【イタリア映画祭蔵出しインタビュー】『女性の名前』マルコ・トゥッリオ・ジョルダーナ監督の現代性

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毎年イタリア国内の最新の映画作品を紹介する「イタリア映画祭」。今年はオンラインをオフラインを併用した開催方式となったが、イタリアの関係者への取材は敢行出来ないのが悔しいところだ。そこで筆者が2019年開催の同映画祭で行なった巨匠マルコ・トゥッリオ・ジョルダーナ監督へのインタビュー取材を特別に蔵出しする。

■『女性の名前』作品情報

【公開】
2019年(イタリア映画)

【原題】
Nome di donna

【監督】
マルコ・トゥッリオ・ジョルダーナ

【キャスト】
クリスティアーナ・カポトンディ、ヴァレリオ・ビナスコ、アドリアーナ・アスティ

【作品概要】
『ペッピーノの百歩』(2000)や『輝ける青春』(2003)の巨匠マルコ・トゥッリオ・ジョルダーナ監督の最新作。豪華な高齢者向け施設で起きる職員へのセクシュアル・ハラスメントの実態が女性視点で描かれていく。孤軍奮闘する主人公をクリスティアーナ・カポトンディが体当たりの演技で熱演し、さらにアドリアーナ・アスティなど、往年のイタリア女優の登場も大きな見どころ。

マルコ・トゥッリオ・ジョルダーナ監督プロフィール

1950年、ミラノ生まれ。処女作『Maledetti vi Amerò(呪われた者たちを愛す)』(1980)がロカルノ国際映画祭でグランプリを受賞。その後もイタリア現代史を題材に、人間の内面の感情を描き分け、躍動感のある映像表現を生み出し続けている。2000年の『ペッピーノの百歩』はベネチア国際映画祭はじめ多数の映画祭で絶賛され、日本でもイタリア映画祭で上映され人気を博す。一つの家族の姿を1966年から2003年にいたる37年間のイタリア現代史に重ねた6時間余の大河ドラマ『輝ける青春』(2003)は、カンヌ国際映画祭ある視点部門での最優秀賞受賞他、ナストロ・ダルジェント監督賞を受賞し、世界的な評価を不動のものに。近年も、イタリア最大の未解決事件「フォンターナ広場爆破事件」を扱った『フォンターナ広場 イタリアの陰謀』(2012)など、野心的な作品を発表し続けている。

■ヒロインを巡るテーマ性

本作で女性に対するセクシュアル・ハラスメントをテーマにするにあたって、何か実際の出来事などがあったのでしょうか?

マルコ・トゥッリオ・ジョルダーナ監督(以下、ジョルダーナ):20年前に実際に起きた出来事に着想を得ています。脚本家のクリスティーナ・メナルディが読ませてくれた脚本を気に入ったんです。女性が書いてるということで、自分がひとりで書くよりは勇気がある作品になっていると思います。

ヒロインだけでなく、ヒロインの周りで怖れを抱いている女性たちの姿まで描いています。その意味で、セクシュアル・ハラスメントを巡る暴力についての色々なニュアンスを描くことが出来たのではないかと思っています。

■フェミニズム運動の歴史

事件があった当時から、イタリアでは女性が抵抗していこうという意識があったのでしょうか?

ジョルダーナ:イタリアの男尊女卑や男性主義に対する反逆は、1970年代からありました。フェミニズムの大きなムーブメントがあって、それは大きな勝利を得たのです。例えば、中絶を可能にする法律であるとか、セクシュアル・ハラスメントをモラルに対する犯罪ではなく、個人に対する犯罪として認めさせることが出来ました。

歴史的な女性の勝利でしたが、それがこの20年の間で退行してしまっています。テレビでは女性の描き方が欲望の対象であるかのような描き方が多くなり、その影響が大きいです。ファッションでも同様なことが言えます。

それが、ごく最近になって、反抗の精神がまた少し戻ってきているような感じがしています。それも、70年代に戻るだけではなくて、さらに前へ大きく進めていけるものであることを私は望んでいます。というのも、人間のメンタリティーというのは10年、20年で変わるものではないですし、何世紀もかけて変わっていくものだと思うからです。

■戦士のような女性像

女性の抵抗運動というのは現代的なテーマですが、実際にバラッタの施設長に抗議の声をあげた主人公の逞しさからは、まるで戦士の奮闘を描いた歴史劇のような印象を受けました。

ジョルダーナ:そうですね、それは服装についても言えると思います。彼女は働く時はユニフォームを着ているわけですが、私服の時は少し山賊のような、マンガのヒロインのような服装をしています。彼女は同僚たちとも全く違いますし、セクシュアル・ハラスメントと戦っているだけではありません。

