土地規制法から考える日本の「仮想敵国」とは?/自衛隊の“敵” 第1回 小笠原理恵

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―[自衛隊の“敵”]―

◆自衛隊は何と戦うのか?

 自衛隊の“敵”と聞いて、皆さんはどんな“敵”を思い浮かべますか?

 日本の排他的経済水域に幾度となくミサイルを撃ち込んできた北朝鮮、尖閣諸島や南シナ海を我が物顔でのさばり続ける中国、日本漁船を無慈悲に拿捕するロシアなど、日本の領空、領海に勢力を拡大しようと虎視眈々と目論む国はいくつもあります。ですが、これらの国々が「自衛隊の“敵”」と言えるのでしょうか?

 日本は「仮想敵国」を設定していないことになっているので、これらを“敵”とストレートに言い切ることはできません。自衛隊でも長らく「対象国」というよくわからない呼び名を使っていますから。

 自衛隊の設立目的は自衛隊法3条の1項に規定されています。それによると、自衛隊は「我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たる」組織であるとのことです。

◆自衛隊を縛りつける鎖とは?

「国の安全を保つために日本国を防衛する」

 これが主たる任務です。憲法9条から根を張った自衛隊の行動を封じ込める制度や法律は何重にも自衛隊を縛り付けます。本物の“敵”と戦う前から、自衛隊は手足を縛られ拘束されているようなものです。

 さらに、9条の規定から自衛隊は「軍ではない」と定義されてきました。戦後、自衛隊は国を守る最重要任務を抱えながら、他の行政組織と同じ基準を強いられてきました。軍事組織には秘密保持が重要ですが、自衛隊は透明性を求められ、活動記録である「日報」の開示や武器弾薬の備蓄や輸送日程までを調査されても、市民の知る権利には逆らえない歪な力関係に苦しめられてきました。

 尖閣諸島で頻繁に領海侵犯を繰り返す中国は、日本の4倍以上の軍事費を注ぎ込むなど武力拡大にかけるコストには糸目をつけません。対する自衛隊は予算も微増にとどまり、修繕費や燃料、弾薬や消耗品費用にも困窮しています。

 これじゃ戦えません。

 本物の“敵”と戦う前に立ちふさがる「自衛隊の“敵”」を検証し、縛りつける鎖から自由になってほしい。自衛隊が十分に力を発揮できるようにしたいと願っています。さまざまな“敵”のアレやコレを徹底的に穿り返して、この連載で追求したいと思います。

◆「国境の島」・対馬は昔から要衝だった

 さて、「自衛隊の“敵”」の最初のテーマは、国境の島「対馬」です。対馬は海路で福岡まで147km、韓国の釜山まで49.5km。空気が澄んだ晴天の日には朝鮮半島を肉眼で見ることができます。

 歴史を振り返れば、蒙古軍の来襲「元寇」も始まりは対馬でした。日露戦争末期にバルチック艦隊を殲滅したのもこの対馬沖です。中国の海警法改正で尖閣諸島に注目が集まっていますが、対馬は何度も外敵を食い止めてきた最前線の島でした。

 メディアの対馬への関心は薄らいでいるようですが、対馬には韓国資本による土地売買問題が横たわっています。コロナ禍で韓国人観光客の足はピタリと止まったことも対馬の話題が減った理由でしょう。

 そんななか、今年の3月19日、防衛省統合幕僚監部が中国海軍の最新鋭ミサイル駆逐艦ら3隻が対馬海峡を通過して日本海に出たと発表がありました。対馬に対する中国の動きは無視することはできません。

 対馬は日露戦争前から東京要塞の次に整備され、大小さまざまな砲台跡が残っています。対馬北方に残る豊砲台は当時の日本で最大級の40cmカノン砲が設置され、戦前の日本は日本海側の最重要軍事拠点として対馬海峡で敵艦隊を迎え撃つつもりでした。対馬要塞は一度も攻撃されることなく終戦を迎えました。その強固な砲台跡を見れば、戦前の日本人が対馬を本気で防衛していたことがわかります。

◆長らく問題視されたきた自衛隊周辺の土地買収問題

 陸海空と3つ全自衛隊が対馬には揃っています。航空自衛隊はレーダーサイト、海上自衛隊も対馬海峡を通る艦船等の情報収集のための基地です。平時には海上保安庁と警察が治安維持を行いますが、陸上自衛隊対馬警備隊は小規模ながら狙撃班やゲリラ戦対応ができる精鋭が集まり、有事やテロ発生時には対馬防衛の中核となります。

 2007年、海上自衛隊対馬防備隊本部の隣接地にあるリゾートホテルが韓国資本に買収されました。現地を見てきましたが、海上自衛隊対馬防衛隊本部の側面を通る道の奥にそのリゾートホテルがありました。自民党の「安全保障と土地法制に関する特命委員会」で産経新聞社編集委員・宮本雅史氏は同隊の隣接地約3000坪が島民名義で韓国資本に買収されていると報告しています。

 この売買を規制する法律はなく、取引は合法です。防衛拠点周辺の土地売買を知りながら、国が先に買い取らなかったことも悔やまれます。

◆空き家が目立つ陸上自衛隊対馬警備隊の隣接地

 対馬は高齢化が進み、空き家や利用されない土地も多くあります。対馬は観光と漁業以外には目立った産業がなく土地を買ってくれる人がいれば売りたいと考えるのも当然のことです。防衛拠点の重要性を国が認識していなければさらに土地売買は進みます。

 陸上自衛隊対馬警備隊は住宅の近接する場所にあります。基地周辺と住宅の間には細い道路があるだけです。この陸上自衛隊対馬警備隊の隣接地にも空き家が目立ちます。海上自衛隊対馬防衛隊本部の近接地が韓国資本に買収された件を鑑み、早急に土地の買い取り等の対策を打つ必要があるのではないでしょうか?

 自衛隊の駐屯地や基地の多くは一般道からフェンス越しに中が見通せます。市街地の中に防衛拠点が混在することも見慣れた風景です。これではテロや軍事攻撃にさらされればひとたまりもありません。防衛拠点周辺の土地売買を監視し、規制する法律は存在しませんでした。自衛隊では如何ともしがたい“敵”でした。

◆ようやく成立した土地規正法

 2021年6月、通常国会閉会前、ギリギリ滑り込みで「自衛隊基地や原子力発電所の周辺、国境離島などの土地の利用を規制する法(土地規制法)」が参議院で可決し成立しました。

 重要施設の周辺1kmと国境の離島等を注視地域として、土地や建物の所有者の氏名・住所、利用実態などを政府が調べることができるようになります。注視地域の土地売買に事前に届け出も義務付けられました。国境離島484か所、防衛関係施設500か所以上が規制対象区域と設定されました。やっと一部の土地取引のチェックが可能となりました。この法律は生ぬるいという声もありますが、ないよりはマシです。

 “敵”に対しての戦う武器が一つ、自衛隊にもたらされたことに感謝します。

<文/国防ジャーナリスト・小笠原理恵>

―[自衛隊の“敵”]―

【小笠原理恵】
おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot

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  • 7/8 8:52
  • 日刊SPA!

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この記事のみんなのコメント

2
  • トリトン

    7/8 23:58

    北海道と沖縄の一部の人がチャイナや韓国人に土地を売ってるからね。あと自衛隊夜に極秘に韓国やチャイナの船を全て海に沈めてやれば良い、後は知らないで押し通す証拠を見せろと開き直るこれてよし、

  • 日本もかつてはハイエナの如く。そのハイエナも絶え次のハイエナの餌食に😱人口があろうと無かろうと継ぐ事も無く誰も管理される事無く放棄される土地。うちの山もムリ😱誰かいるか?😶どこもかしこもこんなで弱体化した今の日本からは隣国が敵に見えるのもムリはない🤔

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