ARMYに沼落ちさせられた──信近エリが語る「BTSにどハマリした理由」と“UGC戦略”のすごさ

 言うまでもなく、BTSの勢いはとどまるところを知らない。5月21日に発表された最新曲「Butter」は全米総合ソングチャートである「Billboard Hot 100」で初登場1位となっただけでなく、Spotifyでのグローバル再生回数がリリース初日の1日だけで1100万回以上を叩き出し、世界新記録となった。

 彼らの業績を挙げているとキリがないが、ここ日本でいえば、日本独自ベスト盤『BTS, THE BEST』は発売1週目でおよそ78.2万枚を売り上げた。出荷ベースでは発売日に110万枚を超えている。日本では、前作『MAP OF THE SOUL:7~THE JOURNEY~』(2020年)の初週セールスはおよそ56.4万枚だったことを考えると、この1年で急速にファンを拡大させたといえるだろう。

 実際、小泉今日子が今年5月に「生まれて初めて誰かのファンになったかも」とBTS愛を告白したのをはじめ、「実はファンでした」と明かす有名無名の人たちが続々と現れている。信近エリもそのひとりだ。2004年に大沢伸一のプロデュースでデビューした歌手であり、最近は社長業に奮闘している彼女が、BTSの魅力について、ファン目線とビジネス目線の両方で語る。

ARMYが生み出す膨大な量のUGCで“沼落ち”

──いつ頃からBTSのファンになったのでしょうか?

信近エリ(以下、信近) こんなに大好きになったのはけっこう最近で、「Dynamite」ぐらいからなんです。なので全然、新規です(笑)。

存在だけだったらもっと前には認知してて。テレビの深夜の音楽番組か何かで観て、日本進出したぐらいだと思うんですけど、当時はBTSではなく防弾少年団という名前が前面に出てたので、すごい名前の人たちがいるなって。BTSの曲だってちゃんとわかるようになったのは「DNA」あたりから。それで「Dynamite」ぐらいで急にすごい好きになっちゃって。そこからどハマリ。そういう人多いと思うんですよね。

──やはり「Dynamite」の破壊力はすごかったと。

信近 それまでもニュースになったりしてたじゃないですか、「アジア人がビルボードにチャートイン」とか。だから、すごいなとは思ってたんですけど、やっぱりそこからの「Dynamite」の破壊力は本当にすごかったですね。

もう全部が素晴らしかった。曲もだし、振り付けもだし、歌も。ミュージックビデオの世界観も韓国っぽくてかわいかったし。私はまずあの歌い出しにやられちゃって。グク(ジョングク)のリズム感の良さ! ボーカルライン4人いて、それぞれ声が個性的ですごい素敵なんですけど、グクだけちょっと欧米的な歌い方なんですよ。英語で生きる歌い方で。「Dynamite」の歌い出しのグクの歌唱力とリズム感の良さにもう、びっくりしちゃって。もちろん「うまいな」ぐらいは前から思ってたんですけど、「こんなにか!」って。それで気になり始めて、気づいたら寝ても覚めてもぐらいハマっちゃって。

──具体的にどういうふうにハマっていったんですか?

信近 TikTokです。ARMY(BTSの熱心なファンたちの総称)の人たちが作るコンテンツがすごいんです! 

BTSは昔から、バラエティっぽいものだったり、ドキュメンタリー的な裏側とかもちゃんと記録に残しているんですけど、その8年分のアーカイブをハイライトにしてARMYの人たちがまとめてくれてるんですよ。それも、おもしろく編集してくれてるんです。たとえばジミンちゃんが椅子から転げがちなんですけど、そこだけ集めてるやつとか(笑)。それに沼落ちさせられた感があって。TikTokのおすすめが、最初は20回に1回ぐらいBTSだったのが、10回に1回になり、5回に1回になり……気づいたらBTSしか出てこなくなっちゃって(笑)。

