「朝起きたら、何故か隣で女が・・・」食事会の翌日、男が青ざめた理由

夫婦や恋人でもなく、家族のような血のつながりもない。それでも人が生きていく中で求めるもの—。それは「友情」だ。

「たった一人の親友(バディ)がいれば、他には友達なんていらない」。

そう豪語する男がいた。

互いを信じ合い、揺るぐことのない二人の友情。だが、彼らが好きになったのは、同じ女性だった…。

◆これまでのあらすじ

「僕」こと小暮喜八は、就職活動で知り合った親友・片桐とは10年来の親友で、二人はひそかに舞に想いを寄せていた。

舞が結婚すると知った小暮は「片桐こそ舞とお似合いだ」と一肌脱ぐことを決意するが、その作戦はうまくいかなくて…。


「どうしようかぁ…」

舞と三人のディナーの解散後、片桐と二人で立ち寄った麻布十番の『月光浴』のカウンターで僕はため息まじりに弱音を吐いた。

「どうしようって、何が?」

片桐は首をかしげる。そりゃそうだ。こいつは、僕の胸の内に秘められた切なる願いを知らない。

―舞とくっつくのは、僕でなければ片桐であってほしい。

ただ、それだけだ。

「舞と結婚する人って、どんな人なんだろうな?」

僕が独り言のように呟くと、片桐は言った。

「笠原拓人のことならネットにたくさん出てるだろ」

業界の寵児と呼ばれる新進気鋭の経営者兼エンジニア・笠原拓人は、経済誌の特集でも頻繁に取り上げられている。

「もちろん知ってるよ。でもインタビューとか読んでるかぎりは、完璧な人間すぎて、隙がないように思える…」

「完璧ならいいじゃん。舞にピッタリだ」

「そうじゃないんだよ~」

思わず声が大きくなった僕を見て、片桐は何かに気づいたようにニヤニヤと口元を緩ませた。嫌な予感がする。

「もしかして小暮、お前さ…笠原拓人に嫉妬してるんだろ?」

「…してないよ」

「結婚前に舞のことを奪いたいとか、思ってるわけ?」

ちがう。僕はお前と舞がくっついてほしいんだ。と言いそうになるが、ぎりぎりで口をつぐんだ。

「たしかに笠原拓人は完璧すぎるよな。悪い噂も浮いた話も聞かないし、完璧すぎて逆に怪しくなってきた」

片桐は誤解したまま突っ走る。

「小暮が嫉妬する気持ちはよーく分かったから、笠原拓人と会う前に、彼に悪い噂がないかだけ念のため調べてみよう」

「お、おお…」

「声が小さいぞ。二人で一緒に調べるんだぞ?」

「…はい」

舞の婚約者、その真の姿とは…。

結論から述べると、笠原拓人について調べることはできなかった。時間がなかったのだ。ネットで軽く情報を探すことくらいはできるが、その程度では結局詳しいことはわからない。

僕にも片桐にも仕事がある。ステイホーム期間を終えて経済が回り出し、商社マンとして使命感に駆られていた。

僕と片桐が次に会えたのは、舞との約束の夜だった。笠原拓人を紹介されるディナーの日だ。

店の予約は笠原拓人が取ってくれた。

選ばれたのは門前仲町のジビエの名店『パッソ・ア・パッソ』。

「ジビエは冬だけって感じがするかもしれませんが、こちらの店は、夏に来ても最高なんですよ!」

出会ったばかりの笠原拓人はそう言ってから、はにかんだ。

「すいません。緊張して、つい声が大きくなってしまいました」

「弊社の社長は、興奮すると声が大きくなることも、ございます」

舞がわざと営業スタイルで語る。

「舞さん、やめてください。イジらないでください」

笠原拓人は、さらに恥ずかしそうに身を縮めた。

「小さいころからパソコンばっか触ってて、もともと人とのコミュニケーションが苦手だったんです。社長になった今はだいぶ慣れたとはいえ、やっぱり得意ではなくて。だから変なタイミングで声が大きくなるんです」

タクシーの車内CMでよく見かける、笠原拓人の先鋭的な印象が崩れ去る。それは片桐も同じなのだろう。笠原拓人の自虐的な発言に大笑いしてから言った。

「意外ですよ。こんな接しやすい人だったんですね」

僕も、片桐と同意見だった。

「舞の結婚相手が良い人そうで良かったです」

僕はナチュラルにそう言ってしまい、心の中で頭を抱えた。

―思ってた人と、ちがう!

これは最終決戦だ。笠原拓人の悪い所を探せ。とばかりに戦闘態勢を整えていたのに…。

笠原拓人は、良いヤツだった。


夏のジビエ料理とワインのペアリングを楽しんで、あっという間に3時間が過ぎた。

お酒の力をかりて盛り上がったこともあるが、エスプレッソと茶菓子でコースを閉めた頃にはすっかり打ち解けて、僕も片桐も笠原拓人のことを「たっくん」と呼んでいた。

「いやー、会って安心したよ!」

「安心した!」

「たっくんなら、舞のことを任せられる!」

「任せられる!」

「たっくん。今後は舞のこと、よろしくな!」

「よろしくな!」

店を出た僕と片桐は、競い合うように笠原拓人を褒めちぎった。

「ありがとうございます!」

笠原拓人も大声を出して頭を下げた。なんなら男三人で肩を組みながら歩き出した。

「もう、なんなの」

背後から、呆れたような舞の声が聞こえたが、僕らは気にせずに三人四脚のような状態で歩いた。

タクシーで移動し、当然のように二軒目に向かう。

だが、そこで僕の記憶は途絶えた。

記憶を失うほどに酔っ払ったというやつだ。

無理もない。

敵対心を抱いていた笠原拓人は、業界の寵児と呼ばれてはいるものの、高飛車なところは一切なく、謙虚で優しくて愉快で、舞が惚れた理由もよく分かった。

僕が女性なら、片桐のような男と付き合いたいと常々思っていたが、もしかすると笠原拓人のほうが良い男かもしれない、とすら感じた。

―舞の結婚相手は、僕でなければ、片桐しかいない。

そんな奢った考えを持っていた自分が恥ずかしい。

僕や片桐が10年も片想いしていた舞は、やっぱり舞だった。彼女が生涯の伴侶に選んだのは、素敵な男性だった。

僕はそのことが嬉しくて、そして安堵して、飲みすぎたのだ。

だからこそ翌朝、意識が戻るように自宅で目覚めたとき、僕は青ざめた。

ベッドの隣で、舞が寝ていたからだ。

朝起きたら、憧れの女性がなぜか隣で寝ている!昨夜、一体何が起きたのか…?

ここは僕の家だ。僕のベッドだ。でも、なぜか隣に舞が寝ている。

片桐はどこだ?笠原拓人はどこだ?どうして自宅で僕と舞は二人きりで寝ているのだ?

はたしてこれは現実なのか、にわかに信じられない。

二日酔いの頭痛は、瞬く間に吹き飛んだ。

僕は必死に昨夜の出来事を思い出す。だが覚えていない。

僕と片桐と、舞と笠原拓人の四人でバーに行ったのを最後に記憶がないのだ。そもそも、どこのバーに行ったのかすら覚えていない。

ブランケットをめくって自分の体を見る。良かった。服を着ていた。

おそるおそる寝ている舞を見る。良かった。彼女も服を着ていた。

―しかし安心はできない。

ベッドを這い出た僕はリビングへ向かって、コーヒーを淹れ、ソファに座った。

日曜日の朝。僕と同様に、舞も仕事は休みだろう。すぐに起こす必要はない。彼女と話すのは、彼女が起きるまで待っていよう。

僕はテーブルに置きっぱなしにしてた自分のスマホを手に取った。

待ち受け画面を見て、心も体もフリーズした。片桐からの着信だらだけだ。いずれも不在通知で、僕が電話に出た形跡はない。

―もしかすると片桐は、舞が僕の家に泊まったことを知らないのだろうか。

LINEの通知もたくさん入っていた。いずれも片桐からだ。僕は恐怖でそれを既読にすることができなかった。

昨夜、いったい何が起きたのか。何も分からない。

笠原拓人がいるのに、なぜ舞はウチに来たのだろうか。

様々な選択肢を考えたが、答えが出るわけもない。片桐に電話して確かめれば一発なのだが…。

すると、ベッドルームから舞が目をこすりながら出てきた。


「おはよう」

舞はそう言ったが、何の疑問もなく言っているように見える。

「ああ、おはよう」

僕は平静を装いながら返事をした。しかし疑問を堪えることはできない。

「あのさ」

「なに?」

「昨夜、酔っ払いすぎて覚えてないんだけど、どうして僕の家に泊まっていったの?」

「やっぱり覚えてないか…」

どこか寂しそうに、舞は言った。妙に胸騒ぎがする。

「うん、覚えてないんだ。ごめんね」

「彼が言ったのよ」

「彼って?」

「私の婚約者」

「えっ、たっくんが?」

「彼が、小暮君の家に泊めてもらいなって言ったの」

舞は淡々と言った。

―何が、どうなってる!?

僕は衝撃でコーヒーカップを落としそうになった。

相手が10年来の男友達とはいえ、自分の婚約者をその男の家に泊まっていけという人間がいるのだろうか。

同時に、その申し出をすんなりと受け入れ、本当に男友達の家に泊まる女性がいるのだろうか。

そして何より、いくら10年間も片想いしていたとはいえ、結婚を控えた女友達を自宅に泊め、同じベッドで眠る人間がいるなんて…。

僕は最低だ。自分が信じられない。

顔面蒼白となった僕の胸中を察したのか、舞は少し笑って言った。

「心配かけたくないから言うけど、私たち、何もなかったよ?」

「そういう問題じゃない!」

思わず、声を張り上げた。自分に対して苛立っていたのも事実だが、理解のできない行動を取った舞と笠原拓人にも苛立っていた。

僕は、僕たちは、いったい何をしているのか…。

ーこのことを片桐は知っているのか…!?

僕は、ひそかに恋焦がれていた女性と、10年来の親友を同時に失う危険性に怯えた。


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一夜を過ごした小暮と舞。その謎めいた理由が明らかに。

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