馬券を買う勇気と買わない勇気。借金500万円男を悩まし続けるギャンブルへの渇望

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―[負け犬の遠吠え]―

ギャンブル狂で無職。なのに、借金総額は500万円以上。
それでも働きたくない。働かずに得たカネで、借金を全部返したい……。

「マニラのカジノで破滅」したnoteが人気を博したTwitter上の有名人「犬」が、夢が終わった後も続いてしまう人生のなかで、力なく吠え続ける当連載は46回。

 今回は、流されて馬券を買いそうになったお話です。


◆ギャンブル熱は永久機関ではない

 ギャンブルをあまりしなくなったとしても、たまに思い出したようにやりたくなってしまうのは、内なる衝動だけが原因ではない。永久機関が存在しないように、ギャンブル熱もまた外部からエネルギーを取り込まないと生み出せない。

「暇だからパチ屋行くか~」
「新台出たらしいよ」

 こんな簡単な言葉でもうウズウズして堪らなくなってしまう。依存症患者はこと依存対象の物に関しては驚異的なまでのエネルギー効率を発揮する。先に言うと、今回僕はギャンブルを「我慢した」。

 エネルギーの原料はそこら中に転がっている。友達、SNS、電車での会話。人がいる限り、文明がある限り、酒やクスリやギャンブルから完全に隔絶される事は無いのだ。耳から情報を取り込んで心で燃やす。

 僕はTwitterというSNSをよくやっているのだが、そこまで器用には目を使いこなせない。

「みんな大阪杯の買い目、決まった?」

 大阪杯、ね…

 どうせ競馬だろう。僕は競馬に明るくないのでそう簡単に買いはしない。ジャパンカップはジャパンだから買った。大阪じゃ僕を動かすには弱すぎる。これが大阪杯のちょうど一週間前の話。

◆久しぶりの元上司との飲みはエモかった

 その6日後、久しぶりに前職の上司に飲みに誘われた。奢られる機会は逃さない。貧乏人が笑って生きるためのライフハックだ。ちなみに、僕は人間関係の整理をしないので、これまで出会った人全てが僕の活動を確認している。知らないのはおそらく縁が切れた家族くらいだろう。

 人間関係の整理をしない理由は、「いいヤツ」として積み上げた信用をリセットするのが面倒臭いのと、人間関係は熟成するとかなりいい味を出すことを知っているからだ。3年ぶりとか、5年ぶりとか、そんなスパンで再会するだけで結構感動するし、お互いに、仮に成長してなくとも時間の流れで形が変わったのを見るのが面白い。10年後、20年後、もっと長い時間を経て出る「久しぶり」はきっと格別なんだと思う。

 数ヶ月ぶりの上司は見た目こそ変わっていないものの、酒はかなり弱くなっていた。時間の流れを感じる。以前は酒を飲んでいた時間が、思い出話を語る時間になる。

 お元気ですか。職場は相変わらずですか。会社は辞めたけど、僕は今でも元気です。

 屋内にいるのに、酒のせいもあって喉が熱くなった。これが「エモい」ってヤツか……。

◆流されて大阪杯はグランアレグリアで勝負!?

「なあ、大阪杯何買う?」

 誘惑の手というものは、病気と同じく人を待ってはくれないのだ。

「一番人気がコントレイル? 全然違う。もうグランアレグリアで決まりやから。アーモンドアイをちぎった脚は出来が違いすぎる」

 この日までの6日間で、出走表を見なくても人気上位6頭くらいまでの馬の名前は覚えてしまっていた。ジャパンカップでの記憶が残っているのでコントレイルの強さだけ覚えている。そんな馬がいるにも関わらず「全然出来が違う」と言わしめた馬、グランアレグリア……。

 競馬素人に有りがちなのが、自分が買った馬と、直前に買うか悩んだ1番人気の馬の記憶しか残せないという事だ。とんでもない仕上がりの無名の馬がいたとして、その記憶は次の馬券を買う時にはすっかり忘れてしまっている。

