プロ野球戦力外選手の意外な就職先。ベンツからプリウスに乗り替え営業に駆け回る

拡大画像を見る

◆トライアウトには採用担当者が行列していた!

 プロ野球で戦力外となった選手たちが、一縷の望みをかけて挑む最後のテストは、選手の家族やファンのための“引退試合”ともいわれる。その形骸化が叫ばれる一方で、企業は人材発掘のチャンスと見る。深刻な人手不足の時代は、選手のセカンドキャリアの門戸を開く。

◆一般企業が戦力外選手に秋波を送る理由とは!?

 毎オフに実施される12球団合同トライアウトが、様変わりしている。プロ野球とは関係のないさまざまな企業が会場に来て、選手たちを“スカウト”するようになったのだ。昨年は、警視庁もブースを設置。第四機動隊の野球部には現在3人の元プロ野球選手が在籍する。

 なかでも、企業がまばらだった’15年から毎年会場を訪れているのがソニー生命保険だ。今では、柏支社に鵜久森淳志さん(元ヤクルトなど)、福田将儀さん(元楽天)をはじめ、7人の元プロ野球選手が営業マンとして働く。なぜ元選手を採用するのか。柏支社長で元ラガーマンという落合大輔さんに話を聞いた。

「意外に思われますが、多くのラグビー選手が引退後の再就職に苦労します。仲間が退団したときの“受け皿”をつくりたいと思ったのがこの活動を始めたきっかけです」

 同社には、さまざまな元スポーツ選手が在籍するが、まずは顧客へのライフプラン提示同様、当人にとっての最善策を一緒に考える。引退後、他業種へ転身したいとなれば、落合さんと旧知のGG佐藤さん(元西武など)が立ち上げたアスリートのセカンドキャリア支援団体と協力して、無償で再就職のサポートをする。最初に選手のライフプランを考える意味について、落合さんはこう語る。

「実は、優秀なアスリートほど、人生を選択したことがないんです。野球選手なら、子供の頃から野球漬け。野球で進学し、球団もドラフトというクジ引きで決められてしまう。だから、いざ“野球のレール”を外されるとどうすればいいか、誰に相談すればいいかわからない。それで相談されたときに、例えば、子供を2人抱えて不安だと聞いたら、どのぐらいお金がかかるかを教えると、そこで初めてお金という判断軸ができます」

 まずは自分がすべきこと、したいことを可視化して選択させることが、本人にとって何より大切なので、入社の勧誘は二の次という。

 実際、ソニー生命への転職は容易ではない。営業マンである「ライフプランナー」は、経済や税務にも明るい金融のプロ。そのため、入社希望者も目標や適性を見極めるため、C.I.P.(キャリア・インフォメーション・プログラム)という同社独自のセッションに参加し、複数の試験と面接が必須。そのプロセスを突破した精鋭が鵜久森さんと福田さんだ。2人のようにソニー生命で正社員になれば、今後もキャリアアップの資格試験が続いていく。鵜久森さんは、学ぶ喜びを隠せない表情で語る。

「僕は高卒でプロ野球界に入ったので、今こうして社会の仕組みを知ることに興味が尽きません。まだ“社会人1年目”ですが、『少し前まで野球選手だったの?』って驚かれたり、知っている人には『よく勉強してるね。もう金融機関の人だね』って言われたりするのも、やりがいの一つですね」

◆選手時代のベンツからプリウスに乗り替え、月5000kmを走る

 入社2年目の福田さんは、選手時代に高級車の代名詞であるベンツに乗っていたが、今ではプリウスに乗り替え、月5000kmを走る。外食は、レストランの個室から、立ち飲み屋にも出入りするようになった。すべては、「お客さんのため、いろいろな人の考えを理解するため」という。台風15号の直後は、千葉で被災した顧客のエリアへ駆けつけ、水を吸った畳を撤去するなど重労働にも奔走した。

「野球選手時代は、裏方のスタッフや大勢のファンが支えてくれました。今は支える側なのが嬉しい」と2人は目を輝かせている。

 セカンドキャリアを歩む元選手たちは、生き生きと新境地を開拓している。幾多の壁を乗り越えてきたアスリートは、異なるフィールドでも逞しく成長できるのだ。

【福田将儀さん(27歳)】
’14年にドラフト3位で楽天に入団。俊足巧打が売りも’17年に戦力外に。’18年から現職で、昨年は営業成績が優秀で、社内新人賞を受賞した

【鵜久森淳志さん(32歳)】
’04年ドラフト8巡目で日本ハムに入団し、’16年からはヤクルトに移籍。長打力が魅力も’18年に戦力外となり退団。今年から現職

取材・文/松山ようこ 撮影/遠藤修哉(本誌) 写真/朝日新聞社 日刊スポーツ新聞社
※週刊SPA!10月21日発売号「元プロ野球選手の意外な就職先」より


関連リンク

  • 10/22 15:53
  • 日刊SPA!

スポンサーリンク

記事の無断転載を禁じます