映画『復讐者たち』レビュー!これは復讐肯定映画か?ユダヤVSユダヤを描く異色のナチス映画

拡大画像を見る

7/23(金)から公開される映画『復讐者たち』のあらすじや見どころをご紹介!毎年必ずと言っていいほどナチス映画が公開される中、本作はこれまで明かされなかった“ユダヤ人による”ナチス報復組織の実態を暴く作品です。これまでのナチス映画とは異なるポイントも解説しました。

毎年いくつもの作品が制作される「ナチス映画」。残酷な史実を克明に描いたものから、ナチスドイツによる悪行と戦うスリリングな作品まで、その描き方は多岐にわたります。

これまではユダヤ人側とナチスドイツ側の対立を描く作品が多い中で、7/23(金)から公開される映画『復讐者たち』はナチス映画の中でも珍しい「ユダヤ人とユダヤ人」の戦いを描いた作品でもありました。

復讐は一体何を生むのか?本当に復讐は正義なのか?改めて「復讐」の意味を問うサスペンスフルな本作について解説します。

映画『復讐者たち』あらすじ・概要

1945年、敗戦直後のドイツで、ホロコーストを生き延びたユダヤ人マックス(アウグスト・ディール)は、収容所で離ればなれになった妻子がナチスに殺されたことを知る。絶望のどん底に突き落とされ、復讐心を煮えたぎらせたマックスは、ナチス残党を密かに処刑しているユダヤ旅団と行動を共にする。そして、より過激な報復活動をしていたユダヤ人組織“ナカム”に参加し、ドイツ人600万人を標的とする驚くべき復讐計画“プランA”の存在を知る……。

出典元:https://eiga-board.com/movies/95404

復讐者たち

復讐者たち

2020年/ドイツ=イスラエル/110分

作品情報 / レビューはこちら

狂気の計画「プランA」とは?

本作で取り上げられる復讐組織「ナカム」が目論む狂気の計画「プランA」とは、ミュンヘンやベルリンなど、ドイツの主要都市5つを狙った虐殺計画です。ホロコーストに関与した人間に復讐するだけでなく、ドイツ市民全員を無差別に殺害する恐ろしい計画は、まさに「目には目を歯には歯を」と言えます。ホロコーストによって虐殺されたユダヤ人は600万人以上とされ、「プランA」による復讐はドイツ国民を600万人虐殺することを目的としていました。

ナチス映画に出演した2大キャストが共演!

血も凍るユダヤ人組織による復讐計画の詳細と顛末を描く本作は、これまでの「ナチス映画」とはかなり異なる雰囲気を持っています。同様のジャンルとしてはクエンティン・タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』(09)がありますが、『復讐者たち』はこれまで知られなかった「ナカム」の実態を暴く実話モノです。エンタメ性はもちろん、実話モノならではの真に迫る演出が見どころの作品となっています。

C)2020 Getaway Pictures GmbH & Jooyaa Film GmbH, UCM United Channels Movies, Phiphen Pictures, cine plus, Bayerischer Rundfunk, Sky, ARTE

そんな本作に大きな魅力を与えてくれる存在が、これまでもナチス映画に出演した経歴を持つ2大キャストです。

妻子を失い、復讐心を燃やす主人公・マックスには、『ヒトラーの贋札』(07)や『名もなき生涯』(19)で主演を務めたアウグスト・ディールが抜擢。「ナカム」による狂気の計画「プランA」の存在を知り、徐々に自分の復讐心をコントールできなくなっていく様子を見事に演じています。

(C)2020 Getaway Pictures GmbH & Jooyaa Film GmbH, UCM United Channels Movies, Phiphen Pictures, cine plus, Bayerischer Rundfunk, Sky, ARTE

もう一人の重要人物であり「ナカム」のメンバーであるアンナを演じるのは『ブレードランナー 2049』(17)や『蜘蛛の巣を払う女』(18)など、冷酷なヒール役を華麗にこなしてきたシルヴィア・フークス。『復讐者たち』ではマックス同様、家族をナチスによって失ったことから過激な復讐「プランA」に加担しますが…。

2大名優による演技はもちろん、「プランA」によって共鳴していく2人の様子はどこか危険な雰囲気をはらんでいました。

これは「復讐行為」を否定する映画ではない!

