中山咲月、トランスジェンダー&無性愛者の公表に至るまで 「嘘をついた」過去・いじめられた経験で変わったこと<「無性愛」インタビュー>

【モデルプレス=2021/09/26】フォトエッセイ「無性愛」をワニブックスから9月17日に発売したモデルで俳優の中山咲月(なかやま・さつき/23)。本書にてトランスジェンダーであり、「無性愛者」というセクシュアリティについて告白した中山。「分かってもらいたいのではない」と明言する中山があえて公表した理由、そして「嘘をついた」という過去とは。いじめられた経験や家族との向き合い方、葛藤を経て前を向けるようになった今の胸中に迫った。

◆中山咲月「無意識に自分自身へ嘘をつき続けていました」

中山は13歳のときにティーン向け雑誌「Pichile(ピチレモン)」第19回オーディションにてグランプリを受賞し芸能界デビュー。自らで芸能界を志したというよりも周りの後押しが大きかったといい、「親戚とか周りに推されてオーディションを受けさせて頂いて芸能活動もいつの間にか始めていたという感覚」と振り返った。

当時は自身の性自認についての自覚もなかった。「そのときは用意してもらうレディースの服に対してあまり興味を持てなくて、モデル業なのに服に興味がない、という状態でお仕事をしていたので、それに対しての若干の違和感はありました」

その後、黒髪ショートカットに美少年のような容姿が話題を集め、テレビ番組で「ボーイッシュさが人気の女性モデル」として紹介されたほか、“中性女子”“ジェンダーレス女子“”イケメンすぎる女子”といったキャッチコピーで知られるように。

エッセイでは当時のことを「嘘をついた」「中性的を突き詰めればベースは『女性』。周りが求めるジェンダーレス像は自分を消した上でしか成り立たないものにいつしかなっていた」と赤裸々に“嘘”とつづっている。当時違和感を抱えながら、そういったカテゴライズを受け入れた心境は――

「自分自身をカテゴライズしたことは一度もなかったんですけど、やっぱり分かりやすい名前みたいなものとしてそう呼ばれることが多くて。違和感が当時からずっとあったのにそれに気づかないようにしようと、無意識に自分自身へ嘘をつき続けていました。“ジェンダーレス”だったとしても“ジェンダーレス女子”とついていて、根本的に女性であるところは変わらないというところに違和感がありました。当時は訳も分からずただただ『女性』と言われるよりは『ジェンダーレス』と言われた方が合っていると思っていて。なのでそのときの自分にとって逃げ道というか、多少は違和感があるけど少し安心できる場所だったのかもしれません」

◆中山咲月、いじめをきっかけに「大人になるのが早くなってしまった」

エッセイの中では「小さい頃いじめられたこともあった。その時何かを失った気がする」という一節も。当時のことは「実は衝撃的すぎてあまり覚えてなくて…」というが、自身に与えた精神的な影響を打ち明けてくれた。

「不登校にはならなかったんですけど、無理矢理学校に行っていた状態だったので、辛すぎてそこの部分の記憶だけ抜け落ちちゃっているんです。親はたまに『こういうことがあったんだよ』と教えてくれるんですけど。芸能を始める前の小学生の頃だったのでやっぱり子どもならではというか、いじめていた側も理由があっていじめていた訳ではもしかしたらなかったと思うんですけど、自分にとっては分岐点だったと思います。良くも悪くも人を信じすぎちゃいけないという現実を突きつけられてしまって『誰よりも先に大人にならなきゃ』と思ったきっかけだったので、大人びてしまった、(精神的に)大人になるのが早くなってしまったなと思います。その頃から『一気に大人っぽくなったね』と言われるようになりました」

◆中山咲月、家族に行動で発信していった性の“違和感”

中山の場合、最初に家族に自身の性の違和感を発信していくのにきっかけとなったのはファッションだった。

「服に興味がなくて親に買ってもらっていたものだけを着ていた時期が終わって、初めて自分で服を選ぶようになって『こういう服を着たい』と言ったのがメンズファッションだったので、当時から親にはちょっとずつではあるんですけど自分の違和感を行動で示していました。言葉で示しても伝わらないことが多いのでどちらかというと行動して結果になったときに見せることが多かったです」

