだとシノブさんは言った。再度、夫を選び直し、よりよい関係を築いていこうという気持ちになれるのかもしれない。
<文/亀山早苗>
【亀山早苗】
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio