「私って、お荷物…?」二流大学を出たのに、外資系IT企業の役員になれた女。その悲惨すぎる待遇とは

キャリアが欲しい。名声を得たい。今よりもっとレベルアップしたい。

尽きることのない欲望は、競争の激しい外資系企業のオンナたちに必要不可欠なもの。

しかし、ひとつ扱いを間違えると身を滅ぼしかねないのも、また欲望の持つ一面なのだ。

貪欲に高みを目指す、ハイスペックな外資系オンナたち。

その強さと、身を灼くほどの上昇志向を、あなたは今日目撃する──

▶前回:「年収900万なら離婚して」自分より低収入の夫を”クビ”にしたハイスペ妻。予想外の代償とは

File2. 真理子(28)国内SIer SE→外資系IT企業執行役員 「MBAから執行役員へ-その努力の果ての誤算とは」


― 私も、華々しいキャリアの入口に立てる。

社会人大学MBAコースの入学書類を手に、真理子はこれまでを振り返っていた。

ビジネス雑誌に載るような一流大学を卒業して、都心のビルにオフィスがある外資系企業で活躍する女性になりたい。

ずっとそう思っていた真理子だったが、実際のところは、中堅大学を卒業後に社員150名程度のSIerに勤務し、SEとして主に公共クライアントを担当する毎日。

就職活動では外資系企業にもエントリーしたが、中堅の大学では一次面接すら受けることができず、ようやく入社できたのが今の会社だ。

秋葉原にある、天井が低く薄暗いオフィスビル。未だに電話番のあるような昔ながらの社風。隣には、オフィスに入った途端にサンダルになる男性社員。

こんな地味な環境では、おしゃれする気にもなれない。

今の自分は、「外資系企業で活躍するような女性」にはほど遠い。そんなことは、誰よりも真理子自身が一番わかっていた。

― でも、そんな私とも今日でお別れ。私、絶対にキャリアを一発逆転してみせる。…ここで、MBAを取って!

そう思いながら真理子は、入学書類を強く胸に抱きしめる。

通い始めるのは、終業後に通う夜間コースだ。ハードな毎日になることは予想できたが、外資系への憧れを捨てきれなかった真理子にとって、MBAの取得は人生を変えるための最終手段だった。

「MBAを取得すれば、何か変わるかもしれない」

期待に胸を膨らませながら、真理子は小さくそうつぶやく。

そしてその言葉は、わずか2年後に実現するのだった。

目をかけてくれる男性からの誘い。その狙いとは…

入学から2年の月日が経ち、いよいよMBA取得を目前に控えた頃。

真理子は西麻布の『レフェルヴェソンス』を訪れていた。

「真理子さん。今日はお時間いただきましてありがとうございます」

そう言ってスマートにリードしてくれるのは、MBAクラスのメンバーの1人である三村雄二だ。

商社マン、外資系コンサルタント、若手経営者…。様々なハイレベルのメンバーが集った中でも、三村のスペックは別格。

外資系ITベンダーの日本参入に伴い、グローバルトップから直々のヘッドハンティングで、30代半ばにして日本CEOに就任したばかりの人物だった。

― こんな立派な人が、どうして私に声をかけたんだろう…?

真理子は緊張で身を硬くしながらスカートのすそを整えた。

NATURAL BEAUTY BASICのワンピースに、PELLICOのパンプスと、POLENEのバッグ。高くない給料の中から、MBAのために貯金しなければならなかった真理子にとって、これが精一杯のおしゃれ。

ハケット ロンドンのスーツを身にまとい、足元はサントーニの靴で決めた三村とは、住む世界が全く違うように感じていた。

それなのに今、真理子と三村は同じテーブルで食事を共にしている。それも先日突然、三村の方から「真理子さん、実は仕事のご相談があるので、大学の外で会えませんか?」と声をかけられたのだ。

青天の霹靂のような三村からの誘い。しかし、この食事の席で三村が言った言葉は、真理子にとってはさらなる衝撃の内容だった。

「あの…、私にご相談って、どんなことでしょう?」

おずおずと聞く真理子に、三村は笑顔で答える。

「はい、実は…。私がCEOを務める会社で、マーケティング領域の執行役員が不在なんです。それで、真理子さん。ぜひ、そのポジションでうちに来ていただけませんか?」

「え!?」

予想外の話に手元のナイフを落としそうになる真理子を見て、三村は微笑みながら続ける。

「驚かせてしまいましたね。ですが、現職のSEとしてのご経験は我が社に必要不可欠ですし、MBAで学んだことはマーケティングに生かせると思います。執行役員ということで荷が重いと思われるかもしれませんが、私が全力でバックアップしますから、ぜひチャレンジしていただけませんか?」

日本にローンチして間もないということで、年収は一般的な執行役員レベルより低い。だがそんなことは、真理子にとっては全く問題にならなかった。

「外資系の執行役員」という肩書を手に入れられる…。

それだけで、真理子にはオファーを断る理由は全くなかったのだ。



しかし、執行役員として迎え入れられた真理子を待っていたのは、予想を裏切るような日々だった。

新しい職場である三村の会社は、洗練された一流のオフィス街である紀尾井町。

広い窓と高い天井の華やかなエントランスに、有能な雰囲気の社員たち。

まさに憧れがそのまま実現したような環境。その中で真理子ただ1人だけが、これといった仕事もなく手持ち無沙汰のままで、まるで窓際族のような毎日を強いられることになっていたのだ。

