シェア急落で苦境のニコンをレトロカメラが救えるか

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 何週か回って、結局もとに戻るという現象が起きることがある。デジカメのデザインがそうだ。黎明期から拡大期にかけて、メーカー各社はフィルムカメラにはない、デジカメならではの何かを求めて挑戦的なデザインを試し続けた。しかし、スマートフォンがカメラの主役を奪うようになってから、フィルムカメラのデザインに先祖返りする現象が目立ち始めた。気が付けば、フィルムカメラ時代のデザインに再び近づいているようにも見える。

 ニコンが6月29日に発表したミラーレス一眼「Z fc」もその一つ。フィルム時代のフルマニュアル一眼レフ「FM2」を彷彿とさせるデザインが特徴だ。同社の似たようなカメラでは、2013年に発売した「Df」が有名だ。フィルムカメラの特徴を随所に取り入れつつ、当時のフラグシップ「D4」と同等の撮像素子を備え、7年にもわたって販売され続けたロングセラーモデルだ。しかしこのDf、大きく分厚く不格好で、デザイン面では決してスマートとはいえないカメラだった。
 Z fcは、レンズマウントこそミラーレス用の大口径・Zマウントを採用しているものの、Dfよりも薄くコンパクトなボディーを実現。デザインのイメージはFM2にかなり近づき、フィルムカメラっぽい雰囲気が高まった。ニコンのカメラとしては珍しくバリアングルモニターを採用。背面液晶が邪魔に感じるときは、液晶を裏返しにしておくこともでき、フィルムカメラ的な撮影も可能だ。
 特徴からして、Z fcは、ニコンのオールドファンをメインターゲットにしたカメラに見える。しかし、どうやらそうでもなさそうだ。
 「わたしの世界を変えたモノ」と題するZ fcのスペシャルサイトを見ると、年かさの男性を中心とするニコンのオールドファンに向けたものではないことは明らか。それよりずっと若い、女性も含めた20代~30代を狙っているようだ。女優、モデル、イラストレーターの田中シェン氏が登場、自らの価値観とカメラについて語っている。今後も若いクリエーターを登場させ、新しい表現ツールとしてのカメラを訴求していく計画だ。
 ニコンでは、Z fcは、Dfの後継モデルではないとしている。新たなニコンユーザーを獲得するためのカメラであり、若い世代にとって新しいカメラを目指した結果として、レトロデザインのカメラに行き着いた、ということだろう。
 レンズ交換型デジカメ市場で、かつてはキヤノンと並び2強の一角を占めていたニコン。ところが、ここ数年は苦戦が続いている。ミラーレス一眼に乗り遅れたためだ。この6月、レンズ交換型カメラの販売台数シェアは10.3%と1桁目前、キヤノン、ソニー、OMデジタルソリューションズの続く3位に甘んじている。価格が手頃な一眼レフ「D5600」「D3500」の2モデルでシェアを維持してきたが、いずれもこの春に終売。シェアが急落している。
 一眼レフでシェア奪還を狙う戦略もあるが、今や主流はミラーレス一眼。ニコンにとっての急務は、出遅れているミラーレス一眼のテコ入れだ。
 Z fcに類似したレトロデザインのカメラで、ある程度成果を上げているのが富士フイルム。中でもフィルム一眼レフ的なデザインのX-Tシリーズが思い浮かぶ。2019年1月から21年6月までの間、同シリーズの中で最も売れたのが19年3月発売のX-T30。同社のミラーレスカメラの中で14.8%の構成比を占めた。18年6月発売のX-T100も11.0%と売れている。どうやらニコンは、このあたりのカメラを求める層をZ fcで狙っているようだ。
 6月時点のミラーレス一眼に限ったシェアは、トップがソニーの33.3%、2位がキヤノンで27.7%、OMデジタルソリューションズが14.6%で3位、富士フイルムが10.3%で4位。ニコンは5位でわずか7.0%のシェアしかない。
 フィルムカメラを知らない若い世代にとって、レトロなデザインのカメラは新鮮に見える。写真を撮る機械として、スマートフォンではない選択肢になる可能性があるからだ。とはいえ、富士フイルムのX-T30もX-T100も、発売からかなり時間が経過したこともあり、現在の売れ行きはだいぶおとなしい。感覚的にも、レトロカメラのブームは数年前の時点ですでに終焉しているようにも思える。
 古くて新しいカメラで新たなユーザー獲得を狙うニコンだが、その目論見は果たして成功するのか。結果は、秋から年末にかけての販売合戦で明らかになるだろう。(BCN・道越一郎)

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  • 7/4 18:30
  • BCN+R

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