(C)2020 Getaway Pictures GmbH & Jooyaa Film GmbH, UCM United Channels Movies, Phiphen Pictures, cine plus, Bayerischer Rundfunk, Sky, ARTE

復讐映画にありがちな内容として「やはり復讐はよくない!」と、最後には否定的な展開に落ち着くことが多々あります。しかし『復讐者たち』は決して復讐を否定する映画ではないのです。そもそも本作で描かれる「復讐」には様々な形があります。マックスが初めに出会うユダヤ旅団は「ホロコーストに関与した人間のみに復讐する」「家族や子どもの前では実行しない」など、ある程度ルールの元で私刑を執行します。

一方で、「ナカム」の復讐はほとんどテロリズムに等しい形です。「ナカム」にとって、ドイツ市民はホロコーストの実態を黙って見ていただけの存在であり、全ドイツ市民を対象に虐殺を行おうとしていました。

この2つの組織で揺れる主人公・マックスの「復讐心」がどのように変化していくのか?彼が最後に導き出した「真の復讐」は、本作最大のポイントとなります。いくつもの復讐心を真っ向から描くことで、“本当になすべき復讐”が何なのかを語る「復讐肯定」映画でもありました。

静かに繰り広げられる潜入・裏切り・禁断の愛

(C)2020 Getaway Pictures GmbH & Jooyaa Film GmbH, UCM United Channels Movies, Phiphen Pictures, cine plus, Bayerischer Rundfunk, Sky, ARTE

本作は実話を基にしながらも、しっかりエンタメ要素も盛り込んでいる点が印象的です。最初はユダヤ旅団で復讐行為に加担していたマックスですが、過激派組織「ナカム」の存在を知ったハガナー(ユダヤ人による軍事組織)から、「ナカム」が計画している「プランA」の正体を突き止めるよう指示されます。ハガナーにとって無差別な復讐を企んでいる「ナカム」は、よりユダヤ人の立場を悪くしかねない存在。そこでマックスは「ナカム」へスパイとして潜入することになるのです。

しかしマックスと同じく家族をナチスに殺された女性・アンナと出会ったことから、マックスは次第に過激な復讐に傾倒していくようになります。それだけでなく、アンナと共感を超えた感情を持つようになるマックスは、どんどんスパイとしての目的を見失うように…。「復讐は人を変える」と言いますが、本作では組織をまたいで人が変わっていくマックスの様子が強烈です。

我を忘れて復讐心を燃やす様子を描くだけでなく、スパイ、禁断の愛、裏切りといったスリリングなエンタメ要素も合わせて描いています。

これまでのナチス映画と何が違うのか?

(C)2020 Getaway Pictures GmbH & Jooyaa Film GmbH, UCM United Channels Movies, Phiphen Pictures, cine plus, Bayerischer Rundfunk, Sky, ARTE

これまで多くのナチス映画が制作されてきた中で、本作の興味深い点は「ユダヤVSユダヤ」の構図になっていることです。基本的にナチス映画で復讐モノといえば、『イングロリアス・バスターズ』やアトム・エゴヤン監督作『手紙は憶えている』(15)のように「ナチスVSユダヤ」であるケースが多いと言えます。

しかし『復讐者たち』は自分たちの憎しみを原動力にする「ナカム」と「ユダヤ人の地位を上げる」ことを目標にする「ハガナー」との対立も描いています。ユダヤ人によるそれぞれの正義がぶつかり合う本作は、これまでにないジャンルの「ナチス映画」になっているともいえるのです。同時に明確な悪=ナチスの存在はそこまで強く描かれていません。「何が本当に正義なのか?」その答えを主人公マックスと共に探すストーリーにもなっています。

(C)2020 Getaway Pictures GmbH & Jooyaa Film GmbH, UCM United Channels Movies, Phiphen Pictures, cine plus, Bayerischer Rundfunk, Sky, ARTE

悲劇的な結末や事実を克明に描くナチス映画が多い中で、本作はどのようなラストを迎えるのか、ぜひチェックしてほしいです。この正義のぶつかり合いがあったからこそ、マックスが見出した「最強の復讐方法」は、大切なものを失ってしまった時に思い出してほしい“手段”といえるかもしれません。

映画『復讐者たち』作品情報

(C)2020 Getaway Pictures GmbH & Jooyaa Film GmbH, UCM United Channels Movies, Phiphen Pictures, cine plus, Bayerischer Rundfunk, Sky, ARTE

公開日:公開日 2021年7月23日(金)
監督・脚本:ドロン・パズ、ヨアブ・パズ
キャスト:アウグスト・ディール、シルビア・フークス、マイケル・アローニ、ニコライ・キンスキー、ミルトン・ウェルシュ、オズ・ゼハビ、イーシャイ・ゴーラン

製作:2ドイツ・イスラエル合作(2020年製作)
上映時間:110分
原題:Plan A
配給:アルバトロス・フィルム

関連リンク

  • 7/19 19:35
  • 映画board

スポンサーリンク

記事の無断転載を禁じます