ブラジルが開幕戦を制した理由 その戦い方から見えた日本が勝ち抜くヒントとは

データから浮かび上がるブラジルの勝因



 6万人を超える観衆のもと、2014年FIFAワールドカップ(W杯)ブラジル大会が華やかに開幕した。世界最高峰のサッカー大会において西村雄一主審と相樂亨、名木利幸の両副審の日本審判団が開幕戦のレフェリーを務めるというのも素晴らしい快挙だった。

 母国開催で優勝候補筆頭とされるブラジル代表とオープニングマッチを戦ったのはクロアチア代表。クロアチアを率いた指揮官の端正な顔つきに見覚えのある人も多かったことだろう。2006年ドイツワールドカップのグループリーグ第2戦で日本代表がクロアチアと戦った時の10番、ニコ・コバチ氏だ。

 かつての闘将に率いられたこの日のクロアチアは、中盤に欧州の名門クラブでプレーする⑩モドリッチ(レアル・マドリード)、⑦ラキティッチ(セビージャ)、⑳コバチッチ(インテル)らを配置。その技術の高い中盤に加えて、登録メンバーの平均身長が183.8㎝と高さも誇った。さらにクロアチアはこれまでのW杯で戦った13試合で失点がわずか11点(0.85点/試合)と、今大会の出場32か国中最も1試合平均の失点が低く、伝統的に堅守が特徴のチームだ。

 決して簡単な相手ではないそのクロアチアに対して、ブラジルは先制点を許しながらも、エース、ネイマールの2発などで逆転勝ちを収めた。直近12試合のW杯オープニングマッチのうち8試合が1ゴール以下というデータが示す通り、非常に難しい開幕戦を3-1で勝利したブラジルの初戦はどのような展開だったのか。今大会の全試合のデータをリアルタイムで収集しているOPTAの数値を基に分析していきたい。

 まず、Tactical Formation(戦術的フォーメーション)というデータからこの試合内容を振り返ってみよう。最初のイラストを見てもらいたい。

▲データ提供: opta

前半を狙い通りの展開に持ち込んだクロアチア

 この図は、試合中各選手がボールを触った場所(パスを受けた場所、シュートした場所、クリアをした場所等全てのボールに関わるプレー)の平均の位置を示すものだ。一目見てブラジルのプレー位置が高く、クロアチアのボールタッチ位置が低いことが見て取れる。

 クロアチアは豪華な中盤を擁していながらも、ブラジルの攻撃力に対抗するために、試合の立ち上がりから自陣でしっかりとブロックを作ってパスを「回させ」つつ、ゴールに近いところへの縦パスは入れさせない守備を徹底した。しびれを切らせたブラジルが長いボールを放り込んだり、縦パスを入れた瞬間のインターセプトが、彼らの攻撃のスイッチだった。奪ったボールを素早くサイドに運びカウンターアタックをしかける攻撃に徹していたのだ。

 前半終了時のポゼッション率(ボール保持率:http://soccermagazine-zone.com/archives/831)はブラジル70.2%に対し、クロアチア29.8%、パスの本数で表すとブラジル262本対クロアチア103本、パスの成功率も89.3%対68.9%とその差は圧倒的だった。

 ブラジルは前半、最終ラインの4人と、図でも表れている通り低い位置でプレーしていたボランチ⑰ルイス・グスタボの5人で全体のパスの67.5%を回していた。5人の選手による180本近いパスのうちトップの⑨フレッジに通ったのはわずか2本だけ。そのデータからも、ブラジルの後ろの選手にはパスを「回させる」が、前の選手には「通させない」というクロアチアの守備戦術がいかに機能していたかが分かる。

 ブラジルにこれだけ圧倒的にボールを持たれていても、流れの中からのクロスボールの数はブラジルの10本に対してクロアチアが8本とほとんど遜色がなかった。これはクロアチアが奪ったボールをいかに効率的に攻撃に繋げたかを示している。

 こうした前半の展開でありながら最終的には3-1というブラジルの強さを示すデータはどの部分だったのだろうか?

