水卜麻美の出世を阻むのは“男の嫉妬”? 「男より出世」することを貶めるゴシップ記事のミソジニー

 ぽっちゃりキャラで愛されている、日本テレビ所属のアナウンサーである水卜麻美さん。彼女が食べている姿が可愛らしくて癒されるというファンはとても多く、私もそう思う。おいしそうに幸せそうに食べている姿は、とても可愛い。こういった女性が好きな男性もとても多いだろう。

 2021年4月ごろ、そんな水卜麻美さんが某大手芸能事務所からの3億円のヘッドハンティングを断ったという話題がのぼった。活躍の場を広げ、収益を上げるためにフリーアナウンサーへの転身が定石となっている現代、水卜麻美さんのその判断に驚かされた人は多かったようだ。

 水卜麻美さんが誰もが驚く好条件のスカウトを断った理由は「日本テレビの社風が好きだから」。彼女は、アナウンサーとしての能力も人気も非常に高いだけでなく、勤勉で、裏方や組織論についての勉強までしているようだ。そのうえ愛社精神まで豊かとなれば、当然、上層部は高く評価する。日本テレビへの在籍が確定となった今、近い将来、彼女が最年少の女性執行役員に抜てきされるかもしれないといった噂まである。

 多くの人が職場環境や待遇に不満を抱えている現代に於いて、会社と社員が互いに評価し合っているだなんて、うらやましく思えるほどものすごく良い話だ。みんながみんなこうなればいいのにとすら思う。

 けれど、「誰かが出世を確実にする」ということは、「誰かの出世の邪魔になる」ということでもある。

 だから、水卜麻美さんの存在が面白くない人がいる。そういった人らの悪意からだろう、彼女がヘッドハンティングを断ったことを枕にして「天真らんまんな笑顔とは裏腹に頭の中は“出世”の二文字でいっぱいの野心家」と、彼女を揶揄する内容のゴシップがあるネットメディアにアップされた。

醜い嫉妬と匿名コメントが火のない所に煙を立たせる

 そのゴシップのタイトルには「男より出世」と書かれていて、女性を貶める悪意が少なからずあるのだろうとはひと目でわかった。会社に勤めていて、その会社がすばらしいと感じていれば、出世欲なんて自然と芽生えてくるのは男女関係ないことで、それなのに性別を出してくる時点で何らかの意図があるとわかる。

 けれど、どのように彼女を貶めるのか、私には皆目見当もつかなかった。愛社精神からヘッドハンティングを断り、それを喜んだ上層部が彼女を評価する。何も指摘する箇所がない。

 だから、記事を読んで驚いた。記事の内容をかいつまんで説明すると、「大好物のカツ丼をかっ込みながら話す」とか、「食欲に走るのは、旺盛な恋愛欲を抑えるためだろう」といった、彼女の食欲や恋愛話を揶揄して、弱みやいやらしさを邪推するだけの記事だった。

 それらの情報源となっている匿名コメントの肩書が「日テレ関係者」「放送作家」となっていることから、彼女がヘッドハンティングを断ったことで、出世が阻まれた方々のコメントなのかもしれない。中には「事情通」という肩書があったが、何の事情に精通していたら、このような邪推をあたかも真実かのように述べられるのだろうか。

 別に、愛社精神からの向上心で上を目指しても、カツ丼をかきこんでも、何ら問題はない。カツ丼を作った人はおいしく食べられることを望んでいるし、元気に食べられることはいいことだし、そうやって食べられるぐらい気の置けない仲間たちと食事をしているだけだ。

 それなのに、まるで下品にご飯粒を撒き散らしながら話して周りに嫌な思いをさせているかのような書き方をして、スキャンダルでも何でもない過去の恋愛話を持ち出して「恋愛経験が乏しい」だとか「食欲に走るのは旺盛な恋愛欲を抑えるため」だとか、決して死角でも何でもない邪推を“死角”だと述べる。

 私は、丼をかき込んで食べるより、人を貶める目的の邪推記事を書いたり、人の食欲をあざ笑ったりする人のほうが、よっぽど下品だし、あまりにも無知だと思う。

 そうやって安易に人の食欲をあざ笑うことが、多くの女性が命を落としている現状に繋がっていることを知らないのだろうかと。

 昨今、ボディ・ポジティブというムーブメントが広がりを見せている。これは、「自分自身の体を愛そう」という考え方を広めるためのものだ。体型は体質による影響が大きく、怠けているから、だらしないから太るというものではない。だから、周りの意見に惑わされず、自分自身を愛して健康に生きようと。

