「魔性の女」が抱える心の闇とは

昔から、不倫ドラマにおいて“悪女”の存在は欠かせない。

『昼顔』の利佳子(吉瀬美智子)や、『美しい隣人』の沙希(仲間由紀恵)、直近だと『サレタガワのブルー』の藍子(堀未央奈)など。

彼女たちがドラマの中で悪事をはたらく(=不倫をする)理由は、嫉妬や遊び、はたまた本気の恋などさまざまだ。悪役として物語をかき乱し、視聴者の印象に強く残る。

今から3年前、深夜ドラマ『ホリデイラブ』(テレビ朝日系)からもひとりの悪女が誕生していた。

その名前は井筒里奈(松本まりか)。ゆるふわロングヘアに白いファーコートが似合う“あざとかわいい”彼女は、自らも家庭がありながら他人の夫と関係を持つ不倫妻だ。

本作の主人公は高森杏寿(仲里依紗)。夫の高森純平(塚本高史)が単身赴任中の里奈と不倫していたことを知り、別れるかやり直すか、夫婦の在り方を模索する物語である。そう、あくまでも里奈は主人公の敵であり、悪役だ。

しかしこのドラマが話題になったポイントは、里奈役・松本まりかの怖すぎる“怪演”。ネットニュースでは「松本まりか劇場」とも呼ばれ、彼女自身もこのドラマがきっかけで女優として一躍ブレイクしたといっても過言ではないだろう。

今回は、本作の悪女――井筒里奈という女性にスポットを当て、彼女の胸の内に迫る。

■魔性の女の「真の目的」とは

井筒里奈は、夫・井筒渡(中村倫也)と子ども2人と静岡で暮らす専業主婦。一見すると平凡な家庭だが、この家では夫が絶対的な権力を持つ。里奈は「教養もなければ学歴もない」と虐げられ、夫の暴力・モラハラに耐えながら過ごしていた。

そんな日々の中、とあるきっかけで高森純平を見かけ、彼のような旦那さんが欲しい、彼を手に入れたいと思うようになる。

そこからは簡単だった。偶然を装って純平の前で倒れ、介抱してもらい、連絡先を交換する。あえて日を置いてから連絡し、食事の約束を取りつける。純平の単身赴任先の建築会社で事務員として働き始め、距離を縮める。夫がいない隙に自宅へ純平を呼び、行為に及ぶ。

その最中、早めに帰ってきた夫に現場を目撃される。

夫は純平の妻・杏寿にまで電話し「おたくのご主人とうちの里奈が不倫していました」と告げ、まさに修羅場……といったところだが、なぜか里奈の口元は不気味に笑っている。

里奈の目的は遊びではない。今の夫と離婚し、純平と結婚しようと考えているのだ。

だから、夫に浮気がバレようが、純平の妻に告げ口されようがどうでもよかった。むしろ告げ口されることでお互いの夫婦関係は確実に悪化するため、離婚をもくろむ里奈にとっては好都合だったのだろう。

■止まらない……悪女の過激な行為

純平は不貞行為を認めて杏寿に謝罪し、それでも夫婦でやり直したいと懇願する。里奈とのことは気の迷いだった、本当に愛しているのは杏寿だけだと。

しかし、この高森夫婦がうまく持ち直してしまうと、里奈の最終目的は果たされない。この後、里奈の行動が異常なほどエスカレートする。

まずはイケメンに杏寿を誘惑させ、まるで杏寿が不貞行為を犯しているかのような写真を盗撮。それを純平に見せて、再構築しかけていた夫婦の信頼関係を再びボロボロに崩す。

そして杏寿には「本当に申し訳ありませんでした。私たちは運命に引き寄せられるように出会い、優しく、丁寧に愛され、女として心から求められ、まるでこの世に私たちしか存在していないかのような錯覚に陥ってしまいました」という純平との不倫行為を想像させるようなメールを送り、メンタルをボロボロにえぐっていく。

しまいには、DV夫に無理やり会社を辞めさせられても諦めず、同じ職場に再就職。再び純平とのつながりを作り、単身赴任中の家に押しかけ、誘惑する。

これらの言動はすべて里奈の「夫と離婚し、純平さんと結婚する」という目的を果たすためなのだ。

■「なぜ結婚相手を間違えてしまったんだろう」

しかし、ドラマを見る中でふと疑問が生じる。里奈は本当に純平のことが好きなのだろうか。

里奈は、純平に惹かれた理由をこう語っている。

「男の人がどういう人かは、その人の奥さんを見れば分かる。家の中を見れば分かる。杏寿さんのお友達のSNSに出てくる純平さんの家族の写真を見て思ったの。純平さんは一緒にいる奥さんを幸せにできる本物の男だって。この人と一緒になれたらどんなに幸せだろうなって」

純平の幸せそうな家族写真を見て、そこにいるべきは自分だと、里奈自身の理想を投影させてきた。だが、その幸せな家庭を一から築いたのはまぎれもなく純平と杏寿である。

里奈はずっとDV夫から逃げたいと思っていた。その“逃げ場所”としてたまたま選ばれたのが純平であり、自分を幸せにしてくれる相手なら誰でもよかったのではないか。

作中で里奈は「なぜ私は結婚相手を間違えてしまったんだろう」と度々口にする。

しかし相手が誰であれ、一度“結婚”という選択をした以上「間違い」だと悔やむのではなく、自分たちで「正解」にしていく努力こそが一番大事なのではないかと、このドラマを見て思い知らされた。

不倫ドラマの影の主役、ほの暗い闇と悲しみを抱える悪女。結婚してもしなくても、彼女たちから感じ取れるものは、意外と多いのかもしれない。

(文・編集:高橋千里、イラスト:タテノカズヒロ)

2021/9/25 17:10

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