男性ホルモンの正体とは。うつや不安感を訴える人は数値が激減

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◆男性ホルモンの正体とは?

 ここ数年で、女性だけではなく男性にもあると知られるようになった「更年期障害」。一般的に男性更年期障害になるきっかけは、男性ホルモン値の低下が原因といわれている。

 だが男性更年期障害治療の草分け的存在である石蔵文信医師は、「男性更年期障害の原因は男性ホルモンの分泌量低下が直接的な原因ではなく、単なる一症状。主因は精神的なストレスです」と断言する。その理由とは(以下、「」内のコメントはすべて石蔵医師)。

 男性更年期障害の主因が精神的ストレスという現実を知る前に、男性ホルモンについて改めて学び直しておこう。

「男性ホルモンは『アンドロゲン』とも呼ばれていて、いくつか種類がありますが、約95%を占める代表的なものが『テストステロン』です。大胆でリスクを怖れない挑戦心や冒険心、バイタリティーにも関与が深いといわれています。また、テストステロンを含む男性ホルモンは性欲と生殖能力を高める、骨を太くして筋肉を増強する、体毛を増やす、頭髪を薄くするといった働きが明確にわかっています。テストステロンは、スポーツ選手のドーピングに用いられる、筋肉増強剤としても知られています」

◆うつや不安感を訴える人はホルモンが低下

 その、テストステロンを含む男性ホルモン値の分泌量減少が原因ではなく、精神的ストレスが男性更年期障害の主因となる理由とは。

「これまでの臨床経験からすると、抗うつ剤などの薬物療法とカウンセリング、認知行動療法で対応すると、80~90%の患者さんは完治もしくは改善しているからです。また、患者さんの多くは、男性更年期障害の諸症状が改善するにつれて、血中のテストステロンの数値も上がっていきます。泌尿器科で一般的に行われている不足したテストステロンを注射で補う、『ホルモン補充療法』を行っていないにもかかわらず、です。

 当院では『ホルモン補充療法』は行いませんが、初診時に男性ホルモン値の検査は行います。男性更年期障害の多くは、うつや不安感を伴います。当院のデータでは、初診時に実に約70%もの人がうつや不安感を伴っています。また、『うつ病や不安障害(不安が過度に高まって生活に支障をきたす病気)などで以前に精神科で治療していた人』は、約50%にのぼります。

 ストレスからうつや不安感を訴えて来院する患者さんの大半は、治療前はテストステロンの数値がかなり低いレベルに落ち込んでいます。ところが、カウンセリングを含む治療が進んで回復するにつれて、テストステロンの数値も上がってきます」

◆不調の訴えから改善までの経過

 改善した例では、次のような経過をたどったと考えられるという。

・ストレスによって視床下部の機能が弱り、疲労感、頭痛、肩こり、腰痛、胃痛、便秘、めまい、イライラ、憂うつ感といった自律神経失調症や抑うつ状態になる

・精巣でのテストステロンの分泌量が低下

・カウンセリングや投薬などの治療によって視床下部の機能が回復し、自律神経のバランスが整い始める

・自律神経失調症や抑うつ状態から脱する

テストステロンの分泌量も回復する

「テストステロンの数値そのものは、EDやうつ病の指標との関係は認められませんが、治療に入る前に数値を測定しておき、治療後の数値と比較することが、患者さんの回復度合いを知るうえでの参考になるのです」

 患者さんの中には、30代でホルモンの数値が高くてもそれ以上のストレスがかかれば男性更年期障害になる人もいる。逆に、数値が低くてもストレス度合いが低ければ男性更年期障害にならない人もいると言われると、ホルモンの数値が指標であることに納得できる。

◆ホルモンを補充すれば済む話ではない

 ホルモンの数値を指標として捉えると同時に、「ホルモン補充療法」を行わない理由は、ほかにも大きくわけて2つあるという。

「最大の理由は、これまでの臨床経験から見ると、ホルモン補充療法の必要性を感じられないからです。報告書によって多少の差はありますが、男性ホルモン補充療法の有効率は、おおむね70%前後。十分評価に値する高い有効率ではありますが、当院の抗うつ剤などの薬物療法とカウンセリング、認知行動療法で対応すると、80~90%の患者さんが完治、もしくは改善しているからです。ですからわざわざ、体外からテストステロンを補充する必要はないのではないか、と考えています」