今日も長い会議の中で、真理子は一言も発しないままじっと席に座っていた。

執行役員として入社したものの、マーケティング領域についてはどんなに小さい案件でも、CEOである三村が最終決定者。

一応、真理子の承認も必要となっているが、あれほど輝いて見えた「執行役員」の肩書は名ばかりで、真理子には何の権力もないのだった。

それに、グローバル役員会議は当然、英語で進められる。英語が堪能とは言えない真理子にとっては聞き取ることだけで精一杯。

内容も会社の経営計画や市場動向からの課題など高度な内容ばかりで、今まで「決められたタスクをこなす」程度の事務仕事しかしていこなかった真理子にとってはレベルが高すぎ、たとえ日本語だったとしても何も発言できない状態だった。

― 執行役員として、多くの成果を出してみせる。そう思っていたはずなのに…。成果を上げるどころか何もできていない。私は何をしているんだろう…。

入社の際に奮発して買ったTheoryのスーツが、まるで道化師の衣装のように感じる。

役に立たない「マーケティング執行役員」の真理子は今、明らかに周囲から軽んじられていた。

どん底まで下がった自己肯定感のせいで、執行役員ブースに座っていることすら苦しい。

自身の無能さを痛感するあまり、役員ブースの中でデスクに突っ伏しそうになったその時…。

「真理子さん、ちょっといいですか?」

誰からも声がかからないはずの真理子に、呼びかける声が聞こえた。

その声の主は、三村の右腕といわれる女性・事業戦略本部長の更家優子だった。

三村の真意を知った真理子に、社長の右腕が掛けた言葉は

絶望する真理子に掛けられた、意外な言葉とは


「真理子さん、今までゆっくりとお話したことなかったし、一緒にコーヒーでもどうかしら?」

オーダーメイドのスーツに身を包み、頭からつま先まで隙のないファッション。

三村が前職から連れてきたという優子は、その仕事ぶりも確かで、周囲からの信頼を集めている人物だ。


誘われるがままに連れられて行ったのは、オフィスから少し離れた赤坂見附の素朴なコーヒーショップだった。

「どう?この会社入って」

運ばれてきたコーヒーに手もつけないまま、優子はそう問いかける。真理子は言葉を濁そうとしたが、そんな心のうちさえ見透かしたように、優子は追い討ちをかけるのだった。

「三村さんがあなたにオファーした理由、わかる?この役職に飛びつきそうだったから。それだけよ。

日本にローンチした当初から、女性役員が不在であることにグローバルから相当なプレッシャーがあったの。そして三村さんは、役職に飛びつきそうな女性に手当たり次第声を掛けた…。正直、三村さんからあなたの経歴見せてもらった時、この子大丈夫?って思ったわ」

頭を殴られたような衝撃が、真理子を襲った。

「じゃあ…。じゃあどうして、三村さんにそう言わなかったんですか?」

驚きと憤りのあまり、優子に対して突っかかってしまう。しかし優子は全く動じることなく、淡々とこう答えるのだった。

「言ってどうなるのよ。外資ではトップの判断には従うしかないのよ。そんなこともわからないの?」

― そうだった。外資では、トップの意思のみが会社の意思。嫌と言うほど身に染みてるのに…。

さらに落ち込む真理子の様子を見て、優子はため息をつく。だが、その瞳には決して蔑みの色は浮かんでいない。むしろそこに見えるのは、真理子を思いやっているかのような優しい光だった。

「ねえ、厳しいことを言うかもしれないけれど…あなたは早くここを去った方がいいわ。今のあなたには、外資の執行役員なんて無理。この業界に長くいる私から見て、あなたは何もかも未熟。…自分でも気がついていたでしょ」

はたから聞けば、あまりの言いようかもしれない。でも、優子の言葉を受けて真理子は不思議と、やっと重荷から解放されたような安堵感に包まれていた。

三村に誘われた時からあった、「なぜ、私が」という感情…。

入社してから大きくなる一方だった違和感…。

優子の話を聞けば聞くほど、納得がいく。疑問符ばかりで苦しかった心が、救われていく。

身分不相応な承認欲求にやっと気づくことができ、腑に落ちたというのが正直な感想だった。

一言では言い表せない感情の大洪水で、真理子の目に思わず涙が浮かんでくる。

しかし、そんな真理子を見て、優子はさっきよりも一層優しい声で語りかけた。

「こんなことで泣かないの!鍛え直してまたチャレンジすればいいだけよ。あなたが頑張っているのはわかっていたわよ。今はまだまだだけど、これから努力を続ければきっと大丈夫よ。

一度『執行役員』なんてご大層な肩書を手に入れちゃったけど、自分に合ったポジションでやり直せばいいだけじゃない。何のメリットもないのに、ここまでアドバイスしてあげた私に感謝してよね」

そう言っておどける優子も、きっと辛い過去を乗り越えてきたのだろう。

外資で女が活躍するということは、今の時代でもまだ、少なからず痛みを伴うことなのかもしれなかった。

溜め込んでいた様々な思いが、ついに涙となって溢れる。でも、真理子の気持ちはさっきまでとは打って変わって、晴れ晴れとしていた。

― チャレンジすることは悪いことじゃない。鍛え直してまたチャレンジすればいい。

もしかしたら、実力を知った今こそが、「華々しいキャリアへの入口」と言えるのかもしれない。

優子の言葉を何度も心でつぶやきながら、真理子は自分を奮い立たせ始めていた。


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