それから、やっぱり今までの裏側。彼らの成長も見れるし、苦悩とか、ライブ前にステージングのことで言い争いになっている映像とかも残ってて。そういうところを見ちゃうと、なんかもう他人事じゃなくなっちゃって(笑)。今までは「音楽かっこいいな」で終わってたのに、何か他人事とは思えないような感じがして。母みたいな気持ちになってハマっちゃった30代~40代の女性はすごく多いと思います。

──なるほど。感情移入しちゃうわけですね。

信近 そうそう。BTSのファンの人ってそれぞれ推しはいるんだけど、結局みんなハコ推しで。みんな大好きなんですよね。メンバーの仲の良さも素晴らしいし。仲良いグループってもちろん他にもいっぱいいると思うんですけど、それがちゃんと伝わる裏側がしっかり記録に残ってて、それを垣間見ることができるっていうのが、“身内感”を強めている気がします。

だから私は本当にARMYのおかげでハマったみたいなところがあるんです。8年分全部追おうと思ったら大変じゃないですか? でも、それぞれが好きなシーンとかをハイライトにしてまとめてくれてるから、8年分をワッ!てARMYたちのコンテンツで知っちゃって、何か勝手に身内のような気がしてきちゃったっていう。完全にARMYに沼落ちさせられたと思ってます。ARMYの人たちに感謝ですね。

──ARMYの力はすごいですよね。

信近 なんならもうスタッフだと思います(笑)。ビジネスだとUGC(User Generated Contents、一般ユーザーによって作られたコンテンツのこと)っていうんですけど、その量が尋常じゃないし、ARMYの人たちがそれぞれの解釈でまとめてる動画とか本当におもしろいんです。で、関連動画を見だすと止まらないんです(笑)。

そしてすごいのは、そういうUGCを規制してないんですよね。二次使用を禁止したりする手法もあるとは思うし、コンテンツを出し惜しみするやり方もある。日本はわりとそういうのが強いと思いますけど、BTSのやり方は今のマーケティングとして大成功じゃないかと思います。動画コンテンツがいろいろある中で、規制せずUGCで売っていくっていうのは、今の売り方ですよね。それにまんまと私はハマってます(笑)。

──SNS時代にフィットした売り方だと。

信近 あと公式のコンテンツの量も尋常じゃないんですよ。今回の「Butter」も1曲出したら、振り付け動画を出して、メインのMVとは映像が違うリミックス動画も出して、パフォーマンスビデオも出して。それに毎回どんな媒体に出ても、たとえば日本の音楽番組に出ても、ちゃんとオフィシャルでその映像がすぐ上がるじゃないですか。


日本テレビ系『MUSIC BLOOD』出演時(6月18日放送)のパフォーマンス映像

──いわゆる“供給”がすごいわけですね。

信近 そうなんです。それにどれだけ売れようが、めちゃくちゃ忙しいだろうに、ちゃんとV LIVE(韓国のライブ配信サービス)でも発信して、オンオフを両方見せてくれるんですよ。この規模になっても発売日には生配信して、デビュー日を毎年祝ってて。なかなかないじゃないですか。駆け出しの人ならわかるんですけど。

そういう“アジア人の真面目さ”が今の世界的なブームにつながってる気もしてるんです。このレベルで人気だったら、たとえばもうちょっとコンテンツが減ったりすると思うんですよ。でも、しっかり作り続けてる。そこに、アジア人っぽさが出てるって思うんですよね。ジャスティン・ビーバーとかだとあり得ないじゃないですか?(笑)

──確かにBTSはアワード系の出演も続きましたが、毎回ステージングとかも変えてて。新しく見せるよう工夫してるなと感心しました。

信近 「飽きさせないように」ってことを本当にとことん考えてるんだろうなと思います。ドキュメンタリーか何かで、ツアーの途中で髪の毛の色を変えたりとか、みんなに楽しんでもらえるようなことを常に考えてるって言ってたんですけど、本当にそれを体現してる気がしますね。

その上でコンテンツの充実をちゃんと妥協せず続けているのはすごいですよね。売り出し中のアイドルぐらいのことをいまだにやってるんですよ。それが素晴らしいし、アジア人の勤勉さかなあと思います。

──ちなみにこれまでアイドルにハマったりとかの経験は?

