【松居大悟最新作】答えの出せない時間に宿る価値を示す友情と青春の物語『くれなずめ』

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『君が君で君だ』『バイプレイヤーズ』の松居大悟監督が主宰する劇団ゴジゲンの同名舞台作品を、成田凌主演で映画化。友人の結婚式で再会した6人の男たちの過去と現在が交錯する人間模様を通して、答えが出せずにいる時間に漂う価値に気が付かせてくれる作品です。4/29(木・祝)公開ですが一足早く見どころをご紹介!

あらすじ

 優柔不断だが心優しい吉尾(成田凌)、劇団を主宰する欽一(高良健吾)と役者の明石(若葉竜也)、既婚者となったソース(浜野謙太)、会社員で後輩気質の大成(藤原季節)、唯一地元に残ってネジ工場で働くネジ(目次立樹)、高校時代の帰宅部仲間がアラサーを迎えた今、久しぶりに友人の結婚式で再会した! 満を辞して用意した余興はかつて文化祭で披露した赤フンダンス。赤いフンドシ一丁で踊る。恥ずかしい。でも新郎新婦のために一世一代のダンスを踊ってみせよう!!そして迎えた披露宴。…終わった…だだスベりで終わった。こんな気持ちのまま、二次会までは3時間。長い、長すぎる。そして誰からともなく、学生時代に思いをはせる。でも思い出すのは、しょーもないことばかり。「それにしても吉尾、お前ほんとに変わってねーよな。なんでそんなに変わらねーんだ?まいっか、どうでも。」そう、僕らは認めなかった、ある日突然、友人が死んだことを─。

劇団ゴジゲンの同名舞台作品を映画化

 松居大悟監督が主宰する劇団ゴジゲンが、2017年に上演した舞台作品を映画化した本作。当時、僕はその舞台を目にしていた。それもそのはず、ゴジゲンの劇団員の一人、東迎昂史郎とは10年来の友人であるからだ。そのため、2009年頃からゴジゲンの舞台をずっと観劇し続けており、『君が君で君だ』に登場した3人の男たちの如く、松居大悟監督という存在を一方的に覗き続けてきたのである。(先日やっとお仕事でご一緒できたので、覗き見は終了しました。)

松居大悟監督と。

『君が君で君だ』

 話の大筋は舞台版と変わらぬため、予めおおよそのストーリー展開は把握できていた。本作におけるギミックとも呼ぶべき部分に関しても認識できていた。であるにも関わらず、舞台版に負けず劣らずの、非常に胸打たれるものが本作には宿っていた。舞台には舞台ならではの良さがあるように、映画には映画ならではの良さがあり、現在と過去の人間模様が入り混じるこの『くれなずめ』という作品においては、映画という表現方法はとても相性の良いものであったのかもしれない。そして、ゴジゲンの舞台を観劇し続けてきた者としては、成田凌や高良健吾といった錚々たる面子が集まったメインキャストの中に、ゴジゲンの劇団員・目次立樹が名を連ねていることが誇らしくてたまらなかった。ご覧になられた方も多いと思いますが、『アルプススタンドのはしの方』で声をからしながら応援をしていた先生を演じていたのも、目次立樹である。(『アルプススタンドのはしの方』の脚本は、ゴジゲン劇団員の奥村徹也。)

『アルプススタンドのはしの方』

 また、これまで原作や原案がある作品を数多く手掛け、オリジナル作品を手掛けたとしても、ゴジゲンの要素が絡んでくるのは『君が君で君だ』のみであったが(『君が君で君だ』のもとになったのは、ゴジゲンの第11回公演「極めてやわらかい道」)、ゴジゲンで公演した舞台作品を、タイトルもそのままに映画化したというのが、今までの松居監督作品においてはなかったこと。本作に触れることで、ゴジゲンという劇団の存在を、その片鱗をあなたにも感じ取って欲しい。もしも本作が気に入った暁には、是非とも松居監督が主催するゴジゲンの舞台にも触れてみて頂きたい。

只の青春映画では終わらない怪作

 子供から大人になっていく過程で、ありとあらゆる物事が変わっていく。変わらないものも中にはあるが、そんなものは一握り。人間関係も、価値観も、味覚も、生き方も、良くも悪くも変わっていく。そんな感覚が、あなたにもないだろうか。作品の出来不出来によるところも大きいが、いつからか“青春ノリ”が色濃く顔を出す青臭い作品が苦手になってきた自分がいる。10代や20代前半の頃まではあんなに大好きだったはずなのに、30代に突入してからというもの、「あぁ、それね」「そういうのもう良いから…」と、どこか冷めてしまっている自分がいる。それはもしかしたら好みや趣味嗜好の領域の話でしかないのかもしれないが、10代や20代の頃であれば難なく受け入れることができたものを、素直に受け止め切れなくなってしまった今がある。

