【レビュー】『ブラック・ウィドウ』生身のヒーロー“ナターシャ・ロマノフ”に触れる最後の旅路

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『アイアンマン2』(10)での初登場以来、アベンジャーズの主要メンバーの1人ながら、ようやくその人生の一部が語られることになった『ブラック・ウィドウ』。

クールで優秀な元スパイにして暗殺者、ブラック・ウィドウ/ナターシャ・ロマノフはどこから来たのか? 『アベンジャーズ/エンドゲーム』でなぜ、あの選択をしたのか? スーパーパワーも鋼のボディも持たない、生身のヒーローである彼女が “家族”を再び1つにしようとした旅路と私たちに遺してくれたものを思うと胸が熱くならずにはいられない。 


バラバラになったナターシャの2つの“家族”


2年ぶりのマーベル映画の公開を告げるお馴染みの「マーベル・スタジオ」のロゴから幕を開ける本作、冒頭に映し出される場所は1995年のアメリカ・オハイオ州。1995年といえば、キャプテン・マーベル/キャロル・ダンヴァースが地球にやってきた頃だ。当時10歳のナターシャは、6歳の“妹”エレーナ、“母”メリーナ、“父”アレクセイとオハイオで“潜入任務”についていた。その期間は3年…。エレーナがロシアからアメリカに来たのはわずか3歳のときだった。


だが、アメリカでの任務を終えた一家は突然帰還することになり、“家族”はバラバラになってしまう。その後、ナターシャとエレーナがスパイ養成所“レッドルーム”に再び送られ、暗殺者となっていく様子は、女性シンガー・Malia Jがカバーする「ニルヴァーナ」の「Smells Like Teen Spirit」が流れるオープニングクレジットをバックにモンタージュされていく。

ナターシャが当時を思い起こしたのは、あのときと同じように “もう1つの家族”アベンジャーズがバラバラになってしまったからだろう。本作の舞台は、時系列でいえば『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(16)の直後。ソコヴィア協定をめぐりアベンジャーズが分裂、チームの存続を第一に考えたナターシャは当初アイアンマン側に着くが、キャプテン・アメリカの思いをくみ取り最終的には彼を逃がしたことで、彼女自身も追われる身となっている。

そんなナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウを約10年にわたり演じ続け、本作の製作総指揮も務めるスカーレット・ヨハンソンは、彼女のルーツを描くにあたり、数多くの監督候補の中からケイト・ショートランド監督に白羽の矢を立てた。『さよなら、アドルフ』『ベルリン・シンドローム』などの作品で、自由意思と尊厳を奪われた女性の内面描写に迫ってきた監督だ。


ナターシャのエモーショナルな旅路、
鍵を握るのは妹エレーナ


「スカーレットと私は、彼女のロシアの子ども時代に戻ったのです」とショートランド監督は語る。ロシアの歴史家と調査をしながら「リアリティに基づいていて、マーベル・ユニバースに敬意を表したキャラクターを作ろうとした」という。「1人でいるとき、ナターシャ・ロマノフは何をしているのか。彼女はどういうものを食べているのか。どんな音楽を聞いているのか。私たちは、彼女のことをリアルなキャラクターとして作っていこうとしました」と言い、生身の人間としてのナターシャ・ロマノフ像に迫ったようだ。

さらに本作のナターシャは、「素晴らしいエモーショナルな旅に出かける」と監督は言う。「特に、彼女の妹に会うことは、どこかキャラクターの心を開かせることになり、観客は彼女の心の中に入ることができます」。

ナターシャがブダペストで再会を果たす“妹”エレーナは、かつてのナターシャと同様、スパイ活動や暗殺行為を行ってきたウィドウ。また、ブダペストといえば、『アベンジャーズ』や『アベンジャーズ/エンドゲーム』など、ホークアイ/クリント・バートン(ジェレミー・レナー)との会話の中で度々言及されてきた因縁深い場所でもある。


エレーナ役は、『ミッドサマー』や『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』で注目を集めたフローレンス・ピューだ。監督はフローレンスについて「パンクロックのような感性」の持ち主で、「とても知的ですが、ルールを破る人でもあります」と評する。「スカーレットには、彼女に匹敵する人がいたんですよ。スカーレットが楽勝するんじゃなくね。だから、セットで、そしてスクリーン上で彼女たちが一緒にいるのを見ると、とても刺激的な関係であることが分かります」。

例えば、『アイアンマン2』から“姉”ナターシャが見せてきたキメのヒーローポーズを、「いつものあれ、何?」「髪をパサーって」「人目を意識して」などと茶化すことができるのはフローレンス演じるエレーナだけ。

確かに、これまでのナターシャは観る者を意識しているかのような闘い方やポーズを要求されてきたように思う。でも、今作では違う。監督も言うように、今回のナターシャはエレーナ、そしてアレクセイ、メリーナとも久しぶりに再会し、これまでにない素顔を見せ、悲しみや苦痛で何度も顔を歪める姿を余すところなく見せている。アレクセイが耳を塞ぎたくなるほどの、レッドルームでの残忍な不妊手術についてもハッキリと言及している。

エレーナはディズニープラスで2021年内に配信予定のドラマシリーズ「ホークアイ」にも登場することが決定しており、その布石も“これぞMCU”というべき演出だった。


ナターシャが挑む最大のミッション…
愛と許しでさらに強くなる


やがて劇中では、エレーナ世代のレッドルームはさらにタチの悪い非人道的な方法でウィドウたちの自由意思を奪い、洗脳していることが分かってくる。そんなレッドルームを破壊し、ウィドウたちを洗脳から解き放つことが、ナターシャにとって最大の使命となる。

その使命に挑むべく、スカーレット自身が実際にスカイダイビングを行ったという空中アクションや、お馴染みのバイクチェイス、体を張った接近戦は大きな見どころで“マーベル映画が帰ってきた”ことを実感するが、最も心が動かされたのは、家族の愛に改めて触れ、ナターシャがよりいっそう強くなったこと。

「この映画の中で、彼女は愛されていることに気づくのだと思います」と監督も言う。「家族がいて、自分は大切な存在だということ、自分の人生は大切なものだったということに気づくのです。彼女が誇りに思っていない過去にやったことを、自分自身を彼女は許すことができるのです」。


コロナ禍でなければ、昨年、フローレンス主演の『ミッドサマー』の後に公開されていた本作。昨年の初めは同作ほか、『ハスラーズ』や『スキャンダル』、さらに『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』など、女性の連帯と、人生を奪い搾取する行為や尊厳を冒涜する行為からの解放と選択が描かれた映画が続き、今年も『プロミシング・ヤング・ウーマン』や『17歳の瞳に映る世界』といった作品が公開されるが、本作もそれらに連なる1作に加わった。世界NO.1のスーパーヒーローシリーズでそれを描いたのだ。あれだけの戦う女性たち(とスタントウーマン)が一挙に登場したのも壮観だった。

アベンジャーズの一員にして、1人の娘であり、1人の姉であるナターシャ・ロマノフ/ブラック・ウィドウ。これからは、心にも体にも傷を負った者たちが自由と再生へ向かうための伴走者として、それぞれの心に残り続けるはずだ。

『ブラック・ウィドウ』は劇場 and ディズニープラス プレミアアクセスにて同時公開中。

(text:Reiko Uehara)


■関連作品:
ブラック・ウィドウ 2021年7月8日より映画館 & 7月9日よりディズニープラス プレミア アクセス公開
© Marvel Studios 2020

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  • 7/16 14:00
  • cinemacafe.net

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