日本語って美しいと感じてほしい『サイダーのように言葉が湧き上がる』市川染五郎インタビュー

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⼈とのコミュニケーションが苦⼿な少年と口元をマスクで隠したい少女。映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』は2人が繰り広げる、ひと夏の恋の物語です。主人公のチェリーを演じた市川染五郎さんに出演のきっかけや映画にまつわるエピソード、プライベートなことまで、たっぷりとお話をうかがいました。

本作は「マクロス」シリーズをはじめ、アニメーションの劇伴やアニソン制作において第⼀線を走り続ける⾳楽レーベル・フライングドッグの10周年記念作品です。テレビアニメ『四⽉は君の嘘』『クジラの⼦らは砂上に歌う』などで知られるイシグロキョウヘイ監督が初めて劇場版アニメーション作品を手掛けたことで話題になっています。シティポップ調の⾊彩に彩られ、イシグロ監督ならではのきらめきとエモーショナルな感情が湧き上がる世界観が繰り広げられました。

主⼈公であるチェリー役には、初映画、初声優、初主演となる歌舞伎界の超新星・⼋代⽬ 市川染五郎が起⽤され、ヒロインのスマイル役は、若⼿随⼀の確かな表現⼒で高い評価を受ける杉咲花が担当しています。

<あらすじ>

17 回⽬の夏、地⽅都市̶̶。
⼈とのコミュニケーションが苦⼿で、俳句以外では思ったことをなかなか⼝に出せないチェリーと、コンプレックスをマスクで隠すスマイルが、ショッピングモールで出会い、やがてSNSを通じて少しずつ⾔葉を交わしていく。
ある⽇ふたりは、バイト先で出会った⽼⼈・フジヤマが失くしてしまった想い出のレコードを探しまわる理由にふれる。ふたりはそれを⾃分たちで ⾒つけようと決意。フジヤマの願いを叶えるため⼀緒にレコードを探すうちに、チェリーとスマイルの距離は急速に縮まっていく。だが、ある出来事をきっかけに、ふたりの想いはすれ違って̶̶

かなりの挑戦だと覚悟して声優に挑んだ

―― 本作に声優として出演することになったきっかけと、決まったときのお気持ちをお聞かせください。

監督からお手紙をいただきました。そこには「やっとチェリーの声を見つけた」と書いてありました。僕が出演した、三谷幸喜さんの新作歌舞伎『風雲児たち』をご覧になって、そう思ってくださったようです。とてもうれしかったです。監督の思いに応えたいと思い、出演を決めました。

©2020フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会

――ご自身の声のどんなところがチェリーっぽいと思いますか。

チェリーがスマイルに声がかわいいと言われるシーンがあったと思いますが、そのかわいさを表現するには声変りしたばかりの声がいいと監督は思ったそうです。しかし、それを表現できる人がいない。それならばチェリーの年代の人がいいのではないかとずっと探していたと聞きました。そのころ、僕はちょうど声変りが終わったころだったのです。

©2020フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会

―― 声優は初挑戦ですね。声だけで演技をするのはいかがでしたか。

難しかったですね。何年か前に仕事でハムレットの朗読をしたことがありました。そのときに「声だけのお芝居はこんなに難しいんだ」と痛感したので、この仕事をいただいたときには「かなりの挑戦だな」と覚悟はしていました。

――チェリーは17歳の高校生です。当時、中学生だった染五郎さんより年上の役でしたが、その点は気になりませんでしたか。

僕は普段から15歳に見られることがなく、むしろ18歳くらいに見られるので、自分より年上っぽくしようとは特に意識はしませんでした。

――完成した作品をご覧になっていかがでしたか。

率直に感動しました。もちろん、演じているときから思っていましたが、心が温まる作品だと思います。自分のお芝居に関しては反省ばかりですが、やぐらから思いを叫ぶところはいちばん好きなシーンです。
また、後半でフジヤマさんの若い頃とチェリーが交錯しますが、物語の序盤には想像できなくて面白いなと思いました。

