キリンビール営業部長から俳優に転身。54歳で早期退職を決心した理由
新型コロナ発生から1年。コロナで解雇される人がいる一方、自ら退職した人もいる。’20年9月、山田直樹さん(55歳)は、キリンビールの営業担当部長の座を捨て、俳優業に転身した。彼はなぜ50代を過ぎてから大手企業の役職を捨て、俳優になろうと考えたのだろうか? 本人に直撃取材した。
◆「コロナのおかげでかつての夢を思い出しました」
「会社の研修で今以上の出世は望めないこと、57歳で役職定年となると平社員待遇で給与も半減することを知らされました。そこで、肩身の狭い思いで会社にしがみつくより、新しい場で挑戦したいと考えるようになったのです」
昨年、会社の営業改革により、退職金が割り増しされる希望退職者優遇制度の対象枠が55歳以下に引き下げられた。54歳の山田さんも早期退職を決心した。
「まずは会社に籍を置きつつ、昨年3月ごろから別の企業への再就職を試みました。ただ、コロナ禍で思うような活動ができず、在宅時間も増え、ふとかつての俳優の夢を思い出したのです。幸い住宅ローンも完済し、29歳の息子も独り立ちしています。二人とも、私の決断を快く受け入れてくれました」
◆生涯年収は減ったが、今が一番楽しい
昨年9月、山田さんは会社を退職すると同時に、芸能事務所のシニアタレント募集に応募。未経験ながら、難関オーディションを勝ち抜き、俳優の卵として活動し始めた。現在はエキストラの仕事を週1〜2本程度こなし、シンガーのミュージックビデオに出演するなど、徐々に露出を増やしている。
「エキストラの出演料は一現場あたり数千円ほど。会社員時代に比べると稼ぎは激減しましたが、質素に暮らし、健康でいれば、退職金とバイトで老後の生活も賄えそうです。車も売り払い、外食もほとんどしませんが、そんな生活も苦ではないですね。
ただ、元管理職の俳優としてメディアに紹介されたことが世間にバレて、もう後戻りはできなくなってしまったのですが(笑)」
生涯年収は減ったが、今が一番楽しいという山田さん。「コロナ禍に楽しい報告をありがとう!」と、周囲も好反応だという。ただ、コロナが落ち着いたら、人間観察のためにもバイトは始める予定だ。
【俳優・山田直樹氏】
神奈川県出身。’20年に俳優業に転身。サザンオールスターズのトリビュートバンド「麻生恋次郎」で約20年、音楽活動を続けている
<取材・文/週刊SPA!編集部 撮影/堂谷健悟>
―[コロナ解雇、その後]―