小山田圭吾も自分の立場を勘違い!? 東京五輪クリエイターの「バカの壁」

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文/椎名基樹

◆東京五輪で思い出される「バカの壁」での指摘

 養老孟司の著書「バカの壁」(新潮社)は、約450万部を売り「平成で1番売れた新書」だそうだ。しかしこの本のメッセージが日本人に行き渡っているかと言えばそうではないらしい。

 東京オリンピックをめぐって、デザイナー、演出家、作曲家などが次々と失脚する騒動を見るにつけ、私はバカの壁の第四章「万物流転、情報不変」の内容を思い出す。

 現代人は「情報は日々刻々と変化し続け、それを受け止める人間の方は変化しない」と思いこんでいるという。「情報は日替わりだが、自分は変わらない、自分にはいつも個性がある」と考えていると。しかし、これは実はあべこべの話であり、実際は「人間は常に変化・流転し、逆に情報は不変」であるというのだ。

 人間は成長し、老いてもいくし、経験によって考え方も変わってくる。だから、人間は日々変化している。一方、情報とは例えば言葉だ。昔の名言は、一字一句変わらぬまま現代に残っている。そういう意味で情報は不変と言える。インタビューを受けたとして、同じ聞き手に同じように聞かれても、話すたびに内容は微妙に変化するが、話した内容を収めたテープの中身は変わらない。これが生き物と情報の違いだという。「情報は日替わりである」と勘違いしているから、現代人は言葉を軽んじてしまうのだ。

◆小山田圭吾も「人間は不変」と勘違いしていたから……

 東京オリンピックに関わったトップクリエイターたちが、過去の発言を掘り返され、ガラリと評価が変わり、むしろ軽蔑されながら失脚していく姿は、まさに養老孟司の指摘を体現している。

 彼らは、業界の評価を獲得し、または世間に多数の信奉者を得て、自らをゆるぎない存在だと思い込んでいただろう。羨望を勝ち取り、多くの収入を取得し、膨らんだ自我は、発言を尊大にし、自らの言葉に無責任になっていた。自分は何を言っても許される。言葉が自らの地位を脅かすわけがない。そして、その地位を担保するものは、自らの個性=才能だと信じていたはずだ。養老孟司の指摘する現代人の典型が、彼らトップクリエイターという人種なのではないだろうか。

 養老孟司の解説では、フランツ・カフカの小説「変身」は、前述の現代社会の勘違いがテーマだと言う。主人公、グレゴール・ザムザは朝、目覚めると虫になっている。人間が流転することを「虫に変身する」という形でデフォルメしている。虫になってなお、人間は不変だと信じて疑わない主人公は、「俺はザムザだ」と言い続ける。

 小山田圭吾も同じように、一夜にして、渋谷系の王子様から他人に大便を食べさせる変態野郎・うんコーネリアスに変身してなお「俺はオリンピックの楽曲制作を続ける」と言い続けた。

 ただ情報が不変である事は間違いないが、それが事実の全てを語っているかと言えば、そうとは言えないとも思う。

◆発言内容に弁護の余地はない

 クリエイティブディレクターの佐々木宏が、開会式で渡辺直美をブタとして登場させるプランを提案したことも、その前後の会話や、演出プロジェクトの問題点などを知れば、少しは理解できる部分があったかもしれない。(ところで、結局開会式には出演出来ずじまいだった、渡辺直美だが、私としては得意のビヨンセのものまねで登場して、後に「ご本人さん登場」のドッキリ演出が希望だったけど。どうだろう?)。

 小山田圭吾の発言も「いじめ紀行」という、加虐体験を語る、実にセンスのない、雑誌の連続企画で行われていて、そのゲストとして呼ばれた彼が、歪んではいるがサービス精神で大げさに言っている可能性もある。小山田圭吾は、バカな編集部、ライターの被害者とも言えなくもない。そう考えると、過去の発言1つを切り取って、人を断罪することはとても危険なことのように思える。まぁ、小山田圭吾の発言は弁護の余地がないけれど。

◆バカさ加減が最も際立っていたのは……

 それにしても、なぜ小山田圭吾はオリンピックの音楽制作などやりたがったのだろう。自らが歩んできたストリートカルチャーの世界とは水と油の性質なのに、なぜのこのこ顔を出したのだろう? 分をわきまえれば、恥をかくこともなかったのに。それは小林賢太郎も同じだ。これも、年齢を重ねて内面が変化し、権威欲、名誉欲が強くなったこと、つまり人間の流転が、原因だったと説明ができそうだ。

 今回の騒動でそのバカさ加減が最も際立っていたのは、大会組織委員会だ。小山田圭吾の発言は10年も前から問題視されていたにもかかわらず、それに気づかずに起用してしまうなんて、その仕事の出来なさは迷惑にもほどがある。これも「世間の評価」をその人間そのものだと思い込み、それが絶対に不変であると勘違いしたことが原因であると言えるが、それにしても程度が低い。

【椎名基樹】
1968年生まれ。構成作家。『電気グルーヴのオールナイトニッポン』をはじめ『ピエール瀧のしょんないTV』などを担当。週刊SPA!にて読者投稿コーナー『バカはサイレンで泣く』、KAMINOGEにて『自己投影観戦記~できれば強くなりたかった~』を連載中。ツイッター @mo_shiina

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  • 7/30 15:53
  • 日刊SPA!

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この記事のみんなのコメント

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  • ***氏へ、私は犯罪者とは言ってませんよ。でもそれは法的な話であって、行った行為は犯罪行為だと言っています。そして犯罪者が刑期を終えたとしても行った行為は無かった事にはなりません。人は誰もが傷付け傷付きあいながら自分の業を背負って生きています。小山田氏は自ら重い業を背負っただけ。そして前科者が行った行為を恥じて深く悔いているのなら、辛くあたろうとは思いません。

  • いち(

    8/3 10:17

    半グレ集団とケンカしてパンイチで逃げ帰った奴は出てたよな。

  • ***

    8/3 8:38

    過去の過ちは何十年経っても許されないんですね。例え犯罪でなくても…この人は逮捕されてないし、だから犯罪者ではありません。実際に犯罪を犯し逮捕された人はもっと追及すべきですね。法的には罪を償ったとか更正したとか関係なく過去の過ちを掘り返し蒸し返しそれを理由に拒否するように心掛けます。逮捕されてない人でこうだから前科者に対してどれだけ辛く強く対応すべきか悩みますな。

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