「スーパーソニック2021」30代フェスおじさん記者が抱いた“1/3の複雑な感情”

 もう、「フェスに行った」なんてインスタに投稿できないのではないかーー。

 それが10年以上フェスを愛好する30代の“フェスおじさん”を自称する記者が会場をあとにしたときの率直な感想だった。

 8月28、29日に愛知県常滑市で開かれた野外フェス「NAMIMONOGATARI(波物語)」が今なお炎上している。

 炎天下超満員の中、ノーマスクを放置して酒類の提供をした結果、40人以上の新型コロナ感染者が発生。こうしたフェスへの批判的な視線が向けられている中、9月18日から2日間にわたり開催されたのがZOZOマリンスタジアム(千葉県千葉市)で開かれた音楽フェス「SUPERSONIC 2021」だ。

 当地では約20年にわたり、「SUMMERSONIC」が開催されてきたが、コロナ禍により昨年は中止、今年は代替イベントとして開催が決まっていた。

◆◆「SUPERSONIC 2021」“泣きっ面に蜂”状態での開催

 日頃より運転中EDMをかけ、車内で大声で歌っている記者は、2019年以来のリアル会場で開かれる「サマソニ」を複雑な感情を抱きながらも参加することに決めた(一番好きなのはベタだが故・Aviciiだ)。

 だが、18日当日の天候は14号が日本列島に近づいており、「雨のちくもり」の予報。

 さらに、出演予定だった海外アーティスト「KYGO」「FRANK WALKER」の2組が来日をキャンセルしたこともあり、昨今のフェスを取り巻く状態も含め、“泣きっ面に蜂”状態での開催だ。

 果たして、現在進行系で炎上中の音楽フェスは批判の対象になる内容だったのだろうか。その一部始終を振り返る。

◆◆青山テルマ風の若者、素直にアプリを落とす

 当日12時。

 小雨降る中、雨合羽を着てZOZOマリンスタジアムに到着した記者がまず驚いたのは、参加人数に対するスタッフの多さだ。

 マスク姿のスタッフTシャツを着た男性が入場列に3メートル間隔でスタッフが立っている。

「公式アプリと、厚生労働省の接触確認アプリCOCOAのダウンロードをおねがいします!」

 入場前にスタッフからそう言われ、万が一感染した場合にクラスターを追えるよう、アプリの登録となんと顔写真をアプリに登録必要があるのだ。

◆◆ウレタンマスクでの入場は禁止

 酒の提供は一切なし。持ち込みが発覚した場合は一発で退場となる厳戒態勢だ。

 マスクの着用も当然必須で、しかも不織布マスクのみ。ウレタンマスクの参加者は、全員に配られたオリジナルのマスクを着用してようやく会場入りできるというげ徹底ぶりだ。

 これだけ規制が厳しいと、「フェス参加者とスタッフが揉めるのでは?」と思ったが、記者が観察する限り、そのようなことは一切なかった。

 記者の前に並んでいたコーンロウの髪型をした『スト2』に出てくるディージェイ風の25歳前後の男性も、しっかりアプリをダウンロードして、アプリに自身の顔写真を登録していた(その彼女と思われる青山テルマ風のピンク色髪の女性も同様)。

◆◆50%も埋まらない客席。それでも…

 アリーナ会場に入ると、予約分を含めた販売済みチケットは1日につき約1万3千枚というが、どう考えてもその半分も埋まっていない。

 1席ずつ空けられた席につくと、スタッフが常に巡回しており、彼らが首から下げたプラカードには「撮影禁止」「正しいマスク着用」「大声禁止」と、校則が厳格な中高一貫私立校なみの規律がでかでかと書かれている。

 ここまで規則が目に入ると、さすがに騒ぐ気分にもなれないというのが本音だ。

 昨今、音楽フェスは積極的なSNSへの写真や動画の投稿を推奨しているのに対し、撮影禁止の措置が取られているのは、世間からのいたずらな批判を避けるためだろうと筆者は邪推した。

 コロナ禍が続く限り、音楽フェスはみんなに堂々と報告するものではなく、こっそり”密室的”に参加するものになっていくのだろう。

 

◆◆「SUPER SONIC 2021」にフェス特有の楽しみはあったのか?

 フェスの楽しみは大きく3つあると記者は考える。

 1つは「音楽を楽しむこと」、2つ目は「会場の一体感を楽しむこと」、3つ目は「酒を楽しむこと」。

 結論を急げば、このうちなんとか1つ目と2つ目までは楽しむことができたというのが率直な感想だ。

 言い換えれば、フェスの楽しさに求めるうち、1/3の要素には複雑な感情を抱いてしまった。

 音楽を楽しめた根拠は、やはりスピーカーの音質とアーティストの歌声だ。

 声援を送るわけにもいかないので、観客は無言で手拍子をしながら演奏を聴いていたが、午後にCLEAN BANDIT(DJ SET)が登場すると、よく耳にする音楽が続いたということもあり、会場ではジャンプする若者の姿が目立ち始める。ここではじめて会場に連帯が生まれたように感じた。

◆◆高校生のころのカラオケのような気分

 その後、石野卓球、ALAN WALKER、ZEDDと人気アーティストが登場するとノンアルコールでも気分がのってきた観客に一体感が生まれ始める。

 たしかに、高校生のころは駅前のシダックスでお酒を一滴も飲まずとも、「楽園ベイベー」で盛り上がることができた。そう、今日は高校生のころのカラオケのような気分に似ているのだ。

 いわゆる酒に酔うのではなく、「音楽に酔う」体験をした参加者たちのボルテージはあがり、17時頃には一定の間隔を空けた状態での満員となり、アリーナ席は入場規制になるまでに。

 終演時には、退場規制が行われ、外に出られたのは30分後だったが、これも感染対策のためには仕方ないのだろう。

◆◆運営の意地が感じられた徹底した感染対策

 正直、何かが足りないフェスではあったものの、先月炎上した「NAMIMONOGATARI」のようにはなるまいという運営側の意地のようなものを終始感じた。

 徹底した感染対策のもと行われたサマソニは、決められた範囲内での盛り上がりだけが許容された、まるで公立中学校の文化祭のよう。

 それでも文化祭は楽しい。撮影禁止のため、「NAMIMONOGATARI」のように会場の写真があまり拡散しなかったことも大きな批判が起きなかった要因なのかもしれない。

 今回の「サマソニモデル」が成功したと判断された場合、今後、我が国の音楽フェスは撮影禁止、アプリDL必須、入場規制必須で進められる可能性が大いに考えられる。

<取材・文・撮影/柚木ヒトシ>

2021/9/22 8:51

この記事のみんなのコメント

4
  • いち(

    9/27 15:25

    つまり、家からでるな!つうことですな。

  • ***

    9/27 12:52

    最も有効な感染対策はマスクでも消毒でも密回避でもワクチンでも無いわ!行かないことやらない事ですわ。それを理解しないできない無責任な輩共

  • いち(

    9/27 10:42

    「NAMIMONOGATARI(波物語)」 あれで40人なら大したこと無いじゃないか。

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