【流星群を求めて3】介護士に扮する横浜流星、『全員、片思い』で共演した銀幕の老女優との「ロマンス」

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すい星が発するちりが彩る“流星”の輝き。それがまとまりより大きな輝きを放つ“流星群”。本連載では、そんな流星群としての俳優・横浜流星の足跡を辿る。第3回は、「片思い」をテーマに共同企画したオムニバス映画『全員、片想い』(2016)を取り上げ、銀幕の老女優との時を超えた「ロマンス」について解説する。

■銀幕スターとの共演

(C)2016「全員、片想い」製作委員会

俳優の加藤雅也がパーソバリティを務めるFM YOKOHAYAの『BANG!BANG!BANG!』で取りあげた「片思い」をテーマに、日本最大の小説投稿サイト「エブリスタ」との共同企画として製作された本作。募集作品から選定された5編とオリジナル3編からなるオムニバス形式で、切なくも心温まる物語が紡がれていく。劇中でも加藤自身が元人気ロックバンド歌手としてラジオのパーソナリティ役を演じる他、中川大志、広瀬アリス、志尊淳、千葉雄大、横浜流星など、若手人気俳優が各話で個性的なキャラクターに扮する。横浜は、最終話『イブの贈り物』に登場する。

介護老人ホームを舞台とした『イブの贈り物』は、橋本マナミが語り手として、横浜演じる見習い介護士の不思議な力について語られていく。そこで重要な役割を演じる入居者を演じるのが、成瀬巳喜男監督作品や加山雄三主演の「若大将」シリーズに出演した昭和の銀幕スター星由里子という豪華さ。彼女のキャリアとしては最晩年の出演作となった本作でこれからキャリアをスタートさせていく横浜が、昭和のスターの全く想像のつかない世界で生きてきた芸能界の大先輩から。この共演によって俳優として受けた影響は計り知れないものがある。ひとりの偉大な老女優と駆け出しの若手俳優とが織りなす至高のロマンス。しばし時を忘れて、この夢に身を任せてみたい。

■「ユマニチュード」としての演技

(C)2016「全員、片想い」製作委員会

美里(橋本マナミ)が赴任してきた介護老人施設には、介護士たちが手を焼く入居者がひとりいた。現役時代はフランス語の教授職にあった静(星由里子)は気位が高く、何かと注文の多い人物で、これまで何人もの担当介護士にクレームを付けては担当を外させていた。美里も苦戦を強いられていた矢先、見習い介護士の穣(横浜流星)が施設にやって来る。この年若い介護士は意外な才能を発揮し、入居者たちの信頼をすぐに得る存在となる。驚くべきことにわがまま放題だった静もなぜか穣には心を許してしまうのだった。

美里も感心するその介護能力の基本は、人の心に寄り添う「ユマニチュード」に基づいている。1979年にフランスで考案されたこの介護方法は、高齢者の立場を理解したコミュニケーションであり、相手の身体に優しく触れたりするスキンシップなどを大切にする。1日のうちに7秒間ハグをした相手との関係性が深まるという統計データがあるように、スキンシップは人間関係構築やコミュニケーションにおいて重要な役割を果たしている。他の介護士たちが恐れをなして近づかないようにしているのに対して、穣は率先して静の肩に優しく手を寄せ、心身ともに寄り添おうとしている。そうした温かみが演技の枠を超えて私たち観客の心にまで伝わるのは、横浜流星という俳優がまさに、ユマニチュード的な人の心に寄り添う演技スタイルを基本としているからだろう。それを感じ取ったのか、静を演じる星もまたひとりの女優として横浜に心を許しているかのようにみえるのだ。

■老女優のロマンス

(C)2016「全員、片想い」製作委員会

昭和を代表する銀幕俳優である星が本作で演じる老人役は挑戦的な役柄である。フランス語を通じてさらに心を通わせていく静と穣の関係性をみた周りの介護士たちは、静が男性として穣を意識していることに気づく。両親の顔を知らず、施設育ちだった穣にとっては家族のように思える存在となった静だが、彼女は完全に恋の虜となっていた。フランス文学には、強い禁欲生活の中で激しい恋の病に駆られる女性主人公たちが数多く登場するが、穣の朗読(まさか横浜流星の口からフランス語の響きを耳にするとは!)する純朴な青年の美しさ、その声に耳を澄ませる静を演じる老女優の時を超えた美しさ、ふたつの美しさが二重移しとなるこの場面。静は、恋する乙女である。そんな二人の様子をみた美里は、白いワンピースを着た1人の少女の幻影をみるようになるのだが、それは紛れもまい静の恋に真摯な乙女としての姿である。

クリスマス・イブの夜。静は施設のコンサートの余興には興味を示さず部屋にこもりきり出てこない。前の晩、私用で出かけた穣の帰りを今か今かと待ち続けているのだ。美里が弾くシューマンの『トロイメライ』に合わせて、化粧をする静は、鏡に映る自分に微笑みかけるようにして真っ赤な紅色を口に差す。彼に美しい自分の姿をみてほしい。そんな思いで身支度していく静の姿。恋多き女性だった星の生涯を考えると、老境に最初で最後の初恋に燃えるこの役は、一世一代の熱演であったに違いない。最愛の人の帰りを待ちきれずに、しんしんと振り始める雪に誘われるようにして庭木に座り込むようにして果てていった老女の悲しさ。「愛している」という言葉で尽くされた恋文を読んで泣き崩れる穣の悲しさがここでもまた二重移しとなり、切ない初恋の物語は夢のままに結末を迎える。この偉大な老女優の一世一代のロマンスは、まだ駆け出しの横浜にどれほどかけがえのない記憶として刻まれることになったのだろうか。シューマンが結婚を反対されていたクララへの想いを込めて作曲した『トロイメライ』のドイツ語訳が意味するように、それは、「夢見心地」の体験であったに違いない。

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