SNSで自身のファッションを発信するようになると、多くの人からの「いいね」が自信、そして家族の理解にも繋がった。

「親が見て『こんなに良いって言ってくれる人がいるなら良いんだろうね』と言ってくれて、行動して周りが認めてくれると親も認めてくれるんだなと。親はどちらかというと口うるさい方ではないと思うんですけど、昔『スカートはかないの?』と聞かれたことがあって根本のどこかでは思っているのかなというシーンは何回かあったんですよね。口で言うだけでは難しい部分もあると思うので形にして本ができあがった後に『皆もこう言っているからどうですか』とプレゼンしに行こうかなと思っています」

◆中山咲月、無性愛者を公表した理由「無意識のうちに傷ついていることが沢山あった」

今年頭に自身のSNSとブログにて公表してから、8月にフォトエッセイの発売を発表し、大きく取り上げられた。

「正直こんなに反響を頂けるなんて思ってなくて、沢山言葉をかけて下さってすごく嬉しかったです。受け入れてもらえるかなということと、発表して何かが変わるのかなという不安もあったんですけど、実際に発表してみたら何も変わってなくて、むしろ安心したという気持ちが大きかったです」

無性愛者(asexual)というセクシャリティについても公表。無性愛は他者に対して、恋愛感情や性的欲求を感じないセクシュアリティのことを指すが、タイトルにもしたのは「あえて言っていこうと思った」という想いがあった。

「トランスジェンダーは広まってきていると肌で感じてきていますけど、“無性愛”は公表している人もほとんどいないですし、公表しなくても良いことだとは思うんですけど、無意識のうちに傷ついていることが沢山あったのであえて言っていこうと思いました。『いつか好きになる人ができるよ』とか、その人からしたら当たり前のことなんですけど、そういう普段の会話の中で押し付けに感じてしまうこともあって。相手は悪くないんですけど、自分が傷つくことは少ない方が良いなと思うので言うことにしました」

職業上、取材などで恋愛の質問を受ける機会も多かっただろう。「聞いてくれる相手を悪者にしたくない」といい、「自分でも人に気を使い過ぎなところがあるという自覚があるので、そういう質問があると無理に質問に答えようとしちゃうところもあって。知らなかったら後で知ってもらえたら良いと思うんですけど、知っていたら事前に防げるものもあるんじゃないかなと思います」と続けた。

◆中山咲月「分かってもらいたいのではない」伝えたい一つのメッセージ

“恋愛をすることが当たり前”という前提が溢れる世の中で、無性愛者の心の内を本当の意味で理解することは多くの人にとって簡単なことではないだろう。

「誰に対しても性別のくくりではなく、一人の人としてしか見れなくて、『可愛い』とか『カッコいい』とか思うことはあるんですけど、恋愛感情にはならないです。ラブストーリーはむしろ自分から好んで見るくらいなんですけど、第三者としてエンターテイメントして楽しんでいるので、その関係性に自分がなるのは違和感があって、恋心がすっぽり抜けてしまった状態です」

無性愛者に関しては実際に同じ性的指向を持つ人と会ったことはないというが、中山が世の中に伝えたいメッセージは詰まるところ「分かって欲しいのではなく知ってほしい」その一点だ。

「本当に共感してもらうことは絶対にできないと思っていて。自分も逆に恋愛感情を持っている人の気持ちが分からないし、自分が理解できないなら向こう側は尚更分からないと思っているので、“無性愛”を分かってもらいたいのではなくて、『こういう人間もいるんだ』くらいのふわっとした認識でいて欲しいなと伝えたいです。自分と全く同じものを持っている人は、例えば血が繋がっていたとしても一人もいないと思っていて、自分に持っていないものを持っている人は、素敵だなと思うんですけど、理解できないことは怖かったり避けてしまいがちだったりするかもしれないと思うんです。そういう理解できない部分を分かってあげるのではなくて、『あ、そういう人もいるんだな』と知ることが一番だなと思うので性別に関係なく皆がそう思えるようになったら素敵な社会になるんじゃないかなと思います」

