「子どもが欲しいの・・・」。年下の若い男に、34歳の女が本音で想いを告げた夜

30を過ぎた女たちは、“年下の男”に対して幻想を抱く。

かわいくて、甘え上手で、癒し系。年下の恋人ができたら、きっと、とびきり楽しい毎日が待っている。

…だけど、もしもそれが「結婚」となったら?

―年齢差があればあるほど、頼りない。
―将来浮気されてしまいそう。
―もしかして、お金目当て?

そんな疑念がつきまとうのだ。

ベンチャーキャピタル勤務の山口泉(34)は、ある交流会で出会った7つ下の西村晴人から、いきなり告白され、友達から始める事に。

良い雰囲気だった二人だが、泉は自分が年上だということを無意識に感じてしまい、徐々にすれ違い始める。

デート中、晴人が濱野舞から電話があり、彼女の元に駆けつけてしまう。翌日お詫びをしたいと連絡が来たが…


「あ、泉ちゃん、久しぶり!」

「わ、夏子さん、お久しぶりです」

今日晴人と改めて会う約束をしていた私は、複雑な気持ちを抱えながらオフィスの廊下を歩いていた。

そこですれ違ったのが、他部署で1つ年上の夏子さん。彼女は確か、1年ほど前に結婚した記憶がある。

ふと見ると、スレンダーな彼女のお腹が、少しふっくらと美しい曲線を描いていた。

「…え?もしかして…」

「あぁ、そうなの。実は妊娠してて。再来月には産休に入ろうと思ってる」

「えーそうだったんですね!わー、おめでとうございます」

いわゆる"バリキャリ"の彼女。しばらくは結婚生活を楽しむと言っていたのに、こんなに早く産休に入るとは。

「私ももう35歳だからさ、焦っちゃって。もともと生理不順だったし、体力のあるうちに産んでおきたかったの」

そう冷静に話す彼女の表情は、非常に柔らかく幸せそうだ。

そんな彼女を見ていると、やはりどうしても自分の中にあった気持ちがむくむくと湧き上がってくる。

ー幸せそう…。私もやっぱり、いつかは子供が欲しいな…

本心に気がついた泉。30半ばの独身女が抱える大きな不安とは?

気がつけば34歳。

周りは結婚ラッシュを通り越して、出産ラッシュだ。中にはもう3人も産んでいる友人もいる。


ー私は…将来どうなるんだろう…?

ふと晴人の顔が頭に浮かんだ。もし、彼と付き合うことになったら…?

彼と付き合って、順調に行ったとして、1年後にプロポーズ。そこから籍を入れるのに半年。新婚生活を1年…なんて過ごしていたら、あっと言う間に37歳手前。妊活だって必要かもしれない。

いや、そもそも彼は結婚願望があるのだろうか?若い彼が、しかも起業家としてまだまだ駆け出しの彼が、子供を持つなんて考えているのだろうか?

ー彼の人生設計において、私は必要なの…?

付き合う分には良いかもしれない。彼にとって私は年上で甘えさせてくれて、同年代とは違った新鮮さを感じるかもしれない。

でも、将来は?いざ結婚となると、怖気付くのでは?もし結婚したとして、子供ができなかったら?初めは若いと思っていたのに、いつの間にか随分とおばさんに見えてしまったら?

周りの同年代の女の子を見て、彼はどう思うだろう。「早まったな、失敗したな…」そう思ってしまわないだろうか?

ー彼と付き合うことができたところで、二人は幸せになれるの…?

分かっていたはず。それでもやはり現実を見始めると、私はどうしようもない不安に駆られるのだった。



その晩、何とか仕事を終わらせた私は、近くに来てくれた晴人と、バーで話すことにした。

「今日は時間作ってくれてありがとう。昨日は本当にごめん!」

「ううん、あれから彼女…濱野さんは大丈夫だった?」

「うん、お陰様で。彼氏にひどい振られ方したみたいで、ちょっと取り乱していたけど、もう大丈夫だって。あ、飲み物以外、何か頼みますか?」

昨日の出来事は大したことがない、とばかりに話を終わらせてしまうので、私も「そっか、それなら良かった…」としか言えなくなる。

ーきっと、本当に何もなかったんだろうな…

そうは思うものの、やはり気になる。

どうして晴人が行かなければならなかったのか。彼女と晴人の関係は、本当に"ただの友達"なのだろうか。

素直になろうと決めたけれど、悲しいかなそんな簡単には変われない。

私が一人で悶々とした気持ちでいると、急に晴人が切り出した。

「あの…それで…、今日時間を取ってもらったのは話があって…

泉さん、やっぱりもう一度、俺とのことを考えてくれませんか?まだ前の人と別れたばかりで、そんな気になれないのなら待ちます。でも、もし可能性があるのなら、もう一度考えて欲しいんです…」

「…」

嬉しいはずなのに。

どうしても「うん」とは言えなかった。

好きな男からの告白に、女が出した切ない決断とは?

ー晴人との関係に、本当に未来はあるの…?

