年商100億円の経営者が「世界イチおいしい」と喜ぶ、信じられない値段のランチメニュー

アッパー層が集結する街・東京。

その中でも特に裕福な、純金融資産“1億円”以上の富裕層はどのくらいの割合か、ご存知だろうか?

ある統計によると 「日本の全世帯のうち2.5%程度」というデータがあるらしい。

なかなか出会えない、2.5%の富裕層たち。

レアな生き物である彼ら"かねもち"たちの、ちょっと変わった生態を覗いてみよう。

▶前回:“ある失言”で、その場が静まり返り…。由緒正しき名家との婚約顔合わせで起きた事件

投資信託銀行勤務のフツーなサラリーマン・佐藤(27)


銀座支社のVIP応接室の絨毯は、革靴が沈み込みそうなほどに柔らかい。

週末に木更津アウトレットにて9,000円で購入したリーガルの革靴と、目の前で輝くジョンロブの革靴のツヤを時折見比べながら、僕は懸命に手元の資料をめくり続けた。

「それでは今後、笠原様のご資産はこの佐藤と共に大切にお預かりさせていただきます」

1時間程度の打ち合わせを終えると、隣に座っていた上司が立ち上がり、深々とお辞儀をしながら言う。

紹介を受けた僕も上司に負けず、前屈のごとく深いお辞儀をした。

「笠原様。どうぞよろしくお願いいたします。お孫さんへの教育資金贈与についても次回、わたくし佐藤から詳しい資料でしっかりとご説明させていただきます」

目の前に座る笠原様は、今年60歳になるようには見えない若々しい笑顔を浮かべる。

「頼りにしてるよ、佐藤くん」

その穏やかで優しい声に、僕はホッと胸を撫で下ろすと同時に小さな感動を覚えていた。

信託銀行でVIP待遇を受ける、優良顧客の正体

― やっぱり東京の富裕層は違うなあ。身なりも上品だし優しいし、いかにも人生に余裕があるって感じだ。

新卒で大手信託銀行に入社してから、5年。

新人研修を終えたあとはずっと北九州支社で働いていた僕だが、この春から銀座支社へと異動になり、徐々に東京の富裕層のお客様を担当するようになってきた。

何人ものお金持ちのお客様とお会いする機会があったけれど、今日ご挨拶させていただいた笠原様は、その中でも“格別”であるように思う。

笠原様は、年商100億を超える外食企業のオーナー。

年商100億、とだけ聞けば規模は中小企業レベルかもしれないが、老舗料亭を母体として展開する店舗はいずれも一流で、国内外の著名人に愛される揺るぎない名店ばかり。

さらに最近はシンガポールやハワイなどにも進出しており、企業経営の他にも金融資産を持つ資産家でもある。

僕のキャリアにとって、確実に重要人物になるであろうお客様。どうしても好印象を持っていただきたい僕は、今日の打ち合わせにご足労いただいたお礼として、準備しておいた手土産をお渡しする。

福岡の地酒「大吟醸 極醸」。ずしりと重たい瓶の包みを受け取ると、笠原様は朗らかに笑いながら言った。

「喜多屋の名酒だね。たしか、2013年に世界一の日本酒として認められたんじゃなかったかな」

「さすが、お詳しいですね」

「いや、どうも職業柄ね…。美味い酒をありがとう。よく冷やしていただくよ」

一瞬だけ、笠原様の目に寂しさが滲んだような気がしたけれど、満たされた毎日を送る富裕層がそんな目をするはずもない。

一流の食材を取り扱っている笠原様に喜んでいただけた僕は、またしてもホッと胸を撫で下ろす。

そして、ふと目に入った壁の時計を見て、ほんの雑談のつもりで質問をした。

「もうすっかりお昼時ですね。このあとはどこかランチへ行かれるのですか?」

時刻は11時50分。そしてここは、大人のグルメの街・銀座。笠原様ほどの食通な富裕層がどんなランチをされるのか、単純に興味があった。

「そうか、もうそんな時間か」

笠原様はしばらく考え込んだかと思うと、ふいに瞳を輝かせる。

「そうだなあ…。僕が、世界で一番うまいと思っているものを食べに行こうかな」


「世界で一番うまい、ですか?」

思わず、喉がゴクリとなる。

日頃から超一流の美味に接している笠原様が「世界一うまい」と言ってはばからないもの。一流の鮨だろうか?それとも天ぷらか、ステーキ?渋いところで蕎麦だったりするかもしれない。

打ち合わせが終わったら牛丼でもテイクアウトするつもりでいた僕は、よほど物欲しそうな顔をしていたのだろう。ハッと我に返ると、笠原様がこちらを見てニコニコと微笑んでいた。

