彼とお泊まりしたかったのに、2軒目もナシで帰らされた女。解散の直後に彼から届いたLINEとは

29歳。

それは、女にとっての変革の時。

「かわいい」だけで頂点に君臨できた女のヒエラルキーに、革命が起きる時──

恋愛市場で思うがままに勝利してきた梨香子は、29歳の今、それを痛感することになる。

ずっと見下していた女に、まさか追いつかれる日が来るなんて。

追い越される日が来るなんて。

◆これまでのあらすじ

飲み会で出会った豪に狙いを定め、正々堂々勝負しようと誓う梨香子と絢。その直後、梨香子は恋人の光平が女性と楽しそうに歩いているところを目撃しショックを受けるものの、そのショックが後押しとなり豪へアタックを開始するのだった。

▶前回:彼氏がいても、”もっと上”を探してる。罪悪感ナシだった女がタクシーから目撃した、信じられない光景


―2019年7月―

<Go:おはよー!今日も1日頑張ろー>

朝目覚め、目当ての男からの新着LINEを見ると、それだけで良い1日になる気がする。

女は単純だと、我ながら思う。

飲み会が終わってすぐ、私は豪さんに連絡をした。それから1週間、他愛もない会話がなんとなく続いた。

けれど、一向に食事に誘われる気配がない。どんな仕事をしているかとか、好きな映画は何かとか、そんな話ばかり。

しびれを切らした私は、つい自分から食事に誘ってしまったのだが、案外あっさりOKをもらえた。

ついに明日、2人で食事に行く。

<梨香子:今日も頑張りましょう~!明日、お会いできるの楽しみです♪>

基本的には、いつもは待ちのスタンス。放っておいても、LINEもデートも向こうから誘いがくるから。

けれど、豪さんに対しては違う。自分からアクションを起こす価値があると思った。

…少なくとも、このときは。

ついに、梨香子が狙っている豪と食事へ…。

長谷川 豪、34歳。東京大学を卒業後、メガベンチャーへ入社。5年後に退職しIT企業を立ち上げ、現在は取締役社長。

これは、豪さんとの他愛のないLINEのやりとりから得た情報。

だけど、彼は想像以上だった。「長谷川 豪」とGoogleの検索ウィンドウに入力すると、彼が社長を務める企業名や、彼が過去に手掛けヒットしたITサービス名などが、関連ワードにいくつも候補として出てくる。

多くのインタビュー記事もヒットし、中には推定総資産額が数十億円という見出し記事もあった。

その記事の信憑性は定かではないが、これらの情報を知る前から私は豪さんにピンときていた。そんな自分の直感を我ながら褒めてあげたい。

<Takeshi:梨香子ちゃん、久々~!いつになったら俺とごはん行ってくれるの~?>

豪さんの情報をスマホをスクロールしている時に、興味のない男からのメッセージが着信すると、水を差された気分になる。

いつかの食事会で出会い、しつこくアプロ―チをしてくる男だ。絶対に2人で食事なんか行くわけがないし、正直こういうLINEもうっとうしい。

…けれど、明日はついに豪さんとの初めてのデート。珍しく自分から誘ったということもあり、少し緊張していた。

だから、こうしてモテている実感を得られると、どことなく自信が湧いてくる。

<梨香子:また、いつかね>

いつもなら既読スルーするLINEも、自信を与えてくれたお礼に返信だけはしておいた。



そして迎えた土曜日、デート当日。

目覚めてすぐ、たっぷり1時間の半身浴をした。SHIGETAのバスソルトを惜しみなく使い、入浴後はCHANELのボディクリームで入念に全身をマッサージする。むくみや疲れをさっぱり洗い流す。

メイクもいつもより丁寧に、だけど濃くなりすぎないようにナチュラルに。お気に入りのESTNATIONのワンピースを着て全身鏡の前に立てば、そこには見惚れるほど美しい女がいる。