 僕の馬に関する記憶はジャパンカップでのアーモンドアイ、デアリングタクト、コントレイル、あとは自分のお気に入りのカレンブーケドールで止まっていた。ギャンブルに関する知らない情報はすごく魅力的に見えてきて、ポッと出のグランアレグリアが知る人ぞ知る名馬で、買った人間だけが勝者への扉を開けることができるとさえ思ってきた。

 競馬や競艇で勝つために本気で取り組まない人間が簡単に他人の予想を買うのは、そこに書いてある情報を持ってないと勝てないかもしれないとまで思うからだ。裏を取る能力も無いから、たとえ間違っていても買う瞬間まで納得できる。バカが騙される構図がここに出来上がった。

◆netkeibaで自信のドーピング

 グランアレグリア、聞けば聞くほど重厚そうな名前だ。やっぱり強いのか。ど真ん中から馬群を蹴散らして一騎当千する未来が見えた。

 大阪杯は、翌日に迫っている。

 帰ってからnetkeibaというサイトで馬の過去レースを見た。このサイトには馬についての情報がザッとまとめられてあり、見るだけで十分調べた気持ちになれる。自信のドーピングだ。受験生時代、赤本と呼ばれる受験問題の過去問集を流し読みをして頭が良くなった気になるのと同じ効果を得る。

 グランアレグリアから4頭ほど馬単でオッズを調べると40~80倍になった。競馬は同時にたくさん走るので、1番人気の馬を1着に置かないだけで50万近くの夢に手が届く。オッズを見ているだけで笑顔が止まらなかった。1万円ずつ賭ければ先週届いた裁判所とのやり取りも金で解決できる。

 その日は夜更かしをして、夜中の3時に寝た。

◆買う勇気と買わない勇気

 大阪杯当日。雨が降っていた。競馬場も雨かはわからないが、濡れているかもしれない。グランアレグリア最強理論にヒビが入る。雨の競馬は難しいらしい。素人目でもわからない。馬の脚はどうやら人が思うよりずっと繊細なようで、全く走れなくなる馬や、逆に影響を受けづらい馬で結果が大きく分かれる。グランアレグリア、名前だけなら雨に強そうだが、500万近い借金を抱えるまで負けて博打で痛い目に遭った僕は、そこを買い抜く強さを持っていなかった。

 パドックを見ないので、午前中のうちに大阪杯からの撤退を決めた。ここから待っているのは買わない後悔だけだ。

 依存症の気が少しでも残っていると、買う勇気よりも買わない勇気の方がずっと大きい。これが当たれば50万負けたのと同じになってしまう。50万も負けたら発狂してしまうかもしれない。

◆グランアレグリアの運命の一戦は……

 レースを直視できなかった。しかも雨は降ってないし、本当にグランアレグリアが勝ちそうだった。勘弁してくれ。

 頼む頼む、頼む。

 グランアレグリアの走りを見ていたら、少し前にレースは終わっていた。

 結果はレイパパレ、モズベッロ、コントレイルの順だった。名前が読みづらい4番人気と6番人気の馬が上位2頭だった。

「なんだよこのレース、知らねー。グランアレグリア全然ダメじゃん。買わなくて良かった~」

 令和に入ってから予想が当たった事は1度もありません。

―[負け犬の遠吠え]―

【犬】
フィリピンのカジノで1万円が700万円になった経験からカジノにドはまり。その後仕事を辞めて、全財産をかけてカジノに乗り込んだが、そこで大負け。全財産を失い借金まみれに。その後は職を転々としつつ、総額500万円にもなる借金を返す日々。Twitter、noteでカジノですべてを失った経験や、日々のギャンブル遊びについて情報を発信している。 Twitter→@slave_of_girls note→ギャンブル依存症 Youtube→賭博狂の詩

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  • 日刊SPA!

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