「なぜこの時期に?」強行した岸和田だんじり入魂式に地元から困惑の声

◆ノーマスク&密なだんじりがSNSで拡散

 4月11日、大阪府岸和田市で「だんじり」の入魂式が行われたことがネットで拡がり、物議を醸している。

 入魂式とは新調したり修理した「だんじり」に魂を入れる行事のことで、この日は2年前に破損して修理した「だんじり」に魂を入れ、街中で曳行してお披露目された。その「だんじり」を見ようと集まった人や引き手たちが密になっている様子がSNSを通じて拡散されたのである。

 これに対してネットでは「コロナ禍でも決行してくれて嬉しい」や「自粛一辺倒の生活の中、よくやってくれた」という声が上がる一方で「なぜこの時期に?」という批判的な意見も多く見られた。なお、だんじりの本祭は毎年9月に行われているが、昨年は新型コロナウイルスの影響を受け、だんじりの曳行を自粛している。コロナ感染拡大の第3波、第4波といわれる中で入魂式を行ったことに対し、地元の住民はどう思っているのか。現地で声を聞いてみた。

◆これでコロナが増えたら岸和田には誰も来なくなる……

 岸和田駅に到着したのは「入魂式」が行われた5日後の夕方、入魂式の影響でさぞ盛り上がっているのでは……と駅前商店街に足を運んでみるも、客足はほとんどなく静まり返っていた。まずは、商店街周辺で話を聞いてみた。

「入魂式では感染対策としてマスクやアルコール除菌ボトルを用意して、だんじりへの声援は自粛するよういわれていました。それでもかなり密になっていたし、だんじりの綱を曳く青年団の中にはマスクをしていない人もいました。見物人も顎マスクで話している人をたくさん見かけましたね。

 祭りの総括責任者は毎年順番で決まるのですが、昨年も今年も中止となったら来年以降の参加者が減ってしまうし経済効果も期待してやらざるを得なかったという話を聞きましたね。特に最近は祭に参加する若者が少子化とか、『ケガするから危ない』と親から反対されて減少しているので、何とかしたいという気持ちは分かるのですがね……。

 入魂式が行われて、ネットでは一部『よくやってくれた!』なんて称賛の声もありましたが、近隣の私達からしたらたまったものではありません。市内のコロナ感染者は増加していて。入魂式が原因でこれから増えたら、岸和田には誰も来なくなってしまいますよ」

 入魂式を決行した英断よりも、その後の風評や感染拡大を気にした住民は少なくないという。特に商店は「岸和田はコロナの街」となれば、近隣からの買い物客は激減する。そのため、「勘弁してほしいわ」が本音だったとも。

◆入魂式の日は客に来てほしくなかった

 更に取材を進めると、近隣の飲食店からはこんな声を聞くこともできた。

「この辺はだんじりの曳行ルートなのですが、入魂式付近の日程をあえて避けるように休業している飲食店をわりと見かけました。特に昼カラオケやスナックでは入魂式後1週間までは休業するというところもありましたね。

 うちは飲み屋なので時短を守って営業はするけれど、入魂式があった日はなるべく客に来てほしくなかったというのが正直なところです。入魂式は朝からだったのですが、それでもだんじり好きな人は見物に行くんですよね。

 昼頃には町会や見物客が大人数で飲みに来たけれど、入店するときに『マスク会食でなるべく会話を控えてほしい』と言ったら帰っていきました。今でも、大人数の客はなるべく来てほしくないので食材を必要最低限しか仕入れないようにしています」

 時短営業で、ただでさえ厳しい状況の飲食店。もちろん、本音は客に来てほしい……のだが、この日ばかりは事情が違ったと苦しい胸の内を明かしてくれた。

◆入魂式の日は府外に出張という名の避難

 居酒屋にいた男性は今回の報道に対して次のような持論を述べた。

「入魂式は日曜日だったのですが、この辺りが密になることは分かっていたのであえて出張して府外に避難していました。ここ数日で岸和田市内の感染者が増加したこともあり、この周辺は商店街を見ても分かる通り出歩いている人はほとんど見かけません。

 今回はたまたま中之濱町の入魂式の様子がフォーカスされてしまいましたが、先月には別の町会がやっていましたし来月にも別の町会の入魂式があるのでまた批判されると思います。でも、大阪の緊急事態宣言解除がなければ入魂式自体も自粛していたと思うんですよね。今回は吉村さんの判断があまりにも甘すぎたのでは……とも思いますね」

 地元だからあまり大声では言えないが……と男性は口をつぐむが、想像以上に密になってしまった入魂式に対して地元からも避難の声は多いようだ。伝統を継承することも大切だが、今は非常事態ともとれる時期。なにか他の方法はなかったのだろうか。

<取材・文/日刊SPA!編集部>

2021/4/22 8:52

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