【W杯詳細分析オランダ-コスタリカ】ここまでの全5試合で采配が的中 オランダを4強まで導いたファン・ハール采配の凄さ

なぜ名将はコスタリカ戦でPK決着を見据えることができたのか


 スナイデル、ファンペルシー、ロッベン……オレンジのスター軍団相手に120分を通してスコアレス、PK戦にまでもつれ込むほどの粘りを見せたのは、わずか1か月前に日本代表に1-3で敗北を喫したコスタリカだった。

 その試合で勝利を収めた日本代表はグループリーグで1勝も出来ず最下位でブラジルを去り、負けたコスタリカはウルグアイ、イタリア、イングランドと同じ、いわゆる死の組を無敗のまま首位で通過した。

 そのコスタリカを120分間圧倒しながらも得点を奪えず、最終的にはPK戦で勝利したオランダ。この2チームの死闘の背景を探ってみよう。

 このスコアレスの試合のヒーローは最後にPKストップしたティム・クルルでも、シュートを2本バーに当てたスナイデルでもない。おそらく監督のルイス・ファン・ハールの采配こそが称賛の的になるはずだ。

 ファン・ハールは、これまで必ずしも優位に進めることが出来ていなかった試合を状況に応じて3バック、4バック、3トップ、4トップと選手の配置を入れ替えながら、戦況を一変させてきた。

 まずは最初の表を見てほしい。オランダの決勝トーナメント1回戦までの4試合の前後半の数値だ。


 オランダは初戦のスペイン戦で大勝したが、先制点はスペインだった。全ての試合で前半拮抗しながらも後半で試合を決めている。それは単に選手が後半に頑張ったのではなく、頑張るための的確な選手交代、配置、何を改善すべきかの的確な戦術の指示が行われたからだ。

 2戦目のオーストラリア戦の2-2の状況から決勝ゴールを決めたのは途中出場のデパイ、接戦だったグループリーグ最終戦のチリ戦で先制点を挙げたのも交代直後のレロイ・フェル、ダメ押しの1点もやはり途中交代のデパイだった。

 決勝トーナメント初戦のメキシコ戦、すでに勝負あったかと思われた試合を同点としたのは、これまでワールドカップ通算15試合を戦ったスナイデルだったが、90分+4分に逆転のPKを決めたのは途中交代のフンテラールだった。

 一つの試合で多くの顔を使い分け、交代する選手が必ずと言って良いほど結果を出せば当然、監督の采配に目が行くのは当然だろう。

PK戦ではクルルの跳んだ方向と相手のキッカー5人が蹴った方向がすべて一致


 しかし、コスタリカ戦でファン・ハールはなかなか動かなかった。最初の交代は76分にデパイに変えてレンスを入れたが、システムの変更はしていない。もしも90分で決着をつけたかったのであればもう1枚、2枚の攻撃的カードを切ると同時に前の枚数を増やすという勝負に出たはずだ。

 だが、2枚目のカードを切るまでには105分、つまり延長後半まで待たなければならなかった。最終ラインの1枚インディを削ってフンテラールを入れ4-2-4、あるいは2-4-4にシステムを変え、ようやく勝負に出た。あと1枚のカードを残したまま……。

 最後のカードは121分、下手したらそのままタイムアップのホイッスルが鳴ってもおかしくない時間帯に切られた。その最後のカードはゴールキーパーのクルルだった。そしていつものようにそのカードは決定的な仕事をしてオランダの準決勝進出が決まり、コスタリカの夢が散った。

 この采配をいくつかの視点から見ていたい。実はもっとも大きな決断はこの時間までラストカードを切らなかったという決断なのだが、それはコスタリカの戦い方とも関係するので後で触れよう。あの時間にゴールキーパーを入れたことに関してどういう判断が働いたのだろう?

 クルル自体が必ずしもPKのスペシャリストというわけではなく、これまで120分間ゴールマウスを守ってきたシレッセンの感情を考慮すると、そんなに簡単ではない判断だったと思う。しかし、クルルのセービング方向から一つの仮説が立てられる。ボールに触れられた、触れなかったはさておき、相手のキッカー5人が蹴った方向とクルルの跳んだ方向が一緒だった。つまりコスタリカの選手のPKの蹴る方向があらかじめ分かっていた可能性が高い。

 延長戦前後半を戦って肉体的にも精神的にも疲労しているゴールキーパー、シレッセンに代えてベンチで戦況をしっかり眺め、冷静に蹴る方向についてインプットする作業に集中することが出来た可能性の高いクルルの起用は、なるほど頷ける。

 オランダはこれまでの試合では積極的に動いていたが、ファン・ハールがコスタリカ戦に限ってはなぜ最後まで沈黙を貫いたのだろう?

大会を通じて際立っていたコスタリカ守備陣のラインコントロール


 イラストを見てほしい。これはオランダチームのパスの軌跡だ。左が前半、右が後半、そして上の緑のラインが成功したパスとクロス、下の赤のラインが失敗したパスとクロスの軌跡だ。


 最終ラインの3枚プラス両サイド2枚の5枚の壁を越えて攻めることは簡単ではない。前半はパスを回せどボックス内に進入できず、緑色の横方向のラインが増えていくだけだった。そして、後半になってから縦のロングボールも横からのクロスもほとんどボックスの中の選手に繋がることはなかった。

 コスタリカ選手の対応に加え、成熟したラインコントロールはオランダの選手の裏への侵入をさらに困難にした。この試合だけで13回のオフサイドにかかることになった。初戦のスペイン戦の前半で4回オフサイドを取られたが、後半は1回、オーストラリア戦1回、チリ戦1回、メキシコ戦1回しかオフサイドにかかっていない。

 一方、コスタリカと対戦したウルグアイは6回、イタリア11回、裏を狙うよりドリブルやロングボールに頼るイングランドこそ1回だったがギリシャも10回オフサイドにかかっている。こうしてみるとコスタリカのラインコントロールの上手さがが突出しているのが分かると思う。

唯一疲労が蓄積しないポジション「監督」が勝敗を左右する


 次のイラストは、オランダとコスタリカの選手のボールタッチ、またはピッチ内の移動に関する平均ポジションだ。


 通常、左右ポジションチェンジを行ったり、上下動が大きいポジションの選手がいるため、ここまできれいにマッチングした図になることは滅多にない。ポゼッション率の高さからオランダがゲームを支配していたため、この図はコスタリカがほぼマンツーマンの対応をしていたことを表している。

 指揮官の頭の中ではこの固い守備をどうやってこじ開けるのかということと同じくらい、こじ開けられなかった時のことが思い浮かんだのかもしれない。無理にこじ開けようとして前に枚数をかけた結果、その裏腹のリスクが顕在化することは十分にあり得る。事実、強豪ウルグアイもイタリアもそれが理由でブラジルを去ることになったのだから。

 そしてファン・ハールは120分の激闘の末に待ち受けている勝負に向け、最後まで1枚のカードを残し、その切り札がオランダを4強へと導いた。

 ベスト4には欧州、南米の列強4カ国が残った。コンディション、カードの累積による出場停止、主力の怪我……各チームそれぞれの事情があるだろう。当然、疲労も溜まってきているはずだ。そんな中、唯一コンディションをキープできているのが「監督」というポジションである。

 これまでもそうだったように、この先の勝負は間違いなく「監督」の采配が勝利のカギとなるだろう。
 

analyzed by ZONE World Cup Analyzing Team
その他の分析記事: http://soccermagazine-zone.com/archives/category/analyze
データ提供元: opta
サッカーマガジンゾーンウェブ編集部●文 text by Soccer Magazine ZONE web

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