がむしゃらに周囲の悪意に対しても戦っていきますし、彼女のことを大事に思っている人の言うことも素直には聞かない。たった1人で、暴力やメンタリティ、みんながもっている怖れといった全てのものと戦っているわけです。その姿は、まさに戦士そのものです。

主人公ニーナを演じたクリスティアーナ・カポトンディの表情がとにかく素晴らしかったですが、監督はご自身の作品にどのような女優をキャスティングされますか。

ジョルダーナ:人物について勉強するために色々調べて、きちんと対応してくれる女優さんです。自分を捧げてくれるようなタイプで、完璧にプロと呼べるような女優なので、彼女との仕事はとても楽でした。

ただ、彼女はこの作品以前はコメディ作品への出演が多く、割と軽い役が多かったんです。だからこそ彼女を選んだわけです。観客の期待を裏切って、ちょっと騙すようなつもりで彼女を選びました。劇的な感じで、暗くて、問題を抱えているような女性が犠牲者になったとしたら、それは普通なわけですね。ところがそうではなくて、非常に明るくて、人生の喜びを感じさせるよう彼女が犠牲になることで、この映画の中では非常に機能したと思うんです。彼女である必要がありました。

■アドリアーナ・アスティの存在感

もうお一方、88歳になっても衰えない演技をみせたアドリアーナ・アスティをキャスティングした経緯も教えてください。

ジョルダーナ:アドリアーナ・アスティは大好きな女優です。『輝ける青春』にも出演しています。この老女優の役は、まさに彼女のことを意識して考えたんです。

彼女は高齢であるにも関わらず、多くの舞台に出演していて、撮影日数が数日しかとれませんでした。彼女のやりやすいように撮影を進めました。劇中でニーナに語っている湖に裸で浮かんでいたという撮影現場でのエピソードはほんとうに彼女自身の話ですし、部屋に置いてある写真もすべて彼女個人のものです。

彼女がもつ視点は、男たちを支えて守る立場です。ただ、事の真相を知っているという意味では、彼女はニーナに証言者を紹介することが出来るし、彼女を助けることも出来る人間なわけです。セクハラは、昔は賛辞だと言われていたという重要な発言もします。ニーナに対してセクハラがいかなるものであったかを正しいかたちで教えているわけです。

法廷の場面でも彼女に出演してほしかったのですが、残念ながら、イタリアのスポレートでの演劇フェスティバルがあって撮影に参加することが出来ませんでした。

部屋に置かれたルキーノ・ヴィスコンティの写真もアスティさんの私物ですか?サント・ルキーノと呼んで、聖人扱いしているのが面白かったのですが。

ジョルダーナ:そうです、あの写真も彼女の私物です。実はあれはサプライズで、助監督たちがセットに用意しておいて、アスティさんに演じてもらいました。彼女は『若者のすべて』に出演したりと、ヴィスコンティとはたくさん仕事をしています。

ヴィスコンティ、ストレーリ、ルカ・ロンコーニというのは、イタリアの三大舞台演出家であるわけですが、彼らを聖人だと言うことが出来る台詞を彼女も喜んでいました。最初は、サン・ルキーノ、サン・ジョルジョ、サン・ルーカの順でしたが、私はヴィスコンティのところを強調したいから、名前を呼ぶのを一番最後にしようと言ったんです(笑)。

■小津安二郎監督の映画

監督が強調したヴィスコンティの他に、影響を受けた監督はいらっしゃいますか?

ジョルダーナ:小津安二郎監督が好きです。彼の映画はほんとうに素晴らしい。私は小津という名前を呼ぶ時に、必ず立ち上がるようにしているんです。今も立ち上がりましょうか?(笑)

しかし、鎌倉にあるお墓には行きたくないんです。みんな生きているものとして考えていたいからです。誰かが死んだということも拒否したいので、お葬式にも行きません。その人の電話番号も消しません。それは、いつかまたかけ直すことが出来ると思うためなんです。

■イタリア映画として

ジョルダーナ監督は長年イタリア映画界を牽引されてきましたが、今回の撮影はいかがでしたか?

ジョルダーナ:6週間で撮影しました。複雑な物語にしては早かったと思います。気に入っているのは、北イタリアのロンバルディアを舞台にしたことです。ロンバルディアの自然をみせることが出来てとても嬉しいです。

イタリアというと、トスカーナやナポリ、シチリアなどの自然が映画の舞台になってきました。ロンバルディアというと、ミラノなど街ばかりになってしまいます。ところが、この映画ではミラノの周りの自然も映し出すことが出来ました。私はミラノ出身ですが、50年前からローマに住んでいます。それでもやはりミラノは自分の土地です。観客のみなさんには是