菅総理はサラリーマン的に“人事”で脅す。笑うしかない裏側に迫る<前編>

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 2020年9月に安倍晋三元首相の体調不良による内閣総理大臣辞任をきっかけに発足した菅義偉首相内閣。

 前内閣官房長官時代から記者からの質問にきちんと答えないなど、誠実さを欠くとも言うべき国民への説明不足は批判の対象になっていましたが、内閣総理大臣に就任した後は、はっきりしたメッセージが国民に伝わっていないこともあり、政治の舵取りをきちんとできていないのではないかとの声が上がっています。

https://youtu.be/dxaw64L7hL8
 そんな中、菅義偉首相の政治手法に迫ったドキュメンタリー『パンケーキを毒見する』が、7月30日から新宿ピカデリー他全国で公開されます。「パンケーキ」は菅首相の大好物で、内閣発足当時は菅さんと言えば「パンケーキ」を連想した人も多いはず。しかし、今、菅内閣の舵取りはパンケーキのようにふわふわで、中身がないのでは……。

 今回はそんな思いを込めて同作を監督した内山雄人さんに、制作の経緯などについて話を聞きました。

◆就任当初のイメージは「令和おじさん」

――映画の製作経緯についてお聞かせください。

内山雄人監督(以下、内山):この映画は河村(光庸)プロデューサーが、菅内閣が誕生した時から考えていた企画です。菅首相は安倍元総理大臣の官房長官というイメージが強く、安倍元首相の路線を継承するというイメージはあっても「他になり手がいないから総理大臣になった」「どういう人なのかよくわからない」と思っている人が当時も多かったし、今もそうなのではないかと思います。

 河村さんは、タイトルは最初から『パンケーキを毒見する』で、上映時期は7月と決めて監督を探していました。「パンケーキ」は菅首相の好物ですが、政権発足時は菅首相のイメージは「パンケーキ」と、元号発表をした「令和おじさん」だったと思うんです。

 決して悪いイメージではなかった。ところがその内実はどうか。そういうことを映画で検証しようと河村プロデューサーは考えていたのではないでしょうか。この映画を総選挙の前にぶつけて、世に問いたいと。

◆口を閉ざす関係者たち

――自由民主党の石破茂議員や村上誠一郎議員、立憲民主党の江田憲司議員、日本共産党の小池晃議員といった現役議員の他、元官僚や新聞記者などが登場しています。インタビュイーはどのようにして決めたのでしょうか。

内山:本当はもっと菅さんの秘書や弟子筋に当たる人、また菅首相に近い当選回数が4回以下の政治家が所属する「ガネーシャの会」の議員に取材しようと思っていました。ところが、取材を申し込んでもことごとく断られました。

 ドキュメンタリーを撮るからには「うちのオヤジはこんなに素晴らしい人なんだ」というコメントもできれば紹介したいと思っていました。それで「いい話」という意味での菅さん像は出せなくなってしまいました。

――「いい人」として扱うのであれば取材に答えてくれてもよさそうなものですが。

内山:企画書にはもちろん、批判だけではなく、公正な形で多面的に菅首相を取り上げるとは書いていますし、実際に出来上がったドキュメンタリーも一方的に「悪口」を言うようなものにはなっていません。

 ところが、このタイミングで菅首相を扱うとなったら何らかの形で揶揄する内容になるというのを先方は予想できるわけです。後から「あの映画に関わったのか」と言われたくなかったのかもしれません。

 また、マスコミ関係者に取材を申し込んだのですが、新聞社によっては事前取材では答えてくれた人もいました。ところが、撮影のためにアポを取った段階で、上層部から「自社の新聞記者はドキュメンタリーに出た前例がない」「記者は記事で表現しているのでそれ以上のことはしなくていい」と言われたのでキャンセルしたいと言った記者もいたんですね。

 そこで、「菅首相と直接話したことのある人、関わったことのある人」という視点でインタビュイーを選び直して、取材をしました。評論めいたことを展開するのではなく、実際に菅さんと接した人との間に起きた事実を並べることによって、「菅首相像」を浮かび上がらせようと。

◆ある日突然、政府高官から電話が

――国会で加計学園問題に言及した前川喜平元文部省事務次官、シリアで起きたジャーナリストの後藤健二さん人質事件における安倍政権の対応を報道番組で批判した古賀茂明さんに対する官邸からの圧力の実態に関しての証言がありましたが、その詳細な内容を聞いて驚きました。

内山:みなさんそれらの事件のことについてはネットニュースなど、字で読んでそのことは何となくは知っています。ところが、当時の安倍政権から圧力を掛けられた人たちはその時から人生が変わってしまったんですね。

その人生を変えられてしまった人たちの当時のリアルな様子を知ってもらいたかったんです。ある日突然、政府高官から電話が掛かってきて、こんな言葉で言われたということですね。また、劇中で前川さんが語っていますが、ある意味人格攻撃をされて自分の証言の価値を毀損されたことなどもそうです。

あの渦中だと報道で伝えられる事柄も断片的なものでしかありません。ところが、時間が経った今であれば、全ての事柄を時系列で冷静に振り返ることができますよね。そのことも含めてきちんと伝えたいという思いがありました。