自惚れが入っていることは十分にわかっている。でも、こうしてデート前に自分に自信をもつことは、モテるためには重要なのだ。


時間ぴったりに指定された店につくと、すでに豪さんが待っていた。黒いシャツにハーフパンツというラフな格好もまたかっこいい。

「豪さん、お待たせしました~」

「お、梨香子ちゃん。お疲れ、俺も今来たとこだよ」

爽やかな笑顔で迎えられるだけで、気分が高揚する。テキパキとオーダーを済ませ、会話をリードしてくれる姿もまた素敵。

― やっぱり私、豪さんをどうにかしたい…。

体の芯から、強く思う。そんな気持ちで彼を見つめると、彼もどこか意味ありげな視線を返してくれるような気がした。

「豪さんって、今は具体的にどんなお仕事されているんですか?」

私の質問に対し、懸命に自分の仕事やビジョンについて語る彼の横顔はどこか精悍で、見ていてうっとりしてしまう。

「すご~い!尊敬します」

「梨香子ちゃんはどんなお仕事してるの?」

「商社で事務やってます。私なんて、豪さんと比べたら地味でつまらない仕事ですよ」

とにかく褒める。男性を立てる。褒められて、嬉しくない男なんていない。王道かもしれないけど、結局これが今までで一番モテてきた手法なのだ。

「というか豪さんって、絶対モテますよね?」

「そんなことない、全然だよ」

「え~、絶対モテますって」

さりげないボディタッチを織り込みながらの、色っぽい会話も忘れない。少し表情が崩れた豪さんを見て、こっちのペースに持ち込めた感覚がした。

デートの帰り際、豪が梨香子にはなった言葉

20時から飲み始めて、23時前に店を出た。

今日は土曜日、明日は休み。正直もっと一緒にいたい。絶対にそんなことするべきじゃないけど、本心を言えば本当はこのまま朝まで一緒にいたい。

けれど初めてのデートだし、今日はここで帰っておいてもいいのかもしれない。

「また近いうちに食事でも行こう。タクシー拾うね」

そんな胸の内を知ってか知らずか、豪さんは当たり前のように帰る素振りを見せた。

― …もう1軒行きませんか?

この一言が寸前まで出かかったけれど、今日デートに誘ったのも自分。積極的すぎるのは引かれてしまうかと思い、どうにか「はい!」と笑顔でやりすごした。

「じゃあ、また連絡するね」

「…はい。じゃあ、また!」

タクシーに乗り込み、窓から豪さんが見えなくなったことを確認すると、一気に脱力した。座席にもたれかかりながら、ぼーっと外を眺める。

食事中かなりの手ごたえを感じていた気がしたけれど、帰り際は妙にあっさりしていた。

― …これ、脈ナシってこと?

窓の外を流れる景色の中には、たくさんのカップルがいる。まだデートを楽しんでいる男女が、うっすら窓に反射する完璧な自分の姿に重なる。

そんな皮肉な光景に、さらに悶々とした気分が込み上げた。


けれど、私が感じた手応えは間違っていなかったようだ。

<Go:今日はありがとうね。楽しかったよ!次はここ行かない?来週あたりどうかな?>

解散してすぐ、豪さんから次回を打診してくるLINEが届いたのだ。

そもそも相手に気がなければ、1度でも食事に行かないはずだ。しかも、仕事に全力を注ぐような男であればなおさら、無駄な時間を嫌う。

そんな男が、私を2度目のデートに誘ってきている。

― …まじ!!!やっぱ、私すごい!

窓の外を流れる男女のことなんて一瞬で頭から吹き飛び、私はすぐに連絡を返した。

<梨香子:私もとっても楽しかったです!是非、ここ行ってみたいです♪来週だと、金曜日なら空いてます!>

すぐに返信しない方がいい。暇な女だと思われないように、少しくらいスケジュール調整させたほうがいい。

巷で聞く恋愛ハウツー的なテクニックは頭によぎったけれど、そんなことどうでもよかった。それより、素直に感情表現したい。思った通りに行動してみたい。そう思った。

<Go:お、来週金曜日なら俺も空いてる!じゃ、20時に予約しておくね>

そんな私の気持ちにこたえるように、豪さんもすぐに連絡をよこした。まるで、気持ちが通じているみたいだった。

きっと、今日が1回目のデートだったから健全に1軒で解散しただけだったのだろう。随分あっさりしていたように見えたけど、それはきっと彼の性格だ。

さっきまでネガティブに捉えてしまっていた事象ひとつひとつが、まるでオセロをひっくり返していくかのように、ポジティブに見えてくる。

― 絢、ごめんね。豪さんは私がいただく。

ふと、恋敵の存在を思い起こす。けれど今の状況を鑑みれば、彼女に対して嫉妬したり負の感情を抱く必要はない。

少しの申し訳なさと、少しの優越感。そして、なによりこれから始まりそうな恋の予感に、私は有頂天になっていた。

絢がどれだけ強敵なのか、この時の私は知らなかったから。


▶前回:彼氏がいても、”もっと上”を探してる。罪悪感ナシだった女がタクシーから目撃した、信じられない光景

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豪を巡った2人の闘い。絢の逆襲がいま、はじまる…。

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