突然、束縛が激しくなった彼氏。暴走が止まらない男は、ありえない提案をしてきて…?

知らず知らずのうちに、まるでバンパイアのように男からエネルギーを吸い取る女。

人は彼女のことを、こう呼ぶ。「エナジーバンパイアだ」と。

付き合ったら最後、残された者には何も残らない。それでも自分が踏み台にされていることを分かりつつ、彼女に執着してしまう。

気づけばもう、次なるターゲットのもとに行ってしまっているというのに。

…誰か教えてくれないか。あの子を忘れる方法を。

◆これまでのあらすじ

えりかに舞い込んできた仕事をきっかけに、二人の関係はギクシャクし始めてしまった。そんなタイミングで、えりかは大学時代の後輩・智也とバッタリ遭遇してしまい…?

▶前回:「こんなんじゃ不完全燃焼だよ…」女がモヤモヤを抱えたまま、帰宅しなければならなかったワケ

えりか「余裕があって大人な彼が好きだったのに…」


「えりかさ。今日、食事にでも行かない?」

智也とバーで出会ってから2週間ほど経った頃。いつものシェアオフィスで、涼太から声をかけられた。

「あっ、ごめんなさい。今日は先約があって…」

えりかは、なるべく不自然にならないように答える。今日は智也と会う約束をしているのだ。

「なんか最近付き合い悪くない?」

彼にしては珍しく、高圧的で口調が強い。

確かに果樹園の案件以来、えりかからデートに誘うことはなくなった。それに涼太が誘ってくるときも、なかなかタイミングが合わないことが続いている。

「家族と会う約束があるんです。今度、埋め合わせするから…」

えりかは、とっさに嘘をついた自分に驚いた。

― 別に彼のことを、涼太に隠す必要はないのに。

智也とは、再会してから2回ほど飲みに行ったが、涼太に隠すような関係にはなっていない。

「そっか。それなら仕方ないけど。誰かほかに男でもできたのかと思ったよ。そういうの、ナシだからね」

涼太は冷たい口調のまま言うと、その場を立ち去った。

― えっ。なんなの、今の態度?

えりかは瞬間的に、そんな彼に対してイラッとしてしまった。そしてこの一件から、涼太の態度はガラリと一変したのだ。

涼太が見せた、まさかの態度とは…。

涼太はこの日を境に、えりかのことを激しく束縛するようになってしまったのだ。そして、これまで見せてきた“年上としての余裕”は、微塵も感じられなくなってしまった。

そんなある日のこと。

誘いを断りきれずに、彼と二人きりでランチへ行くことになった。…涼太の束縛は日に日に激しくなっていたこともあり、正直あまり乗り気ではなかったのだが。

― 仕事だけが男性のすべてじゃないんだから。プライベートの時間を楽しめる関係でもいいじゃない。

えりかは自分にそう言い聞かせ、渋々彼と会うことにした。しかし彼は、そんな気持ちにはまったく気づかず、こんなことを言ってきたのだ。

「これからはさ。俺といないときの予定、全部教えてくれる?」

「…はい?」

あまりに突然のことで、えりかはすっとんきょうな声を出してしまった。

「いま言った通りだよ。えりかが今どこで誰と何をしてるのか、把握しておきたいんだ」

涼太は、さも当たり前かのように言ってくる。

「どうして…」

「よく考えてみなよ。そもそも俺たちが付き合い始めたのだって、身体の関係はなかったけど、半ば浮気みたいなものだったよね?えりかの恋人として、心配するのは当然のことだと思わない?」