◆中山咲月、人生で一番悩んだ時期につづった生々しい言葉たち

本書のフォト部分は、フランス映画「ヴェニスに死す」の主人公、薄幸の美少年・タージオをオマージュした伯爵邸での制服姿、1972年の映画「キャバレー」の主演を務めたライザ・ミネリの男性版をイメージしバーレクスのトップスターを演じた姿など、6つのコンセプトで撮影。

「最初にこの本を出すと決まったとき、普段の自分を出した方が良いのかなと迷ったんですけど、最終的には今までお仕事で見せたことのない姿を見せたいと思ってこういう内容にしました。自分自身2次元とかアニメが好きなので、現実味のないテーマとか好きな世界観を沢山作れたら良いなと思って映画とかからインスパイアを受けましたね」

エッセイ部分は赤裸々な心境を包み隠さずつづった文章が印象的だが、トランスジェンダーを自覚してからブログで最初に公表するまでの約1ヶ月間、「自分の人生の中で一番悩んだ時期」にメモに残していたものだという。内容に関係なく、悩みや葛藤を抱えている人であれば共感してもらえる部分があるのではないか、と推測する。

「一時の迷いかもしれない、この感情を忘れられるかもしれない、身体は女性で生まれたんだから、…とかすごく悩んで、どこかに吐き出さないとどうにかなってしまいそうでメモにそのときの感情を全部残していたんです。実はその中から抜粋してエッセイにしたので、感情がリアルで生々しい内容になっていて、一番葛藤していた時期のことをそのままエッセイにしました。完成したときには自分の心は安定していてむしろ前向きだったので別人のようでしたね。出来上がったのを読んで、『すごく悩んでいるときの人の感情だな』と客観的に見れてしまったので、ジェンダーの悩みとか関係なくこういう気持ちになっている人はいると思うし、そういう何かに悩んでいる人に届けようとそこで決めました」

◆中山咲月「男性の役を当たり前にやりたい」

俳優として、テレビ朝日系特撮「仮面ライダー ゼロワン」では、女性でも男性でもない人工知能搭載型人型ロボット・ヒューマギアを演じた。

「性別のない役を頂けたのは嬉しかったですね。これからは男性の役を当たり前にやりたいです。自分は身長が165cmくらいしかないので、逆に少年役とかは長くできるんじゃないかなと思っていて、やっぱり公表したことで今までよりできる役は少なくなると思うんですけど、ピンポイントでできたら良いなと思います」

今後は“中山咲月”という一人の人間として、見てもらいたいという想いが強い。

「発表したことで今は”トランスジェンダーの人”という印象が強いと思うんですけど、自分はいつかそのことが忘れられたら良いなと思っていて、ただ『トランスジェンダーだから』『元女性だから』ではなく“中山咲月”という一人の人間が芸能活動しているという存在になったら良いなと思いますし、自分に限らずそういう認識になっていけるような世の中になってほしいと思います」

人生で一番辛かった時期を乗り越え、自分をさらけ出すことで前を向いて歩み始めた中山が今、考える夢を叶える秘訣とは――

「諦めないことが大事だと思います。自分も夢に向かっていく過程なので成功するまで努力をし続ける。『努力は必ず報われる』と言われると現実味がないと思うんですけど、報われるまで努力するから、報われているのであって、ひたすらがむしゃらにゴールに向かって走っている人がゴールにつけるのだと思います」

(modelpress編集部)

◆中山咲月(なかやま・さつき)プロフィール

1998年9月17日生まれ、東京都出身。モデル・俳優。13歳でモデルデビュー、雑誌や広告で活躍。俳優として初出演した「中学聖日記」のジェンダーレスな役が話題に。2020年には「仮面ライダー ゼロワン」亡役に抜擢。2021年、オンライン演劇「スーパーフラットライフ」に出演した。

【Not Sponsored 記事】

2021/9/26 8:00

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