五輪に憤る湾岸タワマン住民。無観客なのに「厳戒態勢」でストレス爆発

東京五輪がついに開幕した。開催決定直後から相次いだ不祥事やトラブルに加え、新型コロナウイルスが襲い、「史上最も国民から歓迎されない五輪」と言われているが、競技会場周辺の住民は憤っている。いったい、なぜなのか。

◆「はっきり言って大迷惑」

 直前までゴタゴタ続きだった東京五輪もついに開幕した。無観客開催ということもあり、盛り上がりもイマイチだが、競技会場が集中する東京・湾岸エリアは、良くも悪くも五輪ムードに包まれている。

 トライアスロン競技の会場のあるお台場に住む、物流会社経営の男性(50代)はこう話す。

「はっきり言って大迷惑。開催中ほぼ毎日、周辺の車道の多くが通行止めになる。最も長い日で午前2時半から午前10時まで、ウチのマンションが面している道路も規制され車の出し入れができない。

 私は仕事で車を使いますし、明け方帰ってくることも多いのですが、自腹でタクシーを使うしかなく、帰宅時は家から500m以上離れたところで降りなければならない。競技が始まるのは午前6時のようですが、組織委員会の担当者曰く、競技の準備や警備の関係で早めに封鎖すると。だったら代わりの駐車場くらい用意してくれよ!」

 競技会場周辺の住民の負担はほかにも。テニスや体操競技など、複数の競技会場を抱える有明エリアに住む40代の男性も口をとがらせてこう怒る。

「家の周りはどこも警察官だらけ。近所の駐車場は、全国から派遣された警察の大型輸送車を密集させて詰め所のようにしていて、常時数十人の警察が出入りしている。無観客開催になったのに、あんなに必要なんですか? クラスターのほうが心配ですよ……」

 同じく、生活圏が警察官だらけになって物理的な不便を被っているのは豊洲在住の30代男性だ。

「湾岸エリアの道路がやたら混んでいて、時間帯によっては普段の倍の時間がかかるんです。首都高の利用料が1000円上乗せになり、下道を利用する人が増えているからでしょう。どこにでも警察がいるせいで、多くのドライバーが法定速度を厳守していることも理由だと思います」

◆ヘリと気球が監視!もう気が狂いそう

 湾岸エリアにある、大型商業施設に勤務する20代の女性も、厳戒態勢の様子について明かす。

「7月半ばから、フードコートに目つきの鋭いおじさんたちが徘徊するようになった。毎回違う人なのですが、食事をするでもなく、周囲を見渡している。不気味なので子連れのお客さんなんかは怖がっていますよ。従業員の間では、テロ警戒中の私服警察じゃないかという噂です」

 お台場周辺は「50mおきに監視カメラが設置された」(前出・物流会社経営の男性)とのことだが、頭上にも監視の目が光っている。警視庁は、雑踏事故の防止などを目的に、聖火台が近い青海から高性能カメラを吊り下げた気球を飛ばし、上空から地上を撮影する「バルーンカメラ」を運用しているが、一部住民から不評を買っているようだ。

 お台場のタワマンの高層階に住む30代の女性の話。

「ウチの部屋からバルーンがよく見えるのですが、向こうのカメラにもこちらの室内が映っているのではないかと不安で昼間もカーテンを閉めています。加えて、警察航空隊のヘリもマンションの周りをグルグルと低空飛行している。ベランダから見上げると操縦士と目が合うほど。本番にはテレビ局のヘリも飛ぶでしょうし、騒音で頭がおかしくなりそうです」

◆職務質問に辟易する住民も

 監視に加えて、職務質問に辟易する住民も。晴海のタワマンに住む中国人男性(50代)は言う。

「人相が悪いのは認めるけど、上下ジャージ姿でコンビニに行ったら職質され、中国人だとわかると犯罪者扱いだよ。根掘り葉掘り聞かれて頭にきた。地元の警察署の警察官から職質なんかされたことないのに。たぶん他から応援に来たヤツらだろうね」

 多くの住民から不満の声が聞かれたが、現場の警察官はどう考えるのか。開催直前の某日、週刊SPA!記者は湾岸エリアに向かったのだが、地方から応援に来た警察官は散歩中の住人と雑談に応じたり、子供に手を振り返してくれたりと殺伐とした感じはなかった。某県から来たという20代の警察官は言う。

