【W杯詳細分析・ブラジル-チリ】日本戦よりも明らかに激しかった南米同士の一戦 PK決着の激闘がエキサイティングでスピーディーだった理由

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ゴールに向かう直線的なプレーが目立った一戦



 決勝トーナメント初戦はブラジル対チリという「南米選手権」そのもののカードとなった。激しく、スピーディーでエキサイティングゲーム内容だった。結果は1-1でPK戦に突入し、開催国のブラジルがどうにか勝ち上がった。

 冒頭ではあえて分析の原稿としてはあまり使わない主観的な表現でこのゲームの印象を述べた。この試合に限らずグループリーグを突破したチームの多くはこうした内容のゲームを行っていたはずだ。今回はその激しくエキサイティングでスピーディーな試合の要因について分析してみたい。

 個人の技術は高いが規律や守備の組織面で課題が残るというのがこれまでの南米サッカーに対するイメージだった。また、サッカー王国ブラジルの南米での圧倒的な力に対抗するためにブラジル以外の他の国々はカウンターで対抗することが多かった。

 この試合ではそれらの定説はまるでひっくり返されていた。ブラジル対チリの試合のデータを見てみよう。

 ポゼッション率はブラジルの48.4%に対してチリは51.6%、パスの成功率は72.9%:76.2%、シュート数は23本対13本、オープンからのクロス数は25本対9本、Duels(フィフティ・フィフティの状況にあるボールをどちらが奪ったかを示すデータ)はブラジルの99勝87敗(勝率53.2%)だった。

 技術が高ければパスの成功率が高く、ポゼッション率でも相手を上回るはずだが、この試合ではチリの方が上だった。しかし最後のゴールに直結するクロスの数やシュートの数ではブラジルが相手を圧倒した。この試合を表現する興味深いデータをイラストで表したものを見てみよう。


 これは試合中プレーがどのエリアで起きたかを示すデータとポゼッション率だ。それぞれのゴール前で30%近いプレーが行われ、中盤でのプレーは44%だけだ。過去の多くの試合を見てみるとそれぞれのゴール前でのプレーが20%ずつ、中盤でのプレーが60%というのがほぼ平均値だ。つまりそれぞれのゴールに向かう直線的なプレーの数が増え、やや中抜き(中盤で作るという作業を省略するという意味)の傾向が見て取れる。

フィフティ・フィフティの攻防は日本戦の2倍近く



 一方それぞれ30%弱を占めるゴール前の攻防をイラストで見てみよう。


 左がブラジルの雨あられのような25本のクロスと23本のシュートで、右がクロスを多用しないチリのゴール前のプレーだ。

 ここに至る経緯として当然正確なパス回しで崩すトライはしているが、パスの成功率70%台の意味は前方へのチャレンジの数を示す。当然相手も簡単には前には入れさせない。そうした攻防の結果、多くDuelsが発生する。この試合のDuelsは186回だった。

 ちなみに日本の3試合はコートジボワール戦99回、ギリシャ戦101回、コロンビア戦103回とDuelsというプレー自体が大幅に少ないことが分かる。ボールを失わないこと、長い時間ボールを保持することで守備の時間を減らす戦術を取るため、必然的にチャレンジの数は減る。本来チャレンジなくして攻撃的サッカーは成り立たないがデータ的にチャレンジの少ないサッカーとなってしまっていた。

 一方、この日の「南米選手権」ではお互い南米のチームが組織だった守備が成熟し、ゴール前でしっかり組まれたブロックを簡単に崩せないことを理解し合っている。従ってその守備組織が出来上がる前に攻め込む攻撃、仮に出来上がってしまった時には無理にパスで崩すのではなく、意図的にルーズなボールを放り込んでDuelsの状況を作り上げることも行っていた。セカンドボール発生の数とそこでの激しい奪い合いがこの日の試合を演出した。

 冒頭で述べた激しくエキサイティングでスピーディーなサッカーがどのようなプレーで構成されていた結果かを理解して頂けたかと思う。

「哲学」を語らない、「スタイル」だけの議論は意味をなさない



 「南米選手権」も「欧州選手権」も共に国の威信をかけた戦いの場だ。戦いに勝つために自国の戦力、自国の正義に関する考え方や戦い方のフィロソフィー(哲学)については語られることは多い。その哲学に沿った戦い方をするためにスタイルが出来上がる。そのスタイルは哲学さえしっかり持っていれば変えることは何ら問題ない。

 「美しく勝つ」哲学を実践するためにサイド攻撃というスタイルで戦うことがあるかもしれない。パスをつなぎ倒すスタイルで戦うこともあるかもしれない。しかし効率性を重んじ前への速さを取り入れた攻撃を多用しても何らおかしくない。なぜなら目的は「勝つ」ことだからだ。哲学を語らないスタイルだけの議論は意味をなさない。

 日本代表の今回の敗戦を受けて「ポゼッションサッカー」の継続、「カウンターサッカー」への転換、「攻撃的サッカー」、「守備的サッカー」……などが語られ始めている。
大事なことを忘れている気がしてならない。それは「スタイル」以前に明確な日本サッカーの「哲学」を打ち出すことだ。それが「世界」で通用するサッカー、即ちこの日行われた試合で言えばブラジル代表にも、チリ代表にも、コロンビア代表にも、そしてウルグアイ代表にも勝つための最初の作業のように感じる。

 内田篤人選手がコロンビアとの試合の敗戦後にワールドカップの大会について尋ねられた時のインタビューが印象的だった。サッカーはどこでも同じ大きさのピッチの上で1つのボールで2つのゴールで行われるという面でいつもやっているサッカーと何も特別なことはないという趣旨の発言だったと思う。そうした何ら変わらない環境の中で様々なことが起こりうるサッカーという競技において、選手それぞれがそれぞれの場面で最適な判断を下し、プレーを実践し、勝利に結びつける方法を模索し続けることの重要さを教えてもらった決勝トーナメント第1戦だった。


analyzed by ZONE World Cup Analyzing Team
その他の分析記事: http://soccermagazine-zone.com/archives/category/analyze
データ提供元: opta
サッカーマガジンゾーンウェブ編集部●文 text by Soccer Magazine ZONE web

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