◆圧力をかけたのは誰か

――古賀さんが番組出演の最後に「I am not ABE」を訴えた経緯やどのような形で官邸の中の誰から電話があったのかなどが、顔写真付きではっきりわかるようになっています。

内山:報道などで「圧力があった」ということは皆さん知っています。ただ、名前だけが伝えられるのでイメージが湧かないですよね。ふわっと「そういうことがあったのか」としか思わない。

でも実際には、出演した番組の関係者に政府高官からショートメッセージが送られたり、政府にとって不利益な証言をした後に、暗に圧力をかけるような報道などがなされていました。

政府高官は広報紙で顔写真が掲載されています。なので、どんなポジションのどういう人が圧力を掛けたのか、はっきりとイメージを持ってもらうために、組織図と政府が公開している顔写真を出しました。

◆石破茂氏が菅総理をバッサリ

――石破茂議員が「かつて日本の政治家にあった見識が現在失われている」と言っていましたね。

内山:石破議員は「政治はどうあるべきか」「政治家は何をすべきか」という建前をしっかり持っている方です。立憲、すなわち憲法に則った民主的な政治を行うのであれば、きちんと議論をして結論を出すのが当たり前ではないかと思うのですが、そうではなくなってきている。

冒頭に上西充子法政大学教授が菅首相の答弁は「※ご飯論法」であることを答弁のVTRを見ながら解説するシーンがあるのですが、野党議員からの質問に答えているようで答えていない。これではきちんとした議論になりません。石破議員は、そういうことをする政治家は、昔はいなかったと言っているんです。

※ご飯論法:閣僚や官僚の答弁の論点ずらしやごまかしを指す言葉 「朝ごはんを食べましたか?」という質問に「(朝、パンは食べたけど、お米のごはんは)食べていない」と答えるような手法。パンは食べたけど、お米の「ごはん」は食べていないから嘘をついたわけではない、と言い通す論法。

◆サラリーマン的に「人事」を武器にする

――映画全編を通して菅首相の「質問に対して答えない(自分の言いたいことだけを言っている)」という姿勢が、そのまま政治手法にもつながっているのではないかと思いました。

内山:全体としてやはり場当たり的な印象はありますよね。ついこの間も西村康稔経済再生担当相が、酒類提供停止に応じない飲食店に対して、金融機関との取引停止などを通して法的根拠のない圧力を加えようとしていたが話題になりましたが、「コロナが流行しているのであれば、もっと厳しく取り締まればいい」というような短絡的な発想を菅内閣全体で共有していることの表れのようにも感じます。

 やはり、自分の権力の保持のために政治をやっているのではないかと思ってしまいます。本編中でも多くの証言者が語るようにサラリーマン的に「人事」という武器を握って官僚たちを動かしていることにもそのスタンスが窺えます。組織のトップに立ったことのない元官僚や内閣情報調査室長の経験者などを重用していますが、リーダーシップよりも組織を統制できる実務能力を重視しているといったところでしょうか。

 だから少しでも自分の意見と違う人が出てくると「取り締まればいい」という発想になる。でも、その対応は国民感情とはずれたものです。今はその乖離がどんどん激しくなっており、支持率も急落しているという状態でしょう。

◆「値下げの政治家」と人気取り

内山:菅内閣は携帯料金の値下げや、ハンコの廃止、デジタル庁の新設などみんなが喜びそうな、わかりやすいことを次々と実施しています。「値下げの政治家」と映画内でも喝破してますが、民意に添ったと言えば聞こえはいいですが、目先の人気取りとも言えますね。

 近い将来はもちろん、「50年後、100年後の日本をより良いものにするために、今、自分はこういうスタンスで政治の舵取りをしている」というビジョンを語るべきなのに、そういうメッセージは全く受け取れません。

◆一貫性のなさをどうやって滑稽に見せるか

――菅首相は安倍元首相の後継者として内閣総理大臣に就任しました。いいか悪いかは別として、安倍元首相は「美しい日本」のように作りたい日本のイメージがありましたが、菅首相からは「自助・共助・公助、そして絆」というキャッチフレーズが就任当初に出たのみで、政治ポリシーがあるように感じません。そのあやふやさについて最初からクローズアップしようと思っていたのでしょうか。

内山:菅首相の発言に一貫性がないことをどうやったら滑稽に見せられるかということは考えていました。最初に上西先生に言われたのは「国会中継は面白い」ということだったんです。どれだけ論理が破綻していることを言っているのか、見ていると笑えるからと。

 あやふやさについてクローズアップしようとしていたわけではなく、事実を積み重ねて検証していたら「やはりあやふやであることがわかった」という感じです。

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 後編では劇中で取り上げられている権力を監視するメディアの役割や自民党一党支配が続く理由などについて聞きます。

<取材・文/熊野雅恵 ©2021『パンケーキを毒見する』製作委員会>

【熊野雅恵】
ライター、合同会社インディペンデントフィルム代表社員。阪南大学経済学部非常勤講師、行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、映画、電子書籍製作にも関わる。

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