キューガーデンのボタニカルアート展が東京都庭園美術館で開催中

「キューガーデン 英国王室が愛した花々 シャーロット王妃とボタニカルアート」が東京都庭園美術館で開催中!

アール・デコ様式の瀟洒な空間をいろどる植物画に心が和らぐ

シデナム・ティースト・エドワーズ ボタンの栽培品種(ボタン科) 1809年 銅版、手彩色、紙 個人蔵 Photo Brain Trust Inc.

作品と空間が見事に融合した美しい展示の数々

多種多様な木々と芝生の庭園に囲まれたスケール感のある東京都庭園美術館の展覧会は、美しく静謐でありながら親近感のある植物の数々が絵画となって展示室を彩っています。今回の展覧会について、担当学芸員の吉田さんに話を聞きました。

フランツ・アンドレアス・バウアー ゴクラクチョウカ(ストレリチア・レギネ)(ゴクラクチョウカ科) 1818年 石版、手彩色、紙 キュー王立植物園蔵 ©The Board of Trustees of the Royal Botanic Gardens, Kew

様々な展示の工夫が

「世界屈指の植物園として知られる英国王立植物園キューガーデンが所蔵するボタニカルアートを軸にした展覧会です。

中でもキューガーデンの発展に貢献したシャーロット王妃にフォーカスすることで、当時のイギリスの時代背景や女性の活躍・社会進出など幅広い点に着眼しているのが特徴です。シャーロット王妃や女性画家たちをテーマにした章も構成に入れています。

当館は女性のお客様が比較的多くいらっしゃるので、その意味でも今回の展覧会は興味深くみていただけるのではと感じます」(吉田さん)

会場風景

来場者の皆さんに理解を深めてもらうための工夫をされている点もあるとか?

「展覧会のタイトルが柔らかいイメージなので、実は学問的な展示内容とギャップが出ないように思案しました。

そこでキャプションに添えた一言解説であったり、モティーフになっている植物の実物写真を作品の脇に展示したり、より近くに作品を感じてもらえるように工夫しました。

実際の植物の写真は、隣接している国立科学博物館附属自然教育園に協力をいただいています」(吉田さん)

キャプションと言うと、作品解説と思ってしまいますが?

「例えば、描いた作家についての紹介であるとか、この作品がどういう意味合いで展示されているかの説明を一言文で添えているんです。」(吉田さん)

作品鑑賞のヒントになるような心遣いが嬉しいですね。さらに今回の展覧会では、ボタニカルアートだけでなくテーブルウェアファンにはたまらない魅力的な作品展示もあるのです。

ウェッジウッド 蓋付き深皿(クイーンズウェア) 1765-70年 クリームウェア(陶器)、エナメル彩 個人蔵 Photo Michael Whiteway

それが、シャーロット王妃がクイーンズウェアの名称を与えたウェッジウッドの陶磁器の展示です。ティーポットや蓋付き深皿などの名品がアール・デコ様式の空間を高貴に彩っています。

作品の展示方法にもひとひねりが

「当館は旧朝香宮邸を美術館として活用しています。朝香宮ご夫妻が1925年にパリで開催されたアール・デコ博覧会をご覧になって、帰国後にアール・デコ様式の邸宅を計画されて建設されたのがこの建物なんです。

数多くある部屋の背景やイメージに合った作品の展示をすることで、部屋と作品との相乗効果で空間を楽しめるように演出しました」(吉田さん)

会場風景

まるで、インスタレーションのような展示と部屋のマッチングを感じます。アール・デコ様式の本館だけでなく、新館の展示にもテーマがあるようですが?

「本館から渡り廊下で繋がっている新館の展示室は、シンプルな白い空間のホワイトキューブになっています。こちらでは作品を図鑑のように楽しめるように整然と作品をレイアウトして展示しています」(吉田さん)

図鑑をめくるように作品が楽しめるというのは、とてもユニークな発想ですね。来場者の方からも「来てよかった」「ためになった」という感想があるそうです。

学芸員からのメッセージ

「ボタニカルアートは、もともと薬草の研究、医学、植物学といったサイエンスの分野から始まっています。そこから進化していることもあって、鋭い観察眼により精緻に描かれた絵になっています。

学問がベースですから、植物の断面図や部分図など伝えるべき情報が計算されて作られているのも特徴です。

もちろん、純粋に花々に囲まれている楽しさも体感できると思います。これからの季節は紅葉を楽しめる時期なので、作品だけでなく庭園を眺めながらゆったりしたひとときを過ごしていただくにもおススメです。」(吉田さん)

話題がいっぱいの美術館

忙しなく動き続ける情報化時代のなかで、安らぎの時間を過ごして頭をスッキリ切り替えるには、うってつけの癒しスポットといえるでしょう。

館内には、同展とコラボしたランチメニューやデザートが楽しめるレストランやカフェもあります。また、音楽コンサートや朝香宮ご夫妻が過ごした当時の様子をうかがい知ることができる年に1回の「建物公開展」もあり、話題が盛りだくさんの美術館なのです。

この機会にぜひ、ご覧あれ!

東京都庭園美術館

「キューガーデン 英国王室が愛した花々 シャーロット王妃とボタニカルアート」

開催期間:2021年11月28日(日)まで

開館時間:10時~18時(入館は17時30分まで)

休館日:毎週月曜日(祝日の場合は開館、翌日休館) 

入館料:大人1,400円ほか ※オンラインによる日時指定予約制

https://www.teien-art-museum.ne.jp/

プロフィール/SEIJI(小太刀正史)

フリーキュレーター。

MeDEL個人事務所主催。学芸員の目線から美術館の情報を発信する活動を始める。自身もオブジェ作家として活動歴あり。OBJECT東京展入選 FromA The art日本オブジェ部門佳作 日本文化デザイン会議ETDA展参加など。

2021/10/27 14:20

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