お土産菓子「黒糖ドーナツ棒」が試食販売禁止で苦境に。起死回生の一手とは

 熊本や九州のお土産菓子として長年親しまれてきた「黒糖ドーナツ棒」。百貨店やスーパーの九州フェア・物産展などで目にしたことがある人も多いかもしれない。なでしこジャパンのFIFA女子ワールドカップ初優勝に湧いていた2011年。当時、「INAC神戸」に所属していた川澄奈穂美選手がマイクパフォーマンスで黒糖ドーナツ棒を紹介し、大きな注目を集めたこともある。

 発売から35周年を迎えたが、コロナ禍で観光業界が大打撃を受けたことは周知のとおり。そして、その影響はお土産菓子にも及んでいる。果たして、この危機を乗り越えることはできるのか。フジバンビ関東営業所所長の三神拓磨さんに聞いた。

◆会社存続の危機で生まれた「黒糖ドーナツ棒」

 ドーナツ棒を製造・販売を行うフジバンビは今年で創業73年目。もともとは「かりんとう」の製造・販売の事業を中心に行っていたそうだが、「黒糖ドーナツ棒」は前社長の吉田高成氏がかりんとうからヒントを得て、35年前に開発した同社のオリジナル商品だ。

「当時の主力商品だった『かりんとう』を生産していた熊本工場が1970年、火災に遭いました。その2年後には『カネミ油症事件』という食用油の健康被害の風評被害で、売り上げが半減してしまったんです。会社存続の危機に直面し、当時の社長だった吉田は足を骨折していて入院中だったんですが、松葉杖で会社に通い詰め、ドーナツ棒の開発にあたったそうです」

 ドーナツを食べやすい棒状にした非常に“シンプル”な菓子だが、だからこそ、常に変わらない味わいと、それを実現するための製法にこだわっている。

「ドーナツ棒には類似商品もありますが、原材料や生産・製造設備まで、吉田前社長が自ら選び抜いて作り上げたものなので、他社さんにはなかなか真似できない商品になっています。特に黒糖の深い味わいと、外はさっくり中はしっとりという生地の食感。

 沖縄県産黒糖100%、国産小麦100%と、国産の原材料にこだわり、脂っこくない味わいに仕上げるため、油も特別に新鮮なものを使っています」

◆地元・熊本ではドーナツといえばドーナツ棒

 かりんとうで培ったノウハウも活かし、クセになる独特の食感と、何回も食べたくなるような味わいを実現。地元・熊本で「黒糖ドーナツ棒」は定番のロングセラー商品として定着した。

 九州各地の直営店やサービスエリア、空港の売店などが主な販路だが、熊本ではコンビニなどでも取り扱いがあり、地元の人たちのお馴染みのおやつとなっているようだ。

「熊本ではドーナツといえば、ドーナツ棒という感じですね。黒糖や小麦粉など原材料ひとつとっても、産地によって微妙に味わいが変わってくるんですが、吉田前社長が試行錯誤を重ねた結果、最終的に辿り着いたのが沖縄産黒糖です。ミネラルやビタミンが豊富でカロリーも控えめな黒糖を、独自の技術で生地の中まで染み込ませているので、後を引くような優しいコクと風味を楽しめます。牛乳やお茶との相性も良いです」

◆コロナ禍で試食販売が禁止、売上が半分以下に…

 長く熊本の土産品として愛されてきたドーナツ棒だが、新型コロナの影響で熊本や九州の観光客は激減。感染拡大以前の半分以下まで売上が縮小してしまったという。

「コロナ禍で他のお土産メーカーさんも含めて、観光業が全体的に厳しい影響を受けていますね。ドーナツ棒はリピートでご購入いただくお客様が非常に多く、本来であれば実際にお客様に食べてもらって味を知ってもらえると一番なんですが、感染予防の観点から試食販売も禁止されているような状況です」

 お土産菓子にとって、試食販売ができないことは大きな痛手だった。そこで、同社は次なる一手を思案した。

◆起死回生を狙う「次なる一手」

 旬のフレーバーを使い、幅広いラインアップの展開に注力。福岡のあまおうイチゴ、熊本の栗、佐賀の嬉野茶といった九州各県の県産物を使ったご当地シリーズも発売してきた。

「もともと2年ほど前から少しずつ全国へ販路を拡大させていくという会社の方針もあり、現在はさまざまなフレーバーを展開することで、初めてのお客様にも食べていただく機会を増やしています。

 主力の『黒糖ドーナツ棒』はパッケージも変えず、熊本土産として長年愛されてきた商品としてあくまで大切にしていますが、従来の商品だけでは独特の食感や味わいがどうしても伝わりにくい面もあるので」

 また、だれもが知る大手メーカー・森永製菓のミルクキャラメルとのコラボが決定した。

 森永ミルクキャラメルソースを使用し、こだわりの沖縄県産黒糖を加え、ドーナツ棒の特徴であるどこか懐かしい味わいと、サックリしっとりとした食感を味わえる。

「今回のコラボで全国のより多くのお客様にフジバンビのドーナツ棒の味わいを知っていただきたいです。私は地元が熊本ではなく、前職でお菓子の営業をしていた時にドーナツ棒に出会いました。自分のキャリアを考えてフジバンビに転職しましたが、入社の最終的な決め手は原材料に徹底的にこだわったドーナツ棒という商品です。お客様に自信をもってご紹介できる商品を営業したいという気持ちがありましたので。

 関東営業所は設立からまだ1年も経っていませんが、すでに多くの小売店様に採用していただいております。今後も全国のお客様にさまざまなフレーバーをご提案することで、フジバンビのドーナツ棒を日常的に食べていただけるようなお菓子にしていきたいです」

「森永ミルクキャラメルドーナツ棒」は北海道を除く日本全国の百貨店・スーパー・コンビニで、今秋まで継続販売を予定している。今後の発展に期待したい。<取材・文/伊藤綾、編集・撮影(人物)/藤井厚年>

【伊藤綾】

1988年生まれ道東出身。いろんな識者にお話を伺ったり、イベントにお邪魔するのが好き。SPA!やサイゾー、マイナビニュース、キャリコネニュースなどで執筆中。毎月1日に映画館で映画を観る会"一日会"(@tsuitachiii)主催。

2021/4/19 8:53

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