マイケル・ジャクソンの「Bad」MVで見たときの衝撃は忘れられない

――本作では音楽が大切なアイテムとして登場します。染五郎さんにとって大切な曲はありますか。

僕はマイケル・ジャクソンのファンです。マイケルで最初に聴いたアルバムは「Bad」でした。聴いたというか、MVで見たのですが、あのときの衝撃は忘れられません。自分が思っていたよりも古い感じがなくて、むしろ新しさを感じました。

©2020フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会

――ダンスを真似たりしますか。

父がラスベカスで歌舞伎をやったときに、マイケルのお面をつけてムーンウォークをしました。父が家で稽古をしていたときに僕も一緒に練習しましたが、恥ずかしいので人前ではやっていません。

――チェリーとスマイルが近づいていくのに、SNSが大きな役割を果たしていました。染五郎さんご自身も友だちとの関係においてSNSは欠かせないツールでしょうか。

インスタグラムをやっていますが、仕事の告知くらいしか投稿していません。LINEもやっていますが、こちらから何か発信することはほとんどないですね。若者らしい使い方はしていないですね。

©2020フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会

――学校から帰ってくると歌舞伎の稽古で忙しく、SNSをしている時間はないのでしょうか。

お稽古事もありますが、好きなことをしています。例えば、マイケル・ジャクソンの音楽を聴いたり、ライブ映像を見たり。あと、映画を見ることもあります。

古典ができるようになったうえで新しいことに取り組みたい

――最近ご覧になった映画で印象に残っている作品はありますか。

キアヌ・リーブス主演の『ジョン・ウィック』を見ました。殺し屋が主人公のシリーズもので3作品あるのですが、ジョン・ウィックのアクションがカッコいいです。アクション映画にもいつか出てみたいと思いました。

――こういうことを自分がやってみたいという見方をするのですね。

何を見ても「ここのこういうところを取り入れたら面白いんじゃないか」という見方になってしまいます。

©2020フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会

――歌舞伎は伝統芸能だと思っていましたが、今の言葉から何かに縛られるというよりもクリエイティブな仕事で、自分でいろいろ作っていけるものだという考えが伝わってきました。

もちろん、古典の決まったものをちゃんとできないといけませんが、一方で新しいこともやりたいと思います。

――幼い頃からずっと歌舞伎をされていますが、嫌になったことはありませんでしたか。

歌舞伎役者が嫌になったことはありませんが、歌舞伎のお化粧は嫌だったときがあります。

©2020フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会

――それはなぜでしょうか。

下地で鬢付け油を塗るのですが、かなりごしごし塗るのです。幼い頃は大人の人にやっていただいていましたが、痛いし、暑いし、べとべとするし。あの頃はすごく嫌でした。

――お客さんの前で演じる歌舞伎と作り上げたものを見てもらう映画では、演じる側として何か違いはありますか。

歌舞伎では必ず、舞台稽古をしますが、お客様がいるのといないのでは全然違います。特に舞台は映画と違ってお客様の反応が直接分かります。演じている側もお客様から無意識のうちに何か受け取っていると思います。

母音を意識して子音を発声するとのどを痛めない

――憧れる大人像はありますか。

役者としていろんなことに挑戦している人には憧れます。具体的には父ですね。自分もそうありたいと思っています。

©2020フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会

――お父さまから教わったことで印象に残っていることはありますか。

お芝居についてどう思っているか、父はあまり語りません。むしろ祖父がよく話してくれます。祖父はミュージカルをやっていて、誰よりも声が出ていますが、のどを痛めたところを一度も見たことがありません。すごいですよね。母音を意識して子音を発声すると、のどを痛めないようです。他にもいろいろアドバイスをしてくれます。

