「ありえない…」彼の家で元カノと鉢合わせ!?その女から告げられた、衝撃の真実
平日は全力で働き、週末は恋人と甘い時間を過ごす。
それが東京で生きる女たちの姿だろう。
でも恋人と、“週末”に会えないとわかると
「いったい何をしているの?」と疑心暗鬼になる女たち。
これは、土日に会えない男と、そんな男に恋した女のストーリー。
◆これまでのあらすじ
IT会社でアプリをプロデュースする笹本美加(28)は、脚本家の釘宮海斗(32)と恋に落ちた。だが彼は土日になると音信不通になる男だった。美加が、海斗に呼ばれて自宅に向かうと、そこには見知らぬ女がいた…。
▶前回:「女って面倒くさい…」彼女の前では絶対に言わない、仕事が忙しい男の本音
4th weekend 「本当の、親友」
「はじめまして~。ユウでーす」
海斗が紹介するより先に、篠原ユウは彼女の武器ともいうべき屈託ない笑顔で、美加を出迎える。
「は、はじめまして…」
美加が面食らっているのは、火を見るよりも明らかだ。
― ユウと会わせたのは、まだ早かったかな…。
海斗は、美加が買ってきてくれたハムやチーズといった総菜をプレートに広げながら、すでに後悔し始めていた。
― でも仕方ない。もう後戻りはできない。
海斗はあらためて覚悟を決める。
「彼女は篠原ユウさんと言って、お仕事は役者さん」
美加が戸惑った様子で頭を下げると、ユウは声に出して笑った。
「あーっ、今、知らないって顔したでしょ~?」
「いや、えっと…」
美加の困惑の表情が濃くなる。
「まー、私、売れてないから仕方ないよね~。でも映像作品には出ていないけど、舞台には結構出演してるのよ」
ユウは美加に近づくと、慣れた感じでハグをする。
「話は海斗から聞いてるよ。美加ちゃんでしょ?よろしくねー」
「…お友達ですか?」
ユウにハグされたまま、美加は視線を海斗に向けて尋ねる。
海斗は思わず言葉に詰まった。するとユウが代わりに答えた。
「元カノ。私たち、付き合ってたの」
海斗はなぜ、元カノを美加に紹介した?
映像の仕事ばかりしていた海斗が、5年前に初めて舞台の脚本を書いた。その舞台でヒロイン役を演じたのが、ユウだった。
打ち上げの席で意気投合し、二人きりで映画や舞台を見たり、飲みに行ったりするようになる。男女の関係になるのも早かった。
しかし海斗は――美加にも現在進行形でそうしているように――男女の関係になってからも、ズルズルと“現状維持”を続ける悪癖がある。
情けないと自覚しているが、海斗は怖いのだ。
告白すれば、フラれる可能性があることが。関係が後退するぐらいなら、告白しないまま関係を維持したいと思う。だから、ユウとも1年近く“そういう関係”を続けていた。
「私は打ち上げの日から、ずっと両想いだと信じてたよ」
関係を持ってから1年が経ったある日、ユウに言われた。両想い、というワードのチョイスが彼女らしい。
「それなのに恋人じゃないなんて嫌だから、ちゃんと私を恋人にして」
断る理由はない。 海斗は「もちろん」と頷いた。
が、続けざまユウの口から、意外な言葉が飛び出してきた。
「じゃ、カノジョとして言うね。私たちの関係、もう終わりにしましょ」
“大人の関係”のまま終わるのではなく、“カノジョ”として終わりたい。それがユウの考えだった。
1年間一緒にいてユウは「海斗の良いところも悪いところも大体わかった」と言う。そのうえで「付き合いきれない」と判断したらしい。
「これからは親友として仲良くしていこう」
握手を求めながらユウが発したその言葉は、別れた男女にありがちな社交辞令だと、海斗は思った。
だが実際、その後もユウは、親友のように海斗と接していた。
「一度はそういう関係になった者同士だからこそ、男女の仲を超えた友情が芽生えるものよ。脚本家なら覚えておいて」
彼女は口癖のようにそう言った。
自分にカレシができるとユウは報告してくる。だから海斗もカノジョができると報告した。
やがて、恋人だけじゃなく、恋人になりそうな人間が出現しても報告し、相談し合うようになる。
そして今回の、美加のこともユウに相談すると、「わかった。じゃ、私に会わせて」と言った。
だから、こうして金曜の夜、海斗は自宅でユウと一緒に、美加が来るのを待つことになったのだ。
「お二人の関係は一応、理解しました。でもユウさんがご自宅にいらっしゃるなら、最初から伝えてほしかったです」
美加は、うつむいたまま言った。
ごもっとも、おっしゃるとおりです、と海斗は内心で猛省し、美加以上にうつむいた。
「私が言ったの。私がこの家にいるって聞けば、美加ちゃんは会ってくれない可能性があるから、伝える必要はないって」とユウは悪びれずに告げた。
「…たしかに、ユウさんがいると知ってたら…ここに来なかったかも…」
「でしょー?」
ユウは声をあげて。ほらね、とでも言いたげに海斗を見る。
「それで私と会って、何を話したいんですか」
挑戦的な言葉の内容とは裏腹に、恐る恐るといった感じで美加が尋ねる。
「いや、特に何を話したいわけでもない。ただ会ってみたかっただけ」
ユウはあっけらかんと返す。
「…え?」
意外な答えだったのだろう。美加は声が漏れた。
「…は?」
かくいう海斗も、ユウの意外な答えに声が漏れた。美加との仲を取りもつ話をしてくれるのだと、海斗は思っていた。
