『音楽』『ゾッキ』etc. 続々と映画化される人気漫画家・大橋裕之の不安と本音

 豪華すぎる映画『ゾッキ』が話題だ。俳優の竹中直人、山田孝之、齊藤工の3人が監督を務め、キャストは吉岡里帆、竹原ピストル、安藤政信、ピエール瀧、松井玲奈、石坂浩二、松田龍平、國村隼ほかが集結。音楽監督をCharaが務めるなど、これ以上ないメンバーが集まった。

 彼らを動かした原作漫画『ゾッキA』『ゾッキB』(カンゼン)は、大橋裕之の初期作品集。「目」が特徴的な画風で、生きることのおかしみや哀しみをシュールに描く。昨年、『音楽』がアニメ映画化され、現在公開中の映画『街の上で』では今泉力哉監督と共同脚本を務めるなど、絶好調に見える彼がこぼす不安と本音とは。

◆原作と別物になるのは当たり前で、むしろそうなってほしい

――映画『ゾッキ』はオムニバス形式の長編作品としての実写化となりましたね。

大橋:原作では独立した短編なので、最初聞いた時は驚きました。でも、『ゾッキ』は初期の作品ということもあり、自分自身「これで完成形だ!」と思って描いていないというか、100点満点の図がないので、どう変化してもいいと思っていて。完全な漫画の再現を求めるなら自分が作ればいいし、別物になるのは当たり前で、むしろそうなってほしいというか、監督の好きな感じにやってほしいなあと思っていました。

 そもそも竹中直人さんが偶然手に取らなかったら、ただちょっと変わった漫画を描いただけですから。作品を認めてもらえるのはもちろん嬉しいですが、地元蒲郡が舞台になって、描いていた時は想像できないような形で喜びが周囲にも広がったので、実写化されてよかったなあと思いました。

――実写化にあたって、何か要望を伝えたりされましたか?

大橋:ほとんどしてないです。あ、でも、最初の脚本だと「ゲボ野郎」というセリフが多い気がして、「もう少し減らしたほうがいいんじゃないですか」とは言いました。意図したわけではないんですが、決めゼリフみたいに扱われることがあります。

――昨年は『音楽』、過去に『シティライツ』も映像化されています。映像化と相性がいいんでしょうか?

大橋:なんでしょう。単純に絵があまり描き込まれていなくて、設定や結末に余白が多いというか、膨らませる余地があるからかな。

◆この適当さがあるからここまでやってこられた

――意識的に余白を?

大橋:いえ。オチが思い付かないからこれで終わらそうとか、途中で諦める時もあります。描き始めた時から今まで、「この感じで大丈夫でしたらよろしくお願いします」と思ってやっているので、「もうちょっと描き込まないと漫画として成立しないって言われたら、続けられていないかも。

――大橋さんの作品には、単行本をまたいで繰り返し登場するキャラクターがいますが、どうしてですか?

大橋:思い入れが強いとも言えますが、おそらく使い勝手がいいからですね。絵柄にしても内容にしても、あんまり突き詰めると描き出すこともできなくなっちゃうので、この適当さがあるからここまでやってこられたんだと思います。

――キャラクターの豊かともぶっきらぼうともとれる表情も特徴的です。

大橋:あまり大げさな感じで笑いをとるのは違うというか、したくないので、あえてキャラクターの喜怒哀楽がわからない表情にすることはよくあります。あと、「ここが面白いシーンだよ」っていうのをしっかり表すのが恥ずかしいと思っているところがあるので。

――「恥ずかしい」というのは?

大橋:恥ずかしいという言葉が適切なのかどうかわからないけど、「俺は何をやってるんだろう」みたいに思うことはあります。もう10年以上描いていて当たり前になってしまいましたけど、「よく考えたらなんでこんな目の描き方をしてるんだろうって。ふと立ち止まって考えると、やっぱり恥ずかしいかな。

※4/20発売の週刊SPA!のインタビュー連載『エッジな人々』から一部抜粋したものです

【Hiroyuki Ohashi】

’80年、愛知県生まれ。’05年、自費出版漫画にて本格的に活動開始。’07年、『Quick Japan』(太田出版)にて商業誌デビュー。初期作品集の『ゾッキA』『ゾッキB』(カンゼン)を原作とした映画『ゾッキ』、今泉力哉と共同脚本を務めた映画『街の上で』が全国公開中

取材・文/小西 麗 撮影/尾藤能暢

2021/4/24 8:52

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