熱海の土砂災害現場で注目された災害救助犬は真のエリート/小笠原理恵「自衛隊の“敵”」

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―[自衛隊の“敵”]―

◆第2回 懸命な救助活動にあたる災害救助犬に集まった感謝のツイート

 2021年7月3日に静岡県熱海市を襲った大規模な土石流は甚大な被害をもたらしました。今もなお安否のわからない方がたくさんいますが、そんな懸命な救助活動が続けられるなか、「雨の中、泥だらけになりながらよく頑張ってくれました」「本当にありがとうね」というコメントが、航空自衛隊浜松基地のTwitterにたくさん寄せられています。

 災害派遣の自衛隊員に対してではありません。行方不明者の捜索に駆り出されている災害救助犬に対してです。

 なかには、「お疲れ様。きれいに洗ってもらって、ご褒美とおいしいごはんをもらうんだよ」といったコメントもあります。今回の災害派遣では、自衛隊員ではなく、彼ら自衛隊の災害救助犬たちが注目されました。

◆危険がいっぱいの災害現場でも活躍できるよう訓練を受ける

 瓦礫のなかに人がいないか泥まみれになって探す救助犬に災害犬用のブーツを履かせてほしいという声も多く寄せられました。土砂崩れの現場の泥には、割れたガラスや折れた木、曲がった金属類などさまざまな危険なものが埋まっています。

 犬の足には柔らかな肉球があります。人間は靴を履いていますが犬は裸足です。海外の軍用犬は災害派遣時にブーツやゴーグルをつける場合があります。現在のところ自衛隊には災害救助犬用靴はありません。現場の自衛隊員が事前確認して危険場所には犬を入れない方針で運用しているそうです。災害救助訓練を終了した犬は適切な足場を判断する能力があり、安全な場所での運用に限るので心配しないでとのことでした。ただ、犬用の靴や装備品なら寄付したい人もいるようです。しかし、残念ながら自衛隊は寄付を受け取ることができません。

◆災害救助現場の犬たちは難関をクリアしてきたエリート

 今回の災害派遣では航空自衛隊浜松基地が災害派遣に出動しました。Twitter上でその浜松基地の災害救助犬が注目されています。

 前防衛副大臣山本ともひろ氏の活動レポートぽれぽれ通信Vol.42号に自衛隊犬の訓練について詳しい記事がありました。それによると、海上自衛隊と航空自衛隊には警備任務訓練を受けた犬が警備犬として配備されています。警備任務訓練を受けた警備犬のなかから大気の浮遊臭から人間の臭気や呼気を検知し、地域を捜索する訓練を受けます。その訓練を終えた犬が地域捜索犬となります。災害救助犬とは地域捜索犬がさらに訓練を重ね、国際救助犬連盟(IRO)の認定試験合格した犬のことです。ですから、災害救助現場の犬たちはかなりの難関を潜り抜けてきたエリートです。

 自衛隊災害救助犬へあたたかい声援コメントをもう一度読んでください。

「お疲れ様。きれいに洗ってもらって、ご褒美とおいしいごはんをもらうんだよ」

 災害救助犬にはこんな優しい言葉を多くの人がかけてくれます。でも、災害現場で働く 自衛隊員に「災害派遣で働く 自衛隊員に温かいお風呂とおいしいご飯、ゆっくりと眠れる場所と十分な手当を!」と言う人がどれくらいいるでしょうか? モフモフのかわいい災害救助犬だけでなく、自衛隊員にも同じ優しさがほしいなと思います。

◆被災者以上のつらさを救助隊が経験することに美徳を感じる風潮

「被災者がつらい目に遭っているのに、救助者がゆっくりと休息や栄養を取るのは許せない」という感覚を持つ人も多いと思います。災害派遣の現場では自衛隊員は隠れて冷たい缶めしやレトルト食品を食べることが多いようです。そして、疲れ果てても冷たい床に寝具もなしに雑魚寝をしていたころもありました。自衛隊員は我慢に我慢を重ねていました。この被災者以上のつらさを救助隊が経験することに美徳を感じる風潮も続きました。これが災害派遣時の自衛隊員の活動を阻む“敵”でした。

 交代して次の救助活動を始めるまでに、救助に当たる自衛隊員が十分な栄養と休息をとって英気を養ったほうが多くの人を救助できるはずです。被災者と同じ辛い目に自衛隊員をおいて、その体力を奪えばそれだけ五感も働かなくなり、救助範囲も狭まります。被災者に温かいお風呂と十分な栄養と睡眠をとってもらうのは当然のことですが、自衛隊員など救助者も被災者と同じ人間です。十分な栄養をとって温かいお風呂に入って柔らかな寝具でちゃんと睡眠をとってもらいたいものです。

 被災地の人々の苦しみをないがしろにしないでほしい。同じ苦労を共感してほしいという心情はあるでしょう。

 でも、視点を変えてみてください。泥まみれになって救助で疲れ切った救助犬はきれいに体をあらってもらい、ごはんや水をもらいます。この犬にそんなのは贅沢だと一切世話をしなければ犬と人間の信頼関係はなくなります。入念に足の裏や体に怪我がないかチェックした後に災害救助犬たちはお気に入りのオモチャで遊んでもらいます。無邪気に嬉しそうな災害救助犬に「ご褒美がもらえてよかったね」と多くの人が微笑んでいます。この暖かい心を自衛隊員や他の救助隊にまで広げてほしいと思います。

◆せっかく買った災害派遣用簡易ベッドを使ってください!

 2020年1月4日の日刊SPA!に「自衛隊員「雑魚寝」問題に光――補正予算でベッド9900個購入へ!」という記事を書きました。このときに補正予算で災害派遣用の簡易ベッドが大量に買われ、実際に災害派遣で使われました。9900個という数は全自衛隊員にはいきわたりません。だから、災害の発災現場近くに簡易ベッドが保管されていなければ災害派遣に使えないのではと心配していました。でも、近くに簡易ベッドがあっても災害派遣で使わず封印されているものが多いと聞き、疑問に思っています。

 この災害派遣用に買われた簡易ベッドの災害時使用許可がおりないそうです。災害派遣で使えば泥だらけで破損することもあるため、大事にしすぎて使えないのです。雑魚寝のような劣悪な環境を改善するために買った簡易ベッドなのですから、使ってください!

 自衛隊は予算が足らず、新品の状態で保管したいという事情は想像できます。自衛隊では買ったものが壊れても修繕や買い足す予算はなかなか出ません。だからある程度のまとまった数のものは非常時、有事に残しておきたいのでしょう。「欲しがりません。勝つまでは」という言葉は、敗戦末期に日本で唱えられたスローガンです。これで日本は戦争に負けました。私たちは同じ間違いを繰り返してはいけません。

「欲しがります! 次は勝つんで!!」

 これをスローガンに装備品は補充してもらえる自衛隊に変えましょう。しっかり休養を取り、力いっぱい 自衛隊員も災害救助犬も働ける環境になればいいですね。

<文/国防ジャーナリスト・小笠原理恵>

―[自衛隊の“敵”]―

【小笠原理恵】
おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot

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  • 7/16 15:52
  • 日刊SPA!

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