「強いて言うなら、会って美加ちゃんがどんな人か知りたかったの」とユウは言ったあと、平然と言葉を続けた。
「海斗から聞くかぎりは、とても素敵な女性だったけど、恋は盲目って言うから、ピンク色のフィルターを通してるかもしれないじゃん」
「ピンク色のフィルター…」と美加がつぶやく。
「でも私から見ても、美加ちゃんは素敵な女性だと思ったよ」
「ユウさん、私と会ったばかりなのにわかるんですか?」
「わかる。だって美加ちゃん、本当は夜ゴハンを食べてきたでしょ?それを隠して『食べてない』ってことにして総菜を買ってきたよね?」
ユウの言葉を受け、海斗はテーブルに目を向ける。今まで気づかなかったが、美加は箸が進んでおらず、取り皿がまっさら綺麗なままだ。
「こういう『小さくて優しい嘘』をつける人って、私、好きなの」
それから男女3人は朝まで…
―土曜日―
朝、リビングのソファで目覚めた海斗は、昨夜の片づけを始めた。
皿洗いとゴミ出しまで終えると、寝室のベッドで寝ている美加と、仕事部屋のソファに寝ているユウの様子を、それぞれ確認した。
二人ともまだ起きる気配がない。
ユウが会話をリードする形で、昨夜は遅くまで飲み明かした。眠りにつくころには窓の外で日が昇っていた。
三人で交わした会話は他愛もないものだ。それぞれの好きな食べ物とか、好きな映画とか、これまで良かった旅行先とか、本当に他愛のないものだ。
ただ、その会話のおかげで海斗は、美加とのわだかまりが消えていく感覚があった。
そして彼女の人となりを、もっと深く知った。
きっと美加も、海斗の人となりをさらに深く知ってくれたことだろう。
率先して会話を進めてくれたユウに、海斗は感謝しかなかった。
昼前に、美加とユウはほぼ同時に起きてきた。
簡単な身支度を整えると、三人は近くのカフェで、少し遅いモーニングをして解散することになった。
ただユウは去り際に、海斗に聞いてくる。
「今週の土日は、締切がないんだよね?」
海斗が口を開いた瞬間に、ユウが被せてくる。
「あっても、今週だけは『ない』って言いなさい」
ユウの勢いに圧倒されて、海斗は思わず答える。
「…うん、締切はないよ」
「だったら、美加ちゃんとデートしなよ」
海斗は呆気に取られたが、美加もキョトンとした顔でユウを見つめている。
「じゃ、海斗先生、この店の会計はお願いしますね。ごちそうさま~」
役目を終えたユウは、颯爽と帰っていく。
残された二人の間に一瞬だけ気まずい空気が流れるが、海斗は勇気を振り絞る。
― いや、こんなもの、勇気でも何でもない。
美加の目がこちらを向いたタイミングを見計らい、海斗は言った。
「この土日を俺にください。デートしましょう」
「…はい」
一度自宅に帰って着替えてくる、という美加と再集合するまでの間に、海斗のもとにはユウからLINEが入った。
『この土日は、仕事しちゃダメよ。あと、サッカーの試合をスマホでチェックするのも禁止だから。美加ちゃんとのデートに集中して』
14時。
渋谷のパルコ前で再集合した海斗と美加は、気になる映画を見てからカフェで感想を言い合い、インテリアショップで買い物をして、夜は食材を買って二人で一緒に料理した。
―日曜日―
ベッドで寝ている美加を起こさないよう、こっそり家を出た海斗は、二人分のクロワッサンを買う。
サッカーの試合結果やニュースを見たい衝動に駆られるが「この土日だけは…」とグッと堪えた。
海斗が帰宅したタイミングで美加は目覚め、コーヒーとオレンジジュース、それに買ったばかりのクロワッサンをトレーに置いて、ベッドの上で朝食を済ませる。
「今日はドライブに付き合ってくれない?」
海斗の申し出を、美加は快諾してくれた。
行く当てもないドライブが、海斗は好きだった。
特に脚本の執筆に詰まると、行先も決めずにドライブしながらアイディアを練ることが多い。
そして恋人と大事な話をしたいときも、ドライブを選ぶ。
「聞いてほしいことがあるんだ」
美加を助手席に乗せた車が、麻布十番を出て、外苑西通りの天現寺の交差点に差し掛かるころ、海斗は話を切り出した。
「俺が今まで、どんな恋愛をして、どんなふうに終わってきたか、美加さんに知ってほしくて」
美加は黙って頷き、そのあともずっと、黙って海斗の話を聞いてくれた。
東京の街を走りながら、海斗はこれまで付き合ってきたほぼすべての女性に「仕事と私とどっちが大事なの?」と言われてきたことを懺悔した。
「全部、俺が悪いんだ。俺が『土日に会えない男』だから、いつも同じ問題にぶち当たる。でも、これからは直したい」
「…直したい?」
ずっと黙って聞いていた美加が、初めて口を開く。
「うん、直したい。だから、俺とちゃんと付き合ってほしい」
だらだらと体だけの関係に陥ってしまう悪癖も懺悔し、海斗は心の底から真剣に伝えた。
「カレシとカノジョとして付き合ってほしいんだ」
最初から告白するつもりで海斗は美加をドライブに誘った。
でも、いざその時になるとハンドルを持つ手が震えそうになる。心は完全に震えていた。
美加は沈黙している。運転中のため、その顔を見ることはできない。
ほどなくして美加が口を開いた。
「ごめんなさい。今は…海斗さんと付き合うことは、無理です」
▶前回:「女って面倒くさい…」彼女の前では絶対に言わない、仕事が忙しい男の本音
▶Next:7月18日 日曜更新予定
告白を断った美加だが、あの人からのまさかの一言に、気持ちがゆらぎ始めて…