©2020「くれなずめ」製作委員会

 だが、本作に関してはそんな不安を抱く必要が全くなかった。あの頃特有の若さや青春ノリを内包した世界観であることは間違いないのだが、先述した感覚や不安を抱いている人であっても楽しめる作りになっていた。それは、学生時代をはじめとした過去と大人になった今の二つの軸があるからこそ成立していた部分でもあるのだが、予告編でも匂わされているように、一筋縄ではいかない不可思議な要素がこの物語には宿っており、一口に「若者向けの青春映画」として括ることのできない希有な人間ドラマが展開されていくからである。

©2020「くれなずめ」製作委員会

 また、その要素は一見奇をてらったものに感じられるかもしれないが、決してそんなことはないと思う。一種のファンタジー描写とも受け取れるが、自然と物語の中に、彼らの人間模様の中に溶け込み、不思議とその異質さは軽減され、気付けばその要素をまるごと受け入れた上で彼らの姿を追ってしまう。そんな風に、現実と虚構を見事に調和させた人間ドラマを展開させているのが、この作品のスゴいところ。

©2020「くれなずめ」製作委員会

あえて答えを出さないこと

 本作のタイトル「くれなずめ」。それは、日が暮れそうで中々暮れないでいる状態を指す「暮れなずむ」を命令形にした造語であるのだが、劇中において映し出されていく人間模様は、まさにその言葉が指し示す通りのもの。

©2020「くれなずめ」製作委員会

 無論、どんな事柄においても、答えを出さなければならない瞬間は訪れるし、必ず終わりの時はやってくる。でも、すぐに答えを出したり、焦って決断を下す必要はないのかもしれない。むしろ、答えを出さずに悶々と過ごしていく日々の中からこそ、納得のいく答えは生まれ出づるもの。まだ終わらないで済む内は、無様でも留まっていられるのなら、存分に足踏みを続けたって良い。描かれていく人間模様を通して、そんな道理がひしひしと伝わってくることだろう。

©2020「くれなずめ」製作委員会

 曖昧でいる時間、ハッキリとしない様、中途半端な状態。それらを良しとしない風潮が世の中には確実にあるし、それでは許されない事柄も大いにある。ただ、そういった時間の中にしか宿り得ない価値があることを、その時間の中でしか分かち合えないものがあることを、何かを割り切ったり押し殺したりするのではなく、自然とそれらに囚われる必要がなくなる状態にまで達することにこそ意味があるのではないかと、現実と虚構が入り混じる6人の男たちの不可思議な友情が思わせてくれるに違いない。

©2020「くれなずめ」製作委員会

総合評価

©2020「くれなずめ」製作委員会

 あなたが今何かに思い悩んでいるのなら、答えを出せずに塞ぎ込んでいるのなら、曖昧な関係に疲れ果てて心が参っているのなら、この作品を観て欲しい。周囲の人たちは「前を向け」と、「次へ進め」と、「切り替えろ」と言うかもしれないが、この作品だけは今のあなたを肯定してくれる。後押しするわけでもなく、そっと背中を押すわけでもなく、黙って隣にいてくれる。今のあなたを、等身大のあなたを、ただそこで認めてくれる。そんな距離感の映画、中々出逢えるもんじゃない。気心知れた友達に会うような、心地良くて優しい作品です。ぜひ劇場でご覧ください。

青春★★★★
恋 ★
エロ★
サスペンス★★
ファンタジー★★★
総合評価:A

『くれなずめ』
4/29(木祝) テアトル新宿他にて全国ロードショー
監督・脚本:松居大悟
出演:成田 凌 若葉竜也 浜野謙太 藤原季節 目次立樹/飯豊まりえ 内田理央 小林喜日 都築拓紀(四千頭身)/城田 優 前田敦子/滝藤賢一 近藤芳正 岩松 了/高良健吾
主題歌:ウルフルズ「ゾウはネズミ色」(Getting Better / Victor Entertainment)
配給・宣伝:東京テアトル 制作プロダクション:UNITED PRODUCTIONS 
特別協力:エレファントハウス 
製作:「くれなずめ」製作委員会(UNITED PRODUCTIONS ハピネット 東京テアトル Fly Free Entertainment  カラーバード) ©2020「くれなずめ」製作委員会
公式サイト:kurenazume.com  
公式Twitter:@kurenazume 
公式インスタグラム:@kurenazume

©2020「くれなずめ」製作委員会

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