中国出身の俳優・阿部力「いまだに自分のアイデンティティについて考える」

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 日中韓のスタッフ・キャストで製作され、海を超えて繋がる“思慕”を描く映画『湖底の空』が6月12日より、全国順次公開中です。ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2020では審査員の満場一致でグランプリに選出され、シネガーアワードと合わせてダブル受賞した注目作でもあります。

 その本作にドラマ『花より男子』の美作あきら役で注目を集め、その後は中国、台湾でも活躍している俳優の阿部力さんが出演しました。中国出身の阿部さんは、自分のアイデンティティを常に考え、迷いながら生きている望月というキャラクターに共感したと言います。希望と再生をテーマにした本作について、話を聞きました。

◆監督の“静かな熱い思い”を感じ取った

――人の関係や想いを壮大なスケールで掘り下げる作品だと思いましたが、最初に脚本を読んだときには何を感じましたか?

阿部力(以下、阿部):日本・韓国・中国にまたがる物語であり、自分が中国出身であることもあって、内容はもちろんですが、国と国との関係の描き方にも興味を引かれました。それこそ主人公である空(イ・テギュン)の心の内が細やかに掘り下げられいて、一人の女性の考え方や生きざま、葛藤が丁寧に描かれていて、そこも魅力的だなと思いました。

――出演は監督に直接オファーされたそうですね。

阿部:最初に監督とお会いした際に、10年以上かけてシナリオを練り続け、2018年の春にようやく撮影ができるようになったとうかがい、すごく熱意を感じました。台本もすごく好きな内容でしたし、「自分でよければやりたいです」と、参加に至りました。監督の熱意というか、静かな熱い想いが感じ取れる内容でした。

――確かに、静かな世界観ですが、熱いものを受け取りました。

阿部:そうなんですよね。静かなストーリーというか、淡々としたお話ではあるのですが、想いは深い。あくまでも自分のイメージの話なのですが、静かできれいなところを、ずっと深いところまで泳いだら、最後にすっと上がってくるようなイメージでした。そこに希望があるわけで、情熱的な物語でもあるわけですよね。

◆迷いながら生きる役柄を自分に重ねた

――望月というキャラクターは、どう理解して演じたのでしょうか?

阿部:望月は幼い頃の体験があり、彼なりに抱えている事情があります。そこを膨らませて、成長した望月も自分で抱えている問題を秘めたような人だと理解しました。その意識はしていました。

――監督はどうリクエストを?

阿部:撮り方が少し特殊というか、僕は初めてだったのですが、カット割りが少ないんです。カメラのポジションも変えていなくて、全体を撮っているけれども、後でアップでも使うみたいな。おかげでカメラを意識しないでお芝居ができて、不思議な感じでした。

――望月に重なる部分はありましたか?

阿部:僕自身も中国で生まれて日本に来て、いまだに自分のアイデンティティがどこにあるのかなと考えますし、友人に聞かれたこともありますが、これはもう、わからないものはわからないんですよね。劇中で望月が自分のことを「落武者」だと言うセリフがありますが、迷いながら生きている彼の感覚を自分の中から掘り返して、なるべく望月に近づけようとしながら人物像を作り上げていきました。

◆撮影では楽しい思い出も

――テーマはある種深いものがありますが、撮影中の楽しかった思い出はありますか?

阿部:いろいろあります。面白かったのは僕の最初のシーンは韓国だったのですが、スケジュールがバタバタのなか、みんなでサウナに行くことになったんです。暑くなって先に出てきたら、その後に監督もエネルギーゼロの状態で出てきて(笑)。それがすごく印象に残っています。

――海外ロケでは、そうやってチームの結束力も高まるものですよね。

阿部:そうですね。あとは安東(アンドン)という韓国の田舎のほうでロケができたこともいい経験でしたし、なによりイ・テギュンさんのお芝居ですよね。日本語と中国語を使い、すごく努力されている感じが現場でも伝わり、NGもまったくない。母国語ではないお芝居で、準備も大変だったと思いますが、すごく勉強になりました。

◆「文化の橋渡し」は一番の理想

――イ・テギュンさんさんは一人二役なのですが、何も知らなければふたりの俳優さんが出ているように思えるほどですよね。

阿部:そうなんですよ。どうキャラクターを作り上げ、会話をしていくのか、難しい作業だと思いました。映画を観ていてもまったく違和感がないので、本当にすごいですよね。

――こういう作品に出ることで、たとえば文化の橋渡し役を担いたいと思うこともありますか?

阿部:はい。そういうことができるのは一番の理想だと思います。映画に出演させて頂いたならば、自分ができる事をやらせて頂きたいと思っています。芝居だけでなく、たとえば完成した映画の宣伝などもそうですね。観てくださる方が増えて初めて、そういう段階やつながりも出てくると思うので、まずはやるべきことをやりたいです。

――最後になりますが、メッセージをお願いいたします!

阿部:イ・テギュンさんが空と海をひとりで演じ分けていて、彼女のお芝居、日本語も中国語も、ものすごく時間をかけて準備されているので、まずはそこに注目して観てほしいです。そして、監督のキャスティングがみなさんぴったりだなと思ったので、そこも観てほしいなと思います。

<取材・文/トキタタカシ>

【トキタタカシ】
映画とディズニーを主に追うライター。「映画生活(現ぴあ映画生活)」初代編集長を経てフリーに。故・水野晴郎氏の反戦娯楽作『シベリア超特急』シリーズに造詣が深い。主な出演作に『シベリア超特急5』(05)、『トランスフォーマー/リベンジ』(09)(特典映像「ベイさんとの1日」)などがある。現地取材の際、インスタグラムにて写真レポートを行うことも。

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