「志願制ではなく、選抜制だったので自分は五輪警備に選ばれて光栄です。東京に1か月いるんですが、来たことがなかったので正直、嬉しいですね」

◆“見せる警備”による国際的なアピール

 住民とのギャップも感じられるが、果たして無観客となった五輪に大がかりな警備は必要なのか。警察庁広報室にコメントを求めたが「個別にはお答えできない」と回答するのみ。

 ただ、同庁の公表資料によれば、東京都を中心とした五輪の警備には、各道府県警からの応援を含め、約6万人の警察官が動員されるという。これは、国内の警備体制としては過去最大規模である。

 開幕1か月前に行われた大規模警備訓練で、斉藤実警視総監は「7年以上にわたり練り上げてきた対策と訓練の成果を大いに発揮してほしい」と、警察官らにハッパをかけている。

 しかし、一部住民が負担を感じるほどの警備レベルは適切なのだろうか。テロ対策や警察事情に詳しい軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏はこう話す。

「数年前に比べると国際テロ組織の活動も活発というわけではなく、コロナ禍でテロリストも日本に入国しにくくなっている。とはいえ、それでも五輪ほどの大イベントでは“見せる警備”が重要になる。これは、警察官をあえて目立たせて配備することで、テロや妨害行為など、よからぬ試みを予めくじく抑止効果を発揮させるというもの。そういった意味で、周辺住民が感じる警備に対する不満は副作用のようなものでしょう」

◆無観客になったからといって急な人員削減はできない

 警備体制については数年前から練られており、無観客になったからといって急に人員削減をすることもできないと黒井氏は言う。

「これまでの各国の五輪を見れば、自動小銃を手にした武装警察や装甲車が競技会場周辺を固めているのが普通なので、国際的に見れば、物々しすぎるというほどではないでしょう」

 自宅周辺に五輪会場がやって来ることは、おそらく天文学的な確率だ。それを幸運と思えていない住民がいるということ自体、この五輪の評価を決定づけているのではないだろうか。

◆公園で堂々とビールも!?外国人大会関係者にも不満

 湾岸エリアの住民からは、会場に出入りする外国人の五輪関係者に対しても不満の声が上がっている。東雲在住の40代男性が話す。

「開幕直前から、大会関係者やメディアのクルーなど、外国人ドライバーが増えたのですが、交通マナーが悪い。片側一車線なのに、幅寄せしないまま乗降させていたり、強引に割り込んできたり。停車せず歩道を横切って会場に入る車に、自転車に乗った小学生がひかれそうになっていたこともあった。信号機のない横断歩道でも一旦停止しないのですが、そもそも路上の『止まれ』の意味がわからないんでしょうね」

 有明在住の50代女性は一部の外国人に恐怖心を抱いている。

「五輪会場の設営スタッフだと思われる、イカついお兄さんたちが、タトゥーが入った両腕両脚を露出して家の周りを徘徊している。単なるファッションなのでしょうが、ちょっと前に五輪スタッフがコカイン所持で逮捕された一件もあったので、正直怖いですね」

 さらに感染リスクへの不安も。お台場在住の40代男性の話。

「お台場にある小学校は、英国選手団のトレーニング拠点として“徴用”されちゃったんです。夕方になると選手団の一員が近隣の公園で、コンビニで買ったビールを飲んでいる。いったい、バブル方式はどうなっているの?」

 これらは文化の違いや認識不足のレベルで、当の外国人には悪気はない。責められるべきは大会組織委員会の周知徹底不足だ。

取材・文・撮影/奥窪優木

【奥窪優木】

1980年、愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国に渡り、医療や知的財産権関連の社会問題を中心に現地取材を行う。2008年に帰国後は、週刊誌や月刊誌などに寄稿しながら、「国家の政策や国際的事象が末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに地道な取材活動を行っている。2016年に他に先駆けて『週刊SPA!』誌上で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論の対象となり、健康保険法等の改正につながった。著書に『中国「猛毒食品」に殺される』(扶桑社刊)など。最新刊『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体~』(扶桑社刊)発売

2021/7/31 8:54

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