晴人の前だと、素直に聞きたいことも聞けない私。結婚したくて、子供が欲しくて焦ってしまう私。

そんな私が、彼に相応しいとは思えない。

「ありがとう…。晴人の気持ちはすごく嬉しい。でも…」

「でも…?」

晴人はすごく真剣な顔で、私の言葉に耳を傾ける。


「私ね…できれば結婚もしたいし、子供も欲しいの…」

「…うん」

「晴人はさ、結婚とか子供とか、考えたことある…?」

私の重々しい口調に、晴人は難しい顔をして黙り込む。そして、しばらく考え込んだ後に口を開いた。

「正直…今はこんな不安定な状態だし、自分の会社のことで頭がいっぱいで、あまりそういったことまでは考えたことがなかった…」

「そう…」

「…でも、いずれ家庭を持ちたいと思ってる。泉さんとも、結婚を視野に入れて真剣に付き合いたいと思ってるよ…」

彼はそう言ってくれたものの、だんだんと声の調子が弱々しくなっていく。

それもそうだろう。東京の、しかも夢を追っている20代半ばの男が、結婚や子供なんてまだ考えられないのも当然だ。

「いずれ…だよね…。私もう34なの。晴人はまだ今年で27だから、分からないかも知れないけれど、私には“いずれ”なんて言ってる時間がないの…。のんびりしていたら、子供が出来ないかもしれない。

だからって、晴人に今すぐ私と結婚して欲しいとは思わない。私の人生設計に、あなたを無理矢理巻き込みたくはない」

「…」

彼が悲しい顔をするも、私は見ないようにして続けた。

「きっとこの先、私のことを負担に感じる時が来ると思う。そうはなりたくないの。今なら、ただの友達に戻れる。だから…やっぱり付き合うのはやめよう」

自分で言ったくせに、急に悲しくなった私は、彼から目を背けて涙を必死で堪える。ここで私が涙なんて見せたら、ただこの状況に酔いしれているだけに見えてしまう。

黙って聞いていた晴人は、怒っているのか悲しんでいるのか、険しい表情をしてこう尋ねた。

「泉さんは…それでいいの…?」

「…うん。晴人のことは本当に素敵だな、と思ってた。でも、やっぱり…。現実問題を考えると、難しいよね…」

「…そっか…」

これで良かったのだ。

世間には年の差があっても、うまくいっているカップルはたくさんいるだろう。だけど、私たちにはハードルが高すぎる。

何も考えないようにして付き合うこともできた。でも、結婚や出産に焦る私と、夢の実現のために頑張る彼とでは、見据えている方向が全然違う。

いずれそこに摩擦が生まれるのは、目に見えている。

最後に晴人が放った、悲しい言葉。そして泉に新しい話が舞い込む…!?

「今まで、ありがとうね。私、晴人にいっぱい救われた。智也と別れた時とか、晴人がいたから乗り越えられた。ありがとう」

「いえ…、助けられたのはこっちの方です…」

晴人は何かを言いかけたが、俯いたまま黙ってしまった。付き合っていたわけでもないのに、彼との別れを思うと本当に心が痛い。

帰り際、晴人は駅まで歩くと言ったが、私は彼と一緒に歩くのが辛くて、逃げるようにタクシーを拾った。

最後に窓を開けて晴人を見ると、彼がドア越しに言う。

「泉さんはさっき、ただの友達に戻れると言ったけど…正直、俺はそんな風には簡単に割り切れない…」

「…晴人…」

私もこのまま彼と普通に友達になんて戻れないだろう。

だけど、彼と完全に切れてしまうことが怖くて言った『友達』という逃げ道。そんな甘い考えが、真っ直ぐな彼には通用しないのだ。

「…じゃあね。仕事、頑張ってね」

「…うん、ありがとう。泉さんも」

後ろ髪をひかれる思いのまま、タクシーは晴人の元を去って行く。

本当なら、抱きしめて欲しかった。このまま離れたくなんてなかった。だが、感情だけで動けないのが私なのだ。

彼が口にした最後の言葉が、胸に突き刺さる。もうきっと、晴人とこうやって会うことはない。

後ろを振り返ると、窓ガラス越しに見える晴人の姿がどんどん小さくなっていく。タクシーが彼から離れるほど、心まで本当に離れていくようで、私の目からはポタリ、ポタリ…と涙がこぼれ落ちた。

小さい頃は、大人になれば自由を手に入れて、やりたいことは何でもできると思っていた。

けれど実際は、年齢を重ねるほどに責任としがらみが増え、どんどん身動きが取れなくなってくる。

彼と別れたところで、私が結婚できるのか、子供が産めるのかなんて分からない。けれども、私の勝手な人生設計に、未来のある彼を巻き込んでしまうことの方が怖かったのだ。

大きな夢を抱き、将来に向かって突き進んでいる彼にとって、私は重荷でしかない。

「これで、良かったのよ。これで…。あーあ、婚活始めようかな…」

家に着いた私は、散々泣きはらした後、自分を奮い立たせるように大きな声で独りごちたのだった。


それから数週間後。

有難いことに仕事だけは順調に忙しく、晴人のこともあまり思い出す時間もなく過ごしていたある日、飯田さんからLINEが届いた。

「来週あたり、ご飯行かないか?二人で」

‘二人で’が強調されているような気がして、思わずドキッとする。

ーいや、特に意味なんてないでしょ…。ちょっと過敏になりすぎかな…。

そう思い直し、飯田さんとのご飯は良い息抜きになる、とすぐに返信した。

「はい、ぜひ。金曜とかどうですか?」



飯田さんが予約してくれたのは、六本木にある『LORE Tokyo』だ。普段日本に住んでいないのに、話題のお店は常に把握しているのが彼らしい。

いつものように仕事の話や世間話を少しした後、彼が急に改まって話を切り出した。

「あのさ、今日はちょっと話があって…」

「話、ですか…?」

何ら脈絡もなかったので私がぽかんとしていると、飯田さんは真面目な顔をする。

「山口…、アメリカで仕事する気はない?」

突拍子もない彼からの誘いに、私は頭がついて行けなかった。


▶︎NEXT:9月29日 日曜更新予定
次回最終回。泉の運命は…?


▶明日9月23日(月)は、人気連載『立場逆転』

~高校卒業後15年。再会した2人の人生は180度違うものとなっていた…。女のプライドをかけた因縁のバトル、続きは明日の連載をお楽しみに!

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