「そうだけど…」

恐ろしいほど真面目な顔で言ってくるので、えりかは自分が悪いことをしているのではないかと思ってしまい、うまく反論できない。

「じゃあ、そういうことだから。今日家に帰ったら、スケジュール共有してね。…ほら、せっかくの料理が冷めちゃうよ?食べなよ」

そう言って料理が盛られたお皿を差し出されたが、まったく食欲が湧いてこず、ほとんど手をつけないまま時間だけが過ぎていく。

一方の彼は、特にいつもと変わらない様子でいる。そんな姿が、逆にえりかを恐怖に追い込んだ。


― これじゃあ、プライベートも何もなくなっちゃうよ。余裕があって大人な彼が好きだったのに。

その日の帰り道。タクシーに乗る気にもならず、えりかはトボトボ歩きながら思考を巡らせていた。

“何もかも自分で決めて、全部自分の自由にやる”というのは、えりかが生きる上で大切にしていることだ。誰かに行動の制限をされたり、ましてや束縛されるなんてことは絶対にありえない。

それは、いくら恋人の涼太であっても例外ではなかった。

彼は自分のプライドを守るため、知らず知らずのうちに、えりかの地雷を踏んでしまったのだ。

痺れを切らしたえりかは、ついに…。

涼太「彼女に何もかも、奪われてしまった…」


「涼太さん、ごめんなさい。別れてほしい」

えりかに誘われ、カフェでアイスコーヒーを飲んでいたときのこと。いきなり彼女から、別れを切り出された。

昨夜自宅に帰った後「スケジュールを共有してほしい」とLINEのメッセージを送っても返事はなく、ただ「会ってほしい」とだけ連絡が来ていたから、嫌な予感はしていた。

しかし、まさかフラれるなんて予想もしていなかったのだ。涼太は一瞬何が起こったのかわからず、汗をかいているアイスコーヒーのグラスを見つめることしかできない。

「なんだ、また男かよ?」

涼太は、これまで女性からフラれるという経験をしたことがなかった。だからプライドばかりが先行してしまい、思ってもないことを言ってしまう。

するとその瞬間、えりかは目を見開いた。そして、こちらを睨みつけてくる。

「私のこと、最後まで信用してくれないんだね。私は余裕があって、なんでもそつなくこなす涼太が好きだったの。自分のことしか考えていない、いまの涼太は好きじゃない。…だから別れてほしい、それだけです」

えりかは人目も気にせず、一気に捲し立ててくる。隣の席の人たちが、二人の様子をチラチラと伺っているのがわかった。

― こんな状況、とてもじゃないけど耐えられない。

「お前みたいに気が強くて、可愛げのない女なんてこっちから願い下げだよ。どのみち近々別れるつもりだったし、むしろ切り出してくれて助かったわ」

悔しさから涼太はそう言うと、グラスを叩きつけるように置く。

「…じゃあ、俺はもう行くわ。これまで散々奢ってきたんだし、最後くらいお前払っておけよ」

そうして足早に、カフェを後にした。

このとき、彼女が最後に見せた“憐れむような表情”は、いつまでも脳裏に焼き付いて離れなかった。


「大変申し訳ございませんが、今回のお話はなかったということに…」

― なんなんだよ。

涼太は、えりかが来なくなってから一人で利用しているオフィスの一角で舌打ちをする。彼女と別れてしばらく経ったが、フラれて以来まったくと言っていいほど仕事がうまくいかない。

― これじゃあまるで、えりかが全部奪っていったみたいじゃないか。

「そんなこと、ありえないよな…」

そう小さくつぶやいて、ネガティブな考えを振り払おうとする。しかしその瞬間、脳内に裕紀の姿が浮かんできたのだ。

― あいつも、えりかと付き合いだしてから狂っていったよな…?

涼太は“ただの美女”だと思っていたえりかのことが、急に恐ろしくなり始めた。

彼女はいま、どこで誰と何をしているんだろう。

エネルギーをすべて吸い尽くされ、抜け殻となってしまった涼太は、デスクの前でぐったりとうな垂れていた。


Fin.


▶前回:「こんなんじゃ不完全燃焼だよ…」女がモヤモヤを抱えたまま、帰宅しなければならなかったワケ

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