映画『イン・ザ・ハイツ』逆境にも負けない人々の姿を描いた傑作ミュージカル、堂々の映画化!

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トニー賞4冠とグラミー賞最優秀ミュージカルアルバム賞を受賞したブロードウェイ・ミュージカルを映画化した『イン・ザ・ハイツ』(7月30日公開)。ニューヨークの片隅で生きる移民の人々が、さまざまな困難に遭いながらも希望を持ち続ける姿を、素晴らしい歌の数々に乗せて描く感動作。その見どころをご紹介!

『イン・ザ・ハイツ』あらすじ(ネタバレなし)

©2021 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

ニューヨーク・マンハッタンの北端にある「ワシントン・ハイツ」地区は、南米などからの移民が集まって生活している街。いつも歌とダンスが満ち溢れるこの街で父親から受け継いだ食料雑貨店を営む青年ウスナビ(アンソニー・ラモス)は、特に取り柄があるわけではないが、大物になる夢だけは忘れずに抱き続けていた。彼の店を手伝う怠け者の従弟ソニー(グレゴリー・ディアス4世)や、彼らだけでなく街のみんなの育ての母のような存在のアブエラ(オルガ・メレディス)らとともに毎日を過ごす彼は、故国ドミニカへ帰ってカフェを開く夢を、もうすぐ実現させようとしていた。
彼は、ビューティサロンで働くヴァネッサ(メリッサ・バレラ)に密かに思いを寄せていたが、なかなかその気持ちを伝えることができない。
ある日、彼の幼なじみでスタンフォード大学に進学したニーナ(レスリー・グレイス)が帰省する。タクシー会社を経営する彼女の父ケヴィン(ジミー・スミッツ)は「こんな街」から娘を一流大学へ通わせるため懸命に働き、ニーナはそんな父をはじめ地区住民すべての希望の星だった。しかし、彼女はある重大な問題を抱えて帰って来たのだ。
ケヴィンの会社で働くベニー(コーリー・ホーキンズ)も、仕事と夢の狭間で毎日を悶々としながら暮らしていた。ウスナビ、ヴァネッサ、ニーナ、ベニー。彼らをはじめ街の人々それぞれが、厳しい現実に直面しながらも自分の夢に踏み出そうとしていた。
そして、真夏のある夜に突如起こった大停電が、ウスナビや街の住人たちの運命を動かし始める…。

決してあきらめない人々の姿は「このご時世」だからこそ必見!

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『ハミルトン』を大成功させたリン=マニュエル・ミランダが創作し大ヒットしたこのブロードウェイ・ミュージカルは、最初に2011年公開予定で映画化が動き始めたが中止に。その後、2016年にワインスタイン・カンパニーで映画化が再び動き出したが、「例の騒動」の影響で同社は映画化から撤退。映画化権を買ったワーナー・ブラザースによってようやく実現した映画化が本作なのだ。
冒頭から、ノリのいいラテンの音楽に乗ってウスナビが自身や主な登場人物とその関係について一気に歌で説明する。ここでもう観客は物語の世界に一気に引き込まれる。ダイナミックだが、多彩な登場人物の設定まで手際よく観客に教えてくれる、見事な導入部だ。
詳しくは触れないが、アメリカにおける移民の問題は根深く、長い年月をかけても改善されたのか疑わしい。同じく移民問題がテーマになっている名作ミュージカル『ウエスト・サイド物語』(1961)の最初の映画化から今年でちょうど60年ということを考えても、そのことが実感できるだろう。この映画も、ラテンの陽気な雰囲気の楽曲が次々に流れるのとは裏腹に、移民が抱えるさまざまな問題をそれぞれのキャラが直面する困難として描いている。そういうところは、結構ビターな味わいになっている。しかも、そんな問題のいくつかは、国も人種も違う私たち日本人にとっても身近なものになっている。そんな普遍性には驚かされるし、同時に感情移入もしやすくなっている。
しかし、それでもこの映画の登場人物たちは、前に向かって歩き続ける。メインの若者4人だけでなく、脇のキャラたちまで。その姿には胸が熱くなるし、元気をもらえる。ちょうど、先がなかなか見えない昨年からのコロナ禍の中で苦しんでいる人々への応援歌のようになっているし、そういう意味では私たち日本人にとっても大いに感動できる作品になっている。そういう意味では、映画化が丸十年遅れてしまったことは、むしろよかったのでは?と思えてくる。

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舞台では出せない「本物感」は映画ならでは

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舞台では再限度に限界がある「街の景色と空気」を存分に観客に見せることが出来るのが、この種の作品の映画化の最大のメリットだろう。実際のワシントン・ハイツでのロケ撮影にこだわったことで、作品の雰囲気だけでなくテーマなど根っこの部分までしっかり表現することに成功しているのだ。
監督を移民一世のジョン・M・チュウが務めていることも、この映画の成功の大きな理由の一つだろう。出演者のほとんどがアジア人ながらアメリカで大ヒットした『クレイジー・リッチ!』(2018)を手がけた俊英。ロケ撮影の効果を最大限に活かしたミュージカル場面は、独特の映像美も相まって印象深いものに仕上がっている。
もちろん、見事なキャスティングも本作の魅力の一つだ。主要キャストはいずれもブロードウェイなどでキャリアを積んだ実力派なのだ。
主演のラモスは『ハミルトン』にも出演しており、本作との相性もバッチリ。俳優として『アリー/スター誕生』(2018)などの映画やテレビに数多く出演する一方、歌手としても活躍している。
ヴァネッサ役のバレラはまさにブレイク中のメキシコ系の俳優で、公開待機中の映画が目白押し。テレビドラマや舞台にも数多く出演している。
ニーナに扮したグレイスは歌手として目覚ましい活躍を続けていて、近年は俳優としても着実にキャリアを積んでいる。
ベニー役のホーキンズは、ヒップホップグループ「N.W.A.」の伝記映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』(2015)でヒップホップ界のレジェンドであるドクター・ドレーを好演して高く評価されるなど俳優としての実力は折り紙付き。スパイク・リー監督の『ブラック・クランズマン』(2018)、Netflix 配信専用映画『6アンダーグラウンド』(2019)などの映画、ブロードウェイでのシェークスピアなどの古典劇、主演を務めた『24: Legacy』などのテレビドラマ…と、幅広い活躍を続けている。

現代アメリカの現実というヘビーな一面もきちんと描きつつ、観終わった時には「夢を持ち続けること」の素晴しさに気づかされる。「こんな世の中」にこそ必要な「元気の素」映画だ。

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  • 7/21 19:59
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