信近 それがないんです。人生で初めてファンクラブに入りました(笑)。なんか申し訳ない気持ちになってきちゃうぐらい、BTSから元気をもらってて。だから、課金させていただきたいと思って入りました。こんなファン的なのって生まれて初めてかもしれないです。

──信近さんは「Dynamite」をきっかけに沼落ちしたわけですが、周りのBTSファン友達とかはどういう感じなのでしょう?

信近 同世代の人たちはけっこう同じようなタイミングかも。「Dynamite」でちゃんと存在を知ったみたいな人たちがどハマりしてる感じもあるんでしょうね。

──日本のベストアルバムが大ヒットしているのも、「Dynamite」あたりから新規ファンがすごく増えてきたってことなのかもしれませんね。

信近 私みたいな、生まれて初めてこんなに誰かを応援してるみたいな人まで巻き込んでますからね。だからこそ世界でも一大ムーブメントになってるんだと思います。

──「Dynamite」に続いて「Butter」もすごいことになってますが、SNSでミュージックビデオについて書かれてましたね。

信近 “海外の人が思うK-POPアイドル感”を本人たちがコスってる感じがすごいおもしろいなと思って。売れてくると、『アイドルじゃないんだ』って言いたくなるタイミングがあったりするじゃないですか。あれだけのクオリティのことをやってるし。だけど自分たちで、“みんなきっとK-POPアイドルってこんなイメージだろうな”みたいなことをやってるのが、おもしろくて。あと、本人たちが続けてきたV LIVEっていうコンテンツに近い、たとえば体育館に撮影機材みたいな感じだったりとか、本人たちがいつもやってるような世界観を世界規模で発信してるのがおもしろかったんですよ。

いくらでもクールにやろうと思えばできるわけじゃないですか。でも、自分たちがなぜこんなに愛されてるかをわかってるっていうか。ARMYの人文字(*)もそう。クールにしたほうがよかったって思う人もいるかもしれないけど、“もう一枚上手なBTS”みたいな感じがおもしろかったですね。


*2:08~2:11ではメンバーで「ARMY」の人文字を作るシーンがある

──BTSの最大の魅力はそういう部分にあるのかもしれないですね。

信近 やっぱり、歌ってるところも大好きだけど、踊ってるところも大好きだけど、人となりが大好きみたいな人もいっぱいいると思うんですよ。メンバー同士でふざけてるとことかを見て癒されてる人、めちゃくちゃいっぱいいると思います。もちろん裏側までコンテンツがあるからって彼らを全部知ってるわけじゃないけど、でも人となりはある程度、その裏側の映像見てると伝わってくるじゃないですか。本当にみんな性格が素晴らしいんですよ。なかなかこんな、7人いて7人が人格者ってのは……すごいですよね。

BTSには楽しませてもらってるから、本当にありがたい。”ファンクラブに入らせていただいた”って表現しちゃうほど、ありがたいと思ってます。こんな有名な人たちがこんなに身を粉にして働いてるんだから、私も働かなきゃ!って毎日そう元気づけてもらってます。


信近エリ
株式会社Neith(ネイト)代表取締役CEO。
2004年よりシンガーソングライターとして活動し、Sony Music, avex等から自身の作品をリリース。2017年からは飲食店のブランドディレクターを務め、SNSの仕掛けのみで”3時間待ちの行列ができる店舗”へ成長させ、国内外にFC展開を果たす。女性が女性特有の悩みによってパフォーマンスを左右されることなく、心身ともに健やかに過ごすサポートをしたいという想いから2020年12月に株式会社Neithを創業。フェムテックブランド「Rinē(リネ)」を展開中。

  • 7/5 12:00
  • サイゾー

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