そして思いついたように、僕に向かってこう言ったのだ。

「ちょっと提案なんだけれどもね。よかったら、佐藤くんも一緒にどうだい?1人のランチもなんだか侘しいし、若い人と一緒の方が気楽そうだ。ご馳走するよ」

「ええっ、そんな…」

恐れ多いお誘いに、反射的に腰が引けてしまう。しかし、そんなやりとりを隣で見ていた上司が、おもむろに僕の肩を叩いて言った。

「佐藤…」

顧客からの誘いを断る男に、上司が言った意味深な言葉

遠慮し続ける僕に、上司は意味深な目くばせをしながら、小さな声で囁く。

「俺も何度かご一緒している。せっかくお誘いいただいているのだし、今後笠原様とお付き合いをする上で必ず役に立つことになる。しっかり勉強してこい」

― なるほど、これも富裕層を知るための勉強の一環ということか。確かに笠原様の好みや、富裕層のマナーに触れるいい機会だ。

上司のアドバイスに納得した僕は、意を決して笠原様の方に向き直り、恭しくお辞儀をしながら言った。

「私でよろしければ、ぜひお供させてください」



銀座の一等地に位置する支社を出ると、それだけでも目移りしてしまいそうなほど多くの店が視界に入る。それを見た僕は、現金にも内心すっかりウキウキしてしまっていた。

― どんなすごいお店に連れて行ってもらえるんだろう。アウトレットの靴と吊るしのスーツで大丈夫かな?

ソワソワとした足取りの僕とは対照的に、笠原様はいかにも威厳のあるゆったりとした足取りで銀座の街を先導する。

しかし「きっと路地裏の通好みな店に向かうのだろう」という予想に反して、どんどん賑やかな大通りへと向かっていく。

そして当たり障りのない会話を続けながら、歩き続けること5分。有楽町の駅前で、パタリと笠原様の足が止まった。

「佐藤くん、ついたよ。ここが僕が世界で一番うまいと思っているレストランだ」

そういって笠原様が目を輝かせる店。その看板を見た僕は、あまりの衝撃に言葉を失ってしまった。

「こ、ここは…」

辿り着いたのは、そう。

世界で1、2位の知名度を争う、超大手ハンバーガーチェーン店だったのだ。


笠原様は先ほどまでの威厳もどこへやら、まるで子どものように店内に駆け込むと、興奮した様子で180円のチーズバーガーのセットと山盛りのポテト、巨大なミルクシェイクを注文する。

「さぁ、佐藤くん!ナゲットはふたりでわけようじゃないか!」

そういって笠原様は、まるでずっと「待て」をさせられていた犬のように、ものすごい勢いでハンバーガーにかぶりつく。

「うまい、うまい…」

そう繰り返しながら無心でジャンクフードを頬張る笠原様の目には、うっすらと涙が滲んでいたのだった。

ナゲットとてりやきバーガーのセットを前にして呆然とする僕に、ぺろりとハンバーガーを食べ終えた笠原様が、照れくさそうな様子で話し始める。

「いや、お恥ずかしいところを見せてしまったね。しかしね、うちは一流の食材ばかりを扱う家業だろ。こういった食事は幼い頃から厳しく禁止されていて、築地に鮮魚の目利きをしに行くばかり。

大人になった今は、家内が健康管理と世間体ばかりを気にしてね。天然のナントカやら、オーガニックのナントカやら、そんなものばっかり出してくる…」

寂しそうに縮こまった笠原様は、思いの丈を打ち明けると、またもやほとんど半泣きの表情でナゲットにかじりつく。

そんな様子を見ていたら、まさかのファストフード店に連れてこられて失望と困惑の最中にいた僕の胸に、なんとも言えない感情が湧いてくるのだった。

― 厳しい環境の中で、思い通りにならない生活を送られている富裕層の方もいらっしゃるんだ。富裕層の世界って、そう単純でもないんだなあ。

僕にとっては単なる日常のハンバーガーが、富裕層にとってはとんでもないご馳走になるケースがあるなんて、思いもよらなかった。

僕はいつもよりちょっと旨みが深い気がするテリヤキバーガーを頬張りながら、次回の手土産には高級な日本酒ではなく、人気のポテチとカップラーメンをお渡しすることを考え始めていた…。


■かねもちのへんな生態:その4■

厳しい制約の中にいるため、ジャンクフードが世界一おいしく感じるかねもちがいる


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華やかな著名人を親に持つ“ボンボン”たちの、異常な習性

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