『悪霊狩猟団: カウンターズ』は韓国版『呪術廻戦』!? 復讐、家族、学園、ミステリー…全部のせで感情を揺さぶる韓国エンタメの手法

 サブカル好き産業医の大室正志とB級映画プロデューサーである伊丹タンが、毎回ひとつのVOD作品を選んで、それぞれの立場から根掘り葉掘り作品を掘り尽くす本連載。

 2019年に、アカデミー賞で非英語作品初の作品賞を含む4部門を受賞した『パラサイト 半地下の家族』を始め、Netflixで配信された『愛の不時着』(19年12月配信開始)や『梨泰院(イテウォン)クラス』(20年1月配信開始)も世界的なヒットとなり、世界を席巻している韓国映像業界。

 そんな飛ぶ鳥を落とす勢いの韓国映像作品の中で、今回ふたりがテーマに選んだのが、韓国のウェブトゥーン(ウェブマンガ)を原作に、現地映画専門チャンネルOCN で20年11月から21年1月まで放送され同チャンネルオリジナルドラマで史上最高視聴率を記録、Netflixでも世界配信された『悪霊狩猟団: カウンターズ』(以下、カウンターズ)だ。本作は常人離れした能力を使ってのバトルを主軸に展開されるアクションモノで日本人にも馴染みのある設定だが、ふたりの目にはどう映ったのか――? 韓国映像業界の今とともに分析した。

『呪術廻戦』のような日本マンガの影響あり?

――今回のカウンターズですが、『愛の不時着』や『梨泰院クラス』と違って、日本でそこまでバズってるわけではありませんね。

伊丹 そうなんですよ。面白いといってるクリエイター仲間が多くて注目してたんですが、日本ではそこまで。ただ評判通り見始めたら止まらない。

大室 話題になった『今際の国のアリス』はグローバル展開を想定していたけど、カウンターズは韓国の街並みや文化をプレゼンしてるわけじゃないから、作り方としてはドメスティック。それが要因なのかな。

伊丹 (最初はYouTubeプレミアムで配信されて、その後Netflixへとプラットフォームを映した)『コブラ会』と一緒で、Netflixありきの企画じゃないと思います。 OCNでスタートして最初は視聴率が悪かったけど、内容が面白いからどんどん韓国国内で人気になったパターンだね。

――人間に寄生する悪霊を「カウンターズ」と呼ばれる特殊能力者たちが退治する、という日本でも王道のストーリー。

大室 韓国は縦スクロールでマンガを読ませるウェブトゥーンが主流なんだけど、内容的には日本の少年マンガに大きく影響を受けてるよね。

伊丹 このタイミングで悪霊退治ってなると、『呪術廻戦』をどうしても想像しちゃうね。80年代でブームになった台湾の『幽幻道士(キョンシーズ)』といい、悪霊モノってアジア圏のB級作品ではかなり引きがあるジャンル。アメリカでいうゾンビモノみたいな。

――一般人だった少年が特殊能力を持つ集団にスカウトされて、成長しながら悪に立ち向かっていくという展開も、日本のマンガによくあります。

伊丹 いわゆる“リクルートモノ”ですね。邦題は『悪霊狩猟団: カウンターズ』なんですが、原題の日本語訳が『驚異的な噂』。主人公の名前、ソ・ムンと韓国語の噂(ソムン)をかけたタイトルで、邦題よりも主人公の成長物語感が強い印象。

大室 タイトルの付け方で視聴者の見方も変わる。個人的には邦題のほうが好きかな。『驚異的な噂』だと主人公の成長物語として見ざるを得ないけど、『悪霊狩猟団: カウンターズ』ならテーマを複合的にできる。

伊丹 まぁ、タイトル的に悪霊がいろんな造形で出てきて、超人対悪霊というはっきりした構図があるのかと思ったら、そこはかなり浅かった(笑)。

大室 常人の2~5倍の身体能力っていう設定もかなり微妙だったしね……。

――能力や敵キャラの個性は日本のマンガやアニメのほうが強い印象ですね。

伊丹 だから今回改めて、韓国は感情のドラマを作るのに特化してるのかなって思った。

大室 それに、パルクールアクションを始め、復讐、家族、チーム、学園、ミステリーみたいに、いろんなジャンルをひとつの作品に詰め込むのも韓国ドラマの特徴だね。

伊丹 そうそう。感情のドラマとして成立する要素を“全部乗せ”している。さらに両親の事故死や足の障害、祖母の介護といった主人公のバックグラウンドを序盤でめちゃくちゃしつこく丁寧に描いて、視聴者がキャラに対して愛着を持てて感情的に面白いと思える構造を自覚的に作っていたりと、韓国映像業界の底力を見せられた感覚。

大室 カウンターズは約70分×16話だし、総じて韓国ドラマは良くも悪くもすごく長い。日本のドラマは約45分×9~10話だからワンイシュー(ひとつのテーマ)で大丈夫だけど、長い韓国ドラマは『梨泰院クラス』みたいに、テーマがいくつもないと、視聴者が脱落しちゃうんだろうね。

――カウンターズは約19時間、日本のドラマは長くても7時間半。確かにテーマがひとつではもたなそうです。

大室 そうなんだよね。とはいえ、カウンターズは記憶喪失も大きな舞台装置になってるけど、医師の立場から言わせてもらうと、世の中にそんなに記憶喪失いないから! って感じ(笑)。今の韓国と昭和の日本のエンタメは、記憶喪失という設定を安易に使いすぎだね(苦笑)。

伊丹 あとは財閥だったり復讐モノの要素は、韓国ドラマは必ず入れてくる。

大室 金持ちの息子に嫌なヤツがいるのも定番だね。

伊丹 スペイン発のシリーズ『ペーパー・ハウス』みたいに、チームアイコンとしてみんなが同じジャージを着たりもするし、そういう意味ではクリシェ(定型的な筋書きや設定)がごった煮になった作品。それでいてテーマがとっ散らかってるんじゃなくて、キャラ背景も含めてちゃんと深堀りされてるからこそ、成立する。日本のドラマは、主人公以外のキャラや要素を深堀りするよりも、事件主義。事件を起こして物語を展開させる傾向があるね。

大室 日本のドラマでいろんなジャンルや要素をひとつの作品に詰め込むことはあまりない? 坂元裕二さんが脚本の『カルテット』(17年放送)なんかはそれに近かったけど。

伊丹 日本のドラマはワンイシューが基本で、こういうごった煮はそれをよしとされる作家性がないとストーリーが散漫になって、ただまとまらないだけの凡作になりがちだから、局も怖がってなかなかやらせない。近年の韓国作品はそこに挑戦してしっかりと描けてるから、作劇理論的には多様な人間のありようを普遍性が感じられるところまで掘り下げていて、結果、日本よりもグローバルで評価されていると言わざるを得ないね。

大室 なるほど。じゃあ次回は日本と韓国の映像業界の違いについて考えていこうか。

  • 4/19 9:00
  • サイゾー

スポンサーリンク

この記事のみんなのコメント

2

記事の無断転載を禁じます