――染五郎さんが演じたチェリーは、人とのコミュニケーションが苦手です。染五郎さんご自身にも何かコンプレックスはありますか。
 
僕もチェリーと同じで、人前に立つのは苦手です。

©2020フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会

――舞台に立つときはかなり緊張しそうですね。心を落ち着けるために何か決まったことをしていますか。

舞台に出る直前に深呼吸をしています。
染五郎を襲名したときが人生でいちばん緊張しましたが、深呼吸をしたら少し落ち着いたのです。それ以来、続けています。

声という限られた表現方法で演じることで得られたものがあった

――今年から高校生ですね。学業との両立は大変ではありませんか。

舞台に立っている時期は大変ですが、一年中舞台をやっているわけではありませんし、同級生も部活で忙しかったりしますから、僕が特別とは思っていません。
学校の行事に参加できないこともありますが、歌舞伎が好きなので辛くはないです。

――学校で何か部活に入っていますか。

中学に入ったときはアート部か吹奏楽部をやってみたいと思いましたが、結局できませんでした。

©2020フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会

――『婦人画報』で「八代目市川染五郎のしばい絵日記」を連載されていますが、絵を描くのがお好きなのですね。

小さい頃から絵を描いてばかりいました。
連載している画のベースは水彩画ですが、クレパスや色鉛筆とか、いろんな画材を使っています。

――今回、声優として映画に出演して、何か学んだことはありましたか。

声という限られた表現方法で演じることで得られたものがあったと思います。今後は現代劇といった歌舞伎以外の舞台や実写の映画もやってみたいですし、アニメのお話をいただけければ、また挑戦したい。歌舞伎だけでなく、いろいろなお芝居をやっていく上で生かしていければと思います。

©2020フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会

――最後にひとことお願いします。

俳句がたくさん出てきます。俳句に触れる機会がない方も日本語って美しいんだなと感じていただけたらうれしいです。

ヘアメイク: AKANE
スタイリスト:中西ナオ

衣装クレジット
シャツ¥59,000
パンツ¥94,000
ジャケット¥170,000
(すべてニール バレット/ニール バレット ギンザシックス)
その他/スタイリスト私物

問い合わせ先:ニール バレット ギンザシックス(03-3572-5216)


※このインタビューは当初の公開予定日に合わせた2020年に行われたものです。


(取材・文:ほりきみき)

<プロフィール>

市川染五郎

『サイダーのように言葉が湧き上がる』

©2020フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会

出演:市川染五郎、杉咲花/潘 めぐみ、花江夏樹、梅原裕一郎、中島愛、諸星すみれ/神谷浩史、坂本真綾/山寺宏一
原作:フライングドッグ 
監督・脚本・演出:イシグロキョウヘイ 
脚本:佐藤 大 
キャラクターデザイン・総作画監督:愛敬由紀子 
音楽:牛尾憲輔
演出:山城智恵 
作画監督:金田尚美 エロール・セドリック 西村 郁 渡部由紀子 辻 智子 洪昌熙 小磯由佳 吉田 南 
原画:森川聡子 
プロップデザイン:小磯由佳 愛敬由紀子 
色彩設計:大塚眞純 
美術設定・レイアウト監修:木村雅広 
美術監督:中村千恵子 
3DCG監督:塚本倫基 
撮影監督:棚田耕平 関谷能弘 
音響監督:明田川 仁 
アニメーションプロデューサー:小川拓也
劇中歌:「YAMAZAKURA」大貫妙子/主題歌:「サイダーのように言葉が湧き上がる」never young beach
アニメーション制作:シグナル・エムディ×サブリメイション 
製作:『サイダーのように言葉が湧き上がる』製作委員会 
配給:松竹
©2020フライングドッグ/サイダーのように言葉が湧き上がる製作委員会
2021年7月22日(木・祝)全国公開

劇場版オリジナルアニメ『サイダーのように言葉が湧き上がる』公式サイト

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