▲データ提供: opta

サイドから攻めたブラジルと中央から攻めたクロアチア

 ピッチ上に上方向の矢印があるイラストを参照してほしい。これはアタッキングサードと呼ばれるエリアでピッチを縦に3分割した時、右、左、中央どのエリアでパス、クロス、シュート等のプレーが行われたかを示す図だ。つまり敵陣に攻め入った際にどのエリアを最も多く活用しているかを示しているのだが、ブラジルとクロアチアではその割合が大きく異なることが見て取れる。

 ブラジルは右サイドでプレーした⑪オスカルの調子が良く、一方、⑦フッキの調子が思わしくなかったために右サイドの攻撃が多かったものの、それでもサイド攻撃の割合は82.7%、対して中央からの攻撃は17.3%だった。逆にクロアチアは中央が30.4%と結果的に世界最高といわれるセンターバック、チアゴ・シウバと圧倒的なフィジカルを誇るダビド・ルイスが待ち構えるエリアへの勝負を挑むことになってしまっていた。

 現代サッカーにおいてバイタルエリアと呼ばれるゴールの延長線上の中央付近は最も侵入が厳しい場所だ。しかし最終的にはそのエリアに入らない限り得点の確率は高まらない。それを直接的に攻めるのと、一度サイドを使って相手を外に寄せて、中央の守りを手薄にした後で攻めるのとでは効果が異なる。ブラジルが再三作ったチャンスは、相手陣内左右深いところに入り込んだ後の中央への折り返しのパスによるものだった。

 さらに前半の1-1という結果を受け、後半大きく変わったデータがある。ポゼッション率だ。

ブラジルの強さと本質と日本代表に足りないもの

 ブラジルの51.6%に対してクロアチアは48.6%と劇的に改善されているが、これは同時にクロアチアのゲームプランが崩れたことを示すデータでもある。相手に回させて奪って効率よく攻めていたはずが、回させられる状況を作られてしまった。結果、前半見られたキレのいいカウンターは後半すっかり鳴りを潜めた。それはボールを失ったブラジルの選手の切り替えの速さであったり、後方の選手のポジショニングの修正によるものだ。それを示すデータを見てみたい。

 Duelsと言われるデータがある。これはフィフティ・フィフティ、つまり五分五分の状況下でどちらがボールを奪ったかを示す数値だ。セカンドボールへの対応の多くがこのデータに含まれる。

 前半は33勝24敗(勝率57%)と相手を上回ったブラジルは、後半さらに41勝24敗(勝率63%)と向上させている。ブラジルは昨年のコンフェデレーションズカップで優勝した時もこのデータが非常に高く、奪ったボールをつなぐスキルや失ったボールをつながせない守備力が最も優れていたチームだった。

 前半の苦戦を経て自分たちが良かった時のイメージが蘇ってきたのだろう。前半のネイマールの得点、後半終了間際のオスカルの得点ともにシュートの質の高さが称賛されているが、シュートに結び付いた直前のプレーに注目してもらいたい。相手ボールを奪った後の前への速さと推進力がゴールへと直結しており、一連の流れはブラジルの真骨頂ともいえるものだ。

 ブラジルの強さの本質は、相手がこういうことをしてきたからこうしようという戦術の柔軟さと、それをこなすタレントの豊富さにある。それを持ち合わせた上でどんな試合でも、相手が一瞬気を抜く瞬間、「切り替え」のタイミングを見逃さない。

 日本代表の直近3試合の分析をしてきたなかで最大の懸念点は、切替の瞬間、まさにこのセカンドボールの対応だった。開幕戦を見て感じた通り、ワールドカップは国の威信をかけて戦うガチの真剣勝負の場だ。セットされた状況の打破は決して簡単ではない。一瞬のスキが生まれる瞬間を決して逃がさない。それがこの開幕戦でブラジルが日本代表に対して示してくれたヒントに違いない。

analyzed by ZONE World Cup Analyzing Team
その他の分析記事: http://soccermagazine-zone.com/archives/category/analyze
データ提供元: opta

サッカーマガジンゾーンウェブ編集部●文 text by Soccer Magazine ZONE web

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