<純烈物語>「純烈が~、スーパー銭湯に~、帰ってきた~!」待望の温泉有観客ライブが再開<第92回>
―[ノンフィクション連載「白と黒とハッピー ~純烈物語」]―
◆<第92回>日差しと生い茂る緑の風景が同居する大広間 純烈が~、スーパー銭湯に~、帰ってきた~!
2月1日の映画『スーパー戦闘 純烈ジャー』発表会見以来、約1ヵ月半ぶりに訪れた「東京お台場 大江戸温泉物語」。入り口をくぐると、そこには2019年5月25日……純烈を初めて取材するべくこの地を訪れた時と、同じ光景が広がっていた。
あの時は、ライブの無料整理券を求めて連なる列だったが、この日は新型コロナウイルス感染防止のため立見エリアは設けられず、指定席を確保しながら早くから駆けつけたファンだった。開演2時間前から待ちきれないとばかりにソワソワするあまり、一人のマダムがたまたまその場に訪れたこちらへ「ねえ、今何時?」とマスク着用で声をかけてくる。
◆1年2ヵ月ぶりの温泉ライブ再開
その様子によって「1年2ヵ月」という歳月を実感させられた気がした。純烈、東のホームリングとして親しまれる同施設における「温泉ライブinお台場」復活のニュースが流れたのは、3月18日。
コロナ対策の休館が昨年7月に開けたものの、今年に入って再び営業を自粛していた大江戸温泉物語。3月20日より2ヵ月半ぶりに再開するリリースと併せて発表されたのが、純烈ライブだった。
1ヵ月半前は外の掲示板に「温泉ライブの再開を願って」とメンバー4人のサイン色紙が貼られていた。それを見て遠い先のことになってしまうのかとも思っただけに、このタイミングで還ってくるのは心からよかったと思えた。
「ほかのガイドラインも見つつウチのルールを作り、休館が重なりながらも今後の方針が固まったところでのライブ再開となります。純烈さんのライブが復活するなら一番目にここで歌っていただきたいという気持ちはありましたけど、そこは無理に話を進められないですから。急いでやると発表して中止になってしまうようにはしたくなかったので、このタイミングになったということですね」
以前の取材にも応じていただいた企画販促マネジャー・平澤誠さんも、法被に身を包み忙しそうに動き回る。昨年6月の無観客ライブ、今年2月の映画発表会見、そして『秘すれば花』MVの収録会場として急きょ提供した時と、この間も純烈とかかわってきたが、やはりに館内大広間の中村座にファンを入れてコンサートをやるとなると、受け取り方は違ってくるだろう。
スーパー銭湯アイドルでありながら昨年2月22日、箕面温泉スパーガーデンを最後にそこでのライブ活動ができなくなってしまった。その時点で、ひたひたと忍び寄るコロナの影響によりラウンドもCD購入特典の撮影会も中止とされていた。
◆ハグも握手もハイタッチもできない撮影会
「そういう意味ではいろんなことが“初体験”になるんですよね。もちろん、大江戸温泉さんでやるのが(昨年2月10日以来)1年2ヵ月ぶりというのはあるんですけど、お客さんのいるところまで一切いけない健康センターライブは純烈結成以来初めてだし、ハグも握手もハイタッチもできない撮影会っていうのも初。それによって、お客さんがどういう気持ちになるのかというのは、やる前の時点でわからない。
今日という一日をトータルで満足して帰っていただくにあたり、それナシで満足してもらえるというのはどんなものなのか。昼の回で、ここが物足りないという顔をしているお客さんがいたら、それを拾って夜の回に生かすとか、そういう姿勢で臨みます」
開演前に後上翔太の話を聞いて、ハッとさせられた。コロナ禍の影響によって新たなステージの形を模索してきた純烈ではあるが、やはり自分たちの根幹に当たる健康センターライブとなると、読めない部分が付随してくるのだと。
それはつまり、ホールでの有観客ライブ以上に観客との距離が近づく中でのやり方と向き合うことを意味する。いみじくも、他の3人もこの日の楽しみであり、かつ肝となるのは1年2ヵ月ぶりの撮影会だと口を揃えていた。
「一人ひとりの顔とリアクションが存在するので、そこが楽しみでありおっかなさであり。『ウワーッ!』と来ちゃうお客さんもいるかもしれないしね。ライブでの純烈との対峙は読めるけど、撮影会になった時のリアクションはやってみないとわからない」(酒井一圭)
「撮影会をやることで着実に一歩進めたことになるので。お客さんも緊張するだろうからお互いに初々しい気持ちでやれたらなと思います」(小田井涼平)
