「明日から2週間で…」休日に女上司から突然の電話が。予想外の理由とは

美人か、そうでないか。

女の人生は“顔面偏差値”に大きく左右される。

…それなら、美しく生まれなかった場合は、一体どうすればよいのだろう。

来世に期待して、美人と比べられながら損する人生を送るしかないのか。

そこに、理不尽だらけの境遇に首をかしげる、ひとりの平凡な容姿の女がいた。

女は次第に「美人より、絶対に幸せになってやる!」と闘志を燃やしていく。

◆これまでのあらすじ

広告代理店の美人ぞろいの営業部に異動した園子。奮闘するも、幼なじみに失恋したり、職場での雑な扱いを受けたりする毎日に落ち込んでしまう。

しかし、母親から「自分の幸せを間違えないように」とアドバイスを受け、失いかけていた自信を取り戻すのだった。

▶前回:「この見た目で損してるの」悲しみの26歳OLが母親から言われた驚きの忠告


「あの、清華さん…」

昼過ぎのデスクで、園子は横にいる清華に声をかけた。

その声に彼女は、キーボートを打つ手を止める。そして、手のひらで園子を静止する仕草を見せた。

― はあ…。忙しいって言いたいのね。

仕方がないので、何度もチェックした書類にもう一度目を通し、誤字脱字を探し始める。見ての通り暇なのだ。

経理部にいた頃は、請求書の1円単位のズレを指摘する地道で細かい作業にストレスを感じていたが、今やあの時の自分が羨ましいとさえ思う。

仕事が与えられないことが、こんなに辛いとは思わなかった。トレーナーの清華は手持ち無沙汰の園子には目もくれず、たったひとりで多忙を極めているのだ。

「あの、私にも何か任せてもらえないでしょうか」

しびれを切らした園子が、彼女に声をかける。

「後にしてもらえるかしら」

清華はそうつぶやき、キーボードを叩き続けながら真顔で園子を見た。力強い目つきに一瞬ひるむが、負けん気を出して食い下がる。

「お願いします。どんな仕事でもいいので」

「…そう。じゃあこの発注書をお願い」

清華は書類をしぶしぶ手渡し、手順を説明し始める。

しかし、彼女の一方的で早口の説明にメモを取るので精いっぱい。最後に「質問はある?」と聞かれた時には、もう訳がわからなくなっていた。

そして混乱した園子を残したまま、彼女は「打ち合わせだから」と言い放ち、席を立って行ってしまう。

自分ひとりの力で書類を片付けようとするが、案の定、すぐに手が止まってしまった。

清華に質問を試みる園子だが…

「あの、清華さん。これって…」

30分後、打ち合わせから戻ってきた清華に質問をしようとすると、彼女は園子の手から書類をスッと取り返した。

「じゃ、いいわ。わからないのなら、やっておくわ」

「いや。教えて下されば、私が…」

「だって、1回説明したもの。同じこと2回も言わないわ。やっておくから大丈夫よ」

― やりにくいーっ!

清華の応対にもどかしさを感じながらも、あまりしつこく聞くのは迷惑だと思えて、園子は何も言えなかった。

― でも、清華さんも清華さんだけれど、私も私ね。

見た目のせい、見た目のせい…と、ひどい扱いを受けるたびそう思ってきたけれど、そもそも自分には見た目じゃなくて能力が備わっていないのだ。

園子は、恥じ入るような気持ちになるのだった。



「園子に彼女を紹介したいから、3人でランチしよう」

やっとの思いで迎えた週末。幼なじみの晋に誘われて新宿のイタリアンへ行くと、彼とその恋人はすでに席に並んで座っていた。

「はじめまして」

園子が歩み寄った途端、晋の彼女は立ちあがって挨拶する。

アイドルのような見た目を持つ彼女の、外側にカールされた毛先がふわりと揺れた。写真で見せてもらったままの姿に、園子は思わず見とれてしまう。

彼女は笑顔を崩さぬまま、園子の頭からつま先まで値踏みするような目でサッと見て…かすかに安心した表情を浮かべた。


園子は思った。

― いま、彼女が心の中で言ったことがわかる!

“…なーんだ。美人じゃなくてよかった”だろう。

そんなことを考えていたら、彼女を見てにっこりと微笑む晋が目に入る。その溶けそうな笑顔は、とても幸せそうに見えた。

園子は居ても立ってもいられなくなって、彼の肩をバシバシ叩きながら席につく。

「ちょっとー!お似合いじゃん!」

― 晋ちゃんに長いこと片想いしてるけど、こんな表情は初めて見た。

ひそかに落ち込む園子の気持ちに、晋はこれっぽっちも気づいてないようだ。そのことは園子を寂しくさせたが、同時にほっとした気持ちにさせるのだった。

「園子。そういえば、仕事どう?大丈夫?」

「え?」

「この前、かなり落ち込んでただろ。心配してたんだよ」

彼女の前でも変わらない“親友”としてのいつも通りの優しさが、皮肉に思えた。

園子の心は、毎日雨模様なのに…。梅雨空のようにくすぶってばかりの日々に突然晴れ間が差したのは、一週間後のことだった。

休日に突然、清華から電話が。驚きの内容とは?

1週間後。

「もしもし。山科さん?」

休日に突然、清華から電話がかかってきた。珍しいと思いつつ「はい」と答えると、彼女はいつもより控えめな口調でこう言ったのだ。

「あのね、あなたにすべて引き継ぎすることになったわ」

急な話に園子はポカンとしてしまう。だが、そんなことなどお構いなしに清華は話を続ける。

「私、産休に入ります」

「…産休!?」

清華の思いがけない報告に、園子はたじろいでしまった。

まったく気づいていなかったが清華は妊娠していたのだ。仕事以外のことでほぼ会話をしていなかったから、結婚していたことさえ知らなかった。

聞けば、診断がおりて早めに産休に入ることになったのだという。

「だから、明日から2週間で引き継ぎさせて欲しいんです。思ったより早く休むことになっちゃって。ごめんなさいね」

清華の声はこれまで聞いたことのない柔らかな口調だった。


それからの2週間は、多忙の日々だった。

清華から初めてきっちり仕事を教わる。彼女の仕事がとても丁寧であることは、その教え方からよくわかった。

「本当にごめんね。大変だと思うけど…」

弱々しい声を出す彼女を見つめながら、園子はこれまでの日々を思い出す。

清華にはいつも真顔であしらわれてきた。ガサツで面倒見が悪く、辛辣なことばかり言うのに、得意先の前だけは愛嬌たっぷりの女に豹変する。綺麗な顔なのに、中身は全然違う。

悪態のひとつでもつこうと思ったけど、視界に入るのは彼女のお腹だ。言われてみれば、少し膨らんでいるのがわかる。

それを見たら、嫌だったことは全部どうでもいいと思えてきた。

「元気に産まれるように祈っていますね」

園子の言葉に清華は、今まで見せたことのない無邪気な笑顔で頷いた。



清華の産休が始まり、園子はひとりで業務を回すことになった。

― 不安だけど、ようやく自分らしく頑張れるわ。よーし!

…とはいえ、いくら意気込んでもいきなり簡単に仕事を回すことはできない。熱心に取り組んだ最初の小さなコンペは、あっけなく競合他社に取られてしまった。

それでも全力でハツラツと仕事する園子を見て、いつの間にか余計なことを言う人はいなくなっていた。しかし、まれに陰口特有のひそひそ声がこれみよがしに聞こえてくることがある。

「あの子、競合に仕事とられたって」

「…まあそうだよねえ。清華さんの穴は、あの子には埋められないでしょ」

だが、もう何を言われても大丈夫。園子は、ひとりで戦える強さがあるのだ。

― だって私、これからだもの!

意気込む園子だが、翌週に得意先のロビーでとんでもないことをしてしまうのだった…。


▶前回:「この見た目で損してるの」悲しみの26歳OLが母親から言われた驚きの忠告

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得意先でしでかかした、園子のとんでもない失態とは…。

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