「勘弁してよ…」男をジワジワ追いつめる、“オカン系”彼女の実態とは

スパイシーデイズ。

それは、自分を見失うほどの恋に苦しんだ日や、
仕事のミスが悔しくて涙を流した夜、
もう来ないとわかっているはずなのに返事を待つ、あの瞬間。

ほろ苦いように感じるけれど、
スパイスのように人生の味つけをしてくれる。

前回は商社マンの彼からの好意を勘違いした彼女が、目を覚ました出来事を紹介した。

今回紹介する彼女が過ごすのは、どんなスパイシーデイズ...?


オレンジ色に照らされた丸の内のビル群が、ふわっと優しく浮かび上がる。

金曜日の仕事終わり、丸の内ディナーを終えた一馬と皐月は、定番コースである皇居の周りを歩いていた。

「夏の夜は、虫の声も聞こえて気持ちいいね。一馬の実家に行った時のこと思い出す」

目を閉じて精一杯息を吸い込む皐月に、一馬はそうだな、と返事をすると、急に何かを思い出したかのように、あっと声を漏らした。

「そういえば俺、明日実家帰るわ」

「え?明日?急すぎない?」

それまでの穏やかな気持ちが一転し、一馬の突然の報告に皐月は怪訝そうな表情をした。

「父親の誕生日だから、もともと帰るのは決めてたよ」

「いやいや。決まってたなら言ってよ」

「今思い出したから言ってるんじゃん」

皐月からの反論に、一馬はいじけた子供のようにボソッと返す。

「今じゃなくて、もっと前から言えたはずじゃない?」

「なんでいちいち言わないといけないの?」

皐月の怒りに釣られたように、一馬の表情が一気に曇り、皐月の方を思いっきり睨みつける。

「いちいち予定報告する必要ないだろ。なんでいつも俺の行動把握しようとするの?何してるの?誰と行くの?とか、いちいち干渉しすぎて、うざい」

予想外の一馬の怒りに、皐月は怯みながら「でも...」と言葉を発しようとする。だが一馬はこの後、さらに言葉を被せてきた。

一馬ってもしかして私のこと...皐月が察した一馬の想いとは

「もういいよ、俺こっちから帰るから。また連絡するわ」

そう言うと一馬は一人、来た道を戻るように歩いて行った。



翌日、皐月は実家のベッドに横たわりながら、一馬とのやりとりを思い返して、ぼんやりと天井を見つめていた。半年前にようやく実家を出て以来、久しぶりの実家だ。

「久しぶりね」

声の元を振り返ると、母・洋子がドアからひょこっと顔を出している。

「うん、なんとなく」

皐月はまた天井に視線を戻すと、ボソッと返事をした。

「今日の予定は?」

「お昼ご飯は家で食べるけど、夜はちょっと出かけるかも」

「ふぅーん、誰と?」

「友達」

「どこ行くの?」

久しぶりの実家だというのに、取り調べを受けているような窮屈な気持ちになり、皐月はうーん、と言うと洋子の質問には答えず、そのまま目を閉じた。



その日の夜、友人との食事を終えて実家に帰ると、皐月がドアを開ける音に気がついた父親が、寝ぼけながら玄関まで歩いてきた。

「おかえり」

「ただいま」

そう呟くと、皐月はいそいそと自分の部屋に向かった。

-もう28歳なのに、なんでいちいち帰ってきたタイミングで起きてきたり、その日の予定を親に言わなくちゃいけないの?

自分が子供扱いされているような気がして、皐月は苛立ちを感じながら、部屋のドアを勢いよく閉めた。

翌朝、ダイニングテーブルに座って、皐月は目の前にあったクッキーを手に取る。

「それね、この間雑誌で紹介されてた『OVGO Baker』っていうブランドのビーガンクッキーなんだけど、気になってお取り寄せしたの!」

ニコニコと話す洋子の話に、ふぅ〜んと言いながら、皐月はクッキーを口に運んだ。

柔らかい食感とともに、ほんのり香るブラックペッパーのピリッとした味とクッキーの甘さに、思わず皐月は目を大きく開け、「美味しい」と呟く。


「で、彼は元気なの?」

「うーん。喧嘩した」

「えぇ〜!なんで?」

「まぁ、色々あったのよ」と洋子の言葉を雑に交わしながら、皐月は大きくため息をついた。

-なんでいちいち干渉されないといけないわけ?

そう心の中で呟いた途端、皐月はクッキーを食べる手を止めた。

-干渉...。

その途端、皐月は自分の行動を急に思い返した。「いつ行くの」「誰と行くの」「どこに行くの」「なんでもっと早く言わないの」一馬の全ての行動を把握しようとした皐月の言動が、両親のそれと重なるように思えた。

-もしかしたら、一馬もこんな気持ちだったのかな。一馬がうざいって言うのも納得だし、これじゃあオカン系彼女じゃん...

皐月は急に自分が恥ずかしくなって、両手で顔を覆った。

「何、どうしたの?」

皐月の態度に違和感を感じた洋子が心配そうに聞いてくる。

「ねぇ...。お母さんはさ、お父さんと付き合ってた頃、何してるかなとか誰とどこ行くんだろう、とか気になった?」

母との会話で、皐月が気がついたこととは

思いもよらなかった皐月の質問に、洋子は少し不思議そうな表情をしながら、うーんと顎に手を当てて考える。

「そうねぇ。気になったけど、でも気にし始めたらキリがないじゃない」

「ふーん。じゃあなんで私にはいちいち聞くの?」

「あんたは幾つになっても子供だからよ、心配だから気になるの」

呆れたように笑う洋子に、皐月は「ふぅーん」と素っ気なく返事をした。

-私も一馬のこと、心配だったのかな。

過去、一馬も皐月もお互いに嘘をついて異性の友達と2人きりで出かけたことがあり、何度か別れては復縁してを繰り返していた。

-あんなことしてたから、信頼関係とか無かったな。

そんなことを考えてぼーっとしていると、その様子を眺めていた洋子が何かを察したように、言葉を続けた。


「恋人が何してるのかなって考えて、不安になったり毎回疑ったり、推測してばっかりの関係なんて、不健康よ。相手には相手の人生があるってこと、忘れちゃいけないんじゃない」

その言葉を聞き、皐月は胸をズドンと押されたような気持ちになる。

それと同時に、居ても立っても居られない気持ちになった。

-今すぐ、一馬に謝らないと。

そのままパッと携帯を取り皐月は勢いよく立ち上がった。洋子は皐月の姿を穏やかな目で眺めている。

「ごちそうさま」

ニコッと洋子の方に笑顔を向けると、皐月は自分の部屋に急いで戻りながら、電話履歴から一馬の名前をタップした。

「もしもし」

すぐに電話に出た一馬の声はいつもより声のトーンが低い。

「あの...考えたんだけど...」

一馬の警戒心を感じ、皐月は緊張して喉が乾くような感覚に襲われた。ゆっくりと、深呼吸をするように息継ぎしながら、皐月は言葉を続ける。

「ごめん。私いちいちうるさかったよね」

皐月の言葉に、一馬は、「うん」とだけ返事をした。

「私、一馬のこと、信じてるからもう干渉しないよ」

「うん...」

そう呟いた後に、一馬はボソッと付け足した。

「俺もうざいとか言って、ごめん」

一馬の声色が柔らかくなったのを感じ、皐月は思いきり息を吸うと、「うん」と笑みを浮かべながら大きく頷いた。


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