「1年2ヵ月も間が空いたにもかかわらず、待っててくれた人たちがいる。自分がどうよりも、その気持ちを考えちゃうんですよ。ずっと見られなかったおばちゃんたちの顏を、近くで見られるのが今日の楽しみですね」(白川裕二郎)
MAXで450名入る中村座にソーシャルディスタンスを取った上で並べられたイスは150席。入り口向かい側の扉は換気のため開けられ、日中の日差しと生い茂る緑の風景が場内にまで飛び込んでくる。
◆最前列と2列目の観客はマスクとフェイスシールドを着用
以前なら昼でも夜でも、あるいは元日の紅白凱旋ライブのような丑三つ時でも時間帯を意識することなく、純烈ワールドによる密閉空間が現出した。室内にいながら青空を横目で見つつステージを眺めるのも、2021年という時代ならではのシチュエーション。最前列と2列目の観客はマスクに加えフェイスシールドの着用が義務づけられ、ステージとの間も通常以上の距離が取られ仕切り線が置かれた。
ホールコンサート同様、歓声や声援といった声出しもできない。いくつものルールを提示されながら、開演前のざわつきからは不満の声も聞かれず。それどころか、何を制限されようとも大江戸温泉物語でまた純烈を見られる喜びの方が遥かに上回っていると言わんばかりの顔が並んでいた。
「1月から有観客ライブは再開しましたけど、そこでも我慢していました。私にとっての純烈ライブ復活は、大江戸温泉にしたかったから。やっぱり私はここが好きだし、ここで見る純烈との距離感が好きなので。だから、私にとっても1年2ヵ月ぶりの生純烈になります」
千葉から来たという三十代の純子さんは、そう言いながら手に持つペンライトをクルクルと回した。撮影会も楽しみにしているとほほ笑んだものの、それはこみあげてくるものを抑えるためのようでもあった。
有観客ライブ再開から続く「純烈コンサート2021 覚えてください!純烈です!!~スーパー銭湯アイドルと呼ばれてます~」でも、幕が上がると声を出してはいけないとわかっていながら思わず「わー……!」と漏らしたり、中には涙ぐんだりする人もいると白川が言っていた。より距離が近いところで4人の歌う姿を目にしたら、エモーショナルになるのも当然だ。
「うん、お客さんはそうだろうね。でも、俺自身は1年2ヵ月ぶりという実感は正直、ないんですよ。さっきもリハーサルの時にテレビの取材が入ってて、もっとドラマティックなコメントをくれよという雰囲気があったんだけど、自分はそういうことに一喜一憂せず、今日の現場を滞りなく成立させることで気持ちがいっぱいなんで。
◆「お客さんに仕掛けられて反応していくのが純烈」
おそらく、自然体で普段通りにやる方がお客さんにとっては感動につながるんですよ。こっちが仕掛けているようで、お客さんに仕掛けられて反応していくのが純烈だから、それでいいんじゃないかな」(酒井)
先の御園座公演でも、酒井は23回分の舞台を「しっかりと手綱を握りしめるように」やり遂げると心がけた。さまざまなあり得ないシチュエーションを思えば、いくらでもエモくなれるところで自分をそうさせず全うするには、申し分ない環境と言えた。
ましてや酒井は純烈に関する複数のやるべき任務に対し、同時進行で頭を動かさなければならない。コンサートツアー、スーパー銭湯ライブ、メディアへの出演、7月の明治座、純烈ジャー……それら一つひとつに感情が持っていかれたら、思考が追いつかなくなる。
プロデューサーだからこその冷静な目は、純烈というプロジェクトを正しい方向へ導く上で絶対に失ってはならぬもの。個人の気持ちに左右されているようでは、務まらないのだ。
ただそうはいいつつも、人間だから感極まる時もある。酒井がそこで抑えきれぬ男だということを、メンバー&スタッフもファンも知っている。
2021年4月12日13時。場内が暗転しつつも外の明るさであまり暗くならない中、待ちに待った大江戸温泉物語ライブが始まった。幕が開くよりも先に聞こえてきたのは――。
「潤 沢の『秘すれば花』を引っさげて、純烈が~、大江戸温泉物語お台場に~、来~る~!」
遠慮が入りまくった「ひゃっ!?」という感じの歓声が少しだけ漏れた。スーパー銭湯ライブ復活の狼煙は、テレビドラマ『俺の家の話』に登場した潤 沢のカヴァー曲だった。
撮影/ヤナガワゴーッ!
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【鈴木健.txt】
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxt、facebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売