日本の職場で横行する、不合理な謎ルール。外国人も思わず悲鳴
―[連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史>]―
◆外国人も思わず悲鳴、日本の職場で横行する、不合理な謎ルール
僕が司会をしているNHKBS1『COOL JAPAN』で、日本で働いている外国人の特集をしました。外国人から見た「日本の職場はどうしてこうなの?」という疑問を集めたのです。
いやあ、もう、出る出る。
ブラジル人男性が、職場の初日、職場が寒かったのでコートを着てデスクワークをしていたら、上司から肩を叩かれて、「コートを脱ぎなさい」と言われたそうです。
ブラジル人男性は、IT関係なのでパソコンでずっと仕事をしていたのですが、「コートを着れば、体も冷えず、効率的に仕事ができます」と答えると、「職場では、コートを脱ぐものだ」と許してくれなかったそうです。
しょうがないので脱ぎ、寒さに震えて、仕事がなかなかはかどらなかったと言います。
これなんか、「ブラック校則」の考え方が、そのまま社会に広がっているという感覚ですね。
コロナ禍で、換気のために、窓を開け、冬は冷たい風が教室に入っても、制服の上にカーディガンを着るのは校則違反だからダメと言われた生徒達ですね。
生徒の体より校則、作業能率より職場の見た目、という見事な相似形ですね。「一番重要な目的は何か?」が忘れられているのです。
合理的な考え方からすると、これは、「謎」そのものです。
◆他にも続々と…
他には、「話すことがあろうとなかろうと、毎週、必ずスタッフミーティングをしている」
「新しいテクノロジーがあるのに、いまだにFAXや紙書類を使う」
「上司や先輩は神のように偉すぎて、意見があっても言えないから、ビジネスチャンスを逃している」
「職場にドレスコードが多すぎる。完璧な化粧やヒールが、どうして仕事に必要?」
「職場が静かすぎる。そのくせ、『おつかれさま』だけは、1日何十回も言っている」
「サービス残業が当たり前になっている」
「サインより偽造が簡単なハンコの方が価値がある」
「ランチを取りながら打合せをするのが当たり前で、全然、休憩になっていない」
「社歌があって、月初めとかに歌った。まるでカルトのようだった」
「ITチームなので、すべてをリモートでできるのに、45歳以上の人達はオフィスに行くことを強く望んでいる」
などなど。
◆謎ルールは「世間」の特徴
番組では日本で働いている8人の外国人をスタジオに呼んだのですが、番組収録が終わらないんじゃないかというぐらい、いっぱい出ました。
アメリカ人女性は、「職場の疑問を言えって言うなら、何時間でも言える!」と興奮しながら悲しがっていました。
みんな、アニメだったり日本文化だったり、いろんな理由で日本が好きで日本に来た外国人なので、好きな日本で「理解できないこと」があると、悲しくて、つらくて、憤慨するのです。
僕が何度も書いているように、こういう「合理的な考え方からだと、どうみても謎なルール」は、「世間」の特徴です。
知り合い、身内が集まった空間は、その関係が強くなればなるほど、「謎ルール」が生まれます。
「謎ルール」は身内だけに通じるもので、「社会」では通用しません。
◆謎ルールの多い職場は、競争力が低下する?
当然、「謎ルール」が多い会社は、競争力がどんどん低下します。
「ユニコーン企業」と呼ばれる「評価額が10億ドル以上の未上場のベンチャー企業」は、2021年の調査で世界で528社でした。
このうち、アメリカ228社、中国122社。この二国で、全体の7割弱。日本はなんと、7社しかありません。この数字は韓国よりも少ないです。
「利益をあげる」という最上位の目的のために、「どうしたら働きやすい環境を作るか?」を追求するのは、「世間」ではなく「社会」に生きる外国人からすると、きわめて当然なことです。
だからこそ、そうしない日本の職場が不思議で謎で理解できないと悲鳴をあげるのです。
あ、悲鳴を上げているのは、日本人も同じですね。一つでも「謎ルール」を減らしたいものです。
―[連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史>]―
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