 美しさを売りにしているハリウッド女優たちまでもがボディ・ポジティブに賛同し、ふっくらとした体を露出し、しみやしわを修正せずにメディアに出演している。

 なぜそういったムーブメントがここまで大きな広がりを見せるほど賛同されているのかというと、“異性としての評価”と“社会人としての評価”を一緒くたにしている男性が未だに多く、「痩せていなければ美しくない」どころか「太っている女は社会人失格だ」という風潮のせいで摂食障害に追い込まれた多くの女性が命を落としているからだ。

 まだまだ男性優位な社会で、女性は、男性に認めてもらわなければ社会で活躍できない。だから、女性が社会人として社会生活を送るためには、まず男性に“異性としての評価”を受けるところから頑張らなければならない。

 そのために、ダイエットをして、清楚なファッションとメイクで自分を飾り、ハイヒールを履いて、そのために多額の費用を出費し、それらが苦痛でないかのように振る舞って、男性なら笑って許される粗雑な振る舞いが一切許されない窮屈な日々を笑顔で過ごす。そうしてやっと、社会人扱いされる。出世をしようとすれば、そこからさらに男性と同じだけ努力をしなければならない。女性が出世するということは、それほどまでに大変なことだ。

 しかし、そこまで頑張ったとしても、女性が出世できることはほとんどない。“異性としての評価”を受けなければ社会人として活躍できない社会を牛耳っているのは「生意気な女を許せない男」で、自分の言い成りになってダイエットをした女性を可愛がることはあっても、正当な評価を下すことはほとんどない。

 それでも、ほとんどの女性は、一縷の望みに賭けて賽の河原の石積みのような努力を積み重ねる。それしか、社会生活を送る術がないから。

嫉妬によって受け継がれていく悪意が女性の健康を害し続けている

 水卜麻美さんは、正当に能力を評価してくれる職場に巡り合えた。そしてその職場のために、実入りの良いスカウトを断った。何も非難する点が見当たらない。

 だからこそ、彼女は嫉妬される。出世を阻まれた男性から、職場に恵まれずに苦しんでいる女性から。ネットメディアゴシップは、そうした人の嫉妬に漬け込むために彼女を女性として貶める。

 そしてそれを読んだ別の女性が、食欲や体型があざ笑われているゴシップが当たり前のように世間に受け入れられているさまを受けて、それが世間の声なのだと思い込んで、自分自身を追い詰めていく。

 男性でも、太っていることでいじめに遭った人は少なからずいるだろう。けれどこれは、いじめの話ではない。女性にとって「痩せている」ことは必須条件で、それを満たしていないと社会人扱いされないという話だ。そう扱われる男性は非常に少なく、現に、ボディ・ポジティブというキーワードで検索すると、女性の画像しか出てこない。

 冷静に考えれば、食欲や体型をあざ笑う人間なんてロクな人間ではないとわかる。けれど、それでも、それに従わなければ社会生活が営めない。悔しくても、従属するしかない。健康と引き換えにしなければ社会生活を営めない女性は、とても多い。こうしたゴシップは、単に個人を傷付けるだけではなく、多くの女性から健康を奪っているのだ。

 ボディ・ポジティブに対して「デブが痩せないための言い訳だ」という声がある。私からすれば、そういった声のほうが「前向きに強く生きる女性を脅威に感じている人が、虚勢を張るための言い訳」に聞こえる。

 痩せる、痩せないなんて個人の価値観に委ねられる選択でしかないし、どんな立場の人間であったとしても、努力は促すものであって、強いるものではない。体型や食欲をあざ笑って不要な努力を強いたり、貶めたりするような三流以下の人間とは、とっとと縁を切るべきだ。そんな連中に貴重な時間や健康を捧げるなんて、あまりにももったいない。

 女性が苦しんでいる社会に問題意識を持って、解決のために取り組んでくれている組織も存在している。一刻も早く、そうした組織に評価されるための自分磨きを始めたほうが、よっぽど有意義だ。

 実際、水卜麻美さんは老若男女問わず多くの人から愛されているし、その努力や愛社精神を評価している上司がいる。拡散されやすいネットメディアの意見が幅を利かせているように感じるかもしれないけれど、少しずつ、確実に、そういった悪意をあざ笑う方向に社会が変わり始めている。

 だから、こんな記事に惑わされる必要も、そういった組織に従属する理由も、悪意でしかない罵詈雑言を鵜呑みにした自戒も、すべて必要ない。ばかが今日もばかを言っていると笑い飛ばして、おいしいご飯を好きな人と食べて、健康的な生活を送ろう。そして、それを当たり前にしよう。そうすれば、性別や体型にかかわらず、多くの人が幸せに過ごせる社会になるのではないだろうかと、私は思う。

  • 7/11 12:00
  • サイゾー

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