 第2の理由は、男性ホルモンの心身への副作用に対する懸念とのこと。体への副作用とは。

「体への副作用は、前立腺がんや前立腺肥大症、睡眠時無呼吸症候群、心不全、血液中の赤血球が増える多血症などのリスクを高めるため、これらの病気がある人は男性ホルモン補充療法を受けることができません。テストステロンには造血作用があるため、投与量が多いと血液の濃度が上がって多血症を引き起こし、脳梗塞などにつながる可能性もあります。そのため定期的に血液検査を行い、多血傾向にあるときは治療を中止することがあります。

 ドイツからは、テストステロン療法の開始から6ヶ月以内ではエコノミークラス症候群(静脈血栓塞栓症)のリスクが高まるとの報告も出ています。『ホルモンの司令塔』といわれている脳下垂体の機能が落ちて、みずから男性ホルモンを分泌しなくなる可能性がある点も、問題視しています」

◆補充療法の無視できない副作用

 石蔵医師がとくに気になるのは、精神面での副作用だという。

「テストステロンがスポーツ選手にとって禁止薬物になっている理由は、筋肉を増強するだけではなく、精神的にも悪影響を及ぼすからです。テストステロンを補充すると、攻撃性や闘争心を高めて怒りっぽくなるなど、興奮しやすくなる傾向があります。

 医師の間では、うつ病は治りかけがもっとも危険だと言われています。うつ病患者さんの自殺の多くは、症状のどん底を脱して体調が上向いてきた回復期に起きているからです。男性更年期障害の患者さんに抑うつ状態やうつ病の人が多いことを考えると、興奮しやすくなるときにテストステロンを投与することには抵抗を覚えます」

 石蔵医師によると、抑うつ状態やうつ病の人に抗うつ薬を処方することは、心療内科・精神科などの「診療ガイドライン」に沿った治療法とのこと。しかし、うつ病の人に男性ホルモンを投与することは、このガイドラインに記載はないという。テストステロン補充療法についてはまだ各種のデータがそろっていない段階で、その効用や副作用にかんして確定したことは述べられていない前提で、石蔵医師が言う。

「私の外来でテストステロン補充療法を希望される患者さんには、必ず尋ねることにしています。『オリンピックではドーピングで禁止されている薬で、精神面に悪影響が及ぶこともあります。どうしますか』と」

 副作用の情報を得ると、安易にはテストステロン補充療法を選択できない男性もいるのではないだろうか。カウンセリング等に重きを置く石蔵医師が運営する男性更年期外来の所在地は、大阪府。気軽に足を運べない地域に住んでいる人もいるはず。

 しかも、クリニックの初回カウンセリングは自由診療で5万円と高額。そこで筆者が、「石蔵先生と同じような診療をしている、保険診療のクリニックを探す方法は?」と問うと、「現状は難しい」との答えが。その背景にある医療従事者側が抱えている葛藤とは。石蔵医師が行う認知行動療法を自分でもできる方法を合わせて、次回、お伝えする。

石蔵文信氏
(いしくら・ふみのぶ)1955年京都府生まれ。医学博士。内科・循環器・性機能専門医。イシクラメディカル代表。2001年に全国でも先駆けとなる「男性更年期外来」を開設。現在は「眼科いしくらクリニック」内で診療を継続。日本自殺予防学会理事も務める。夫の言動がストレスとなり妻の心身に生じる不調を「夫源病」と命名し、話題を呼ぶ。定年後の男性のための料理教室や、社会活動の拠点となる「男のええ加減料理」や、子育て支援をしている祖父母世代がお互いに気楽に愚痴を言えるサイト「孫育のグチ帳~イクメンのグチもありよ~」も運営中。『夫源病』『定年不調』など著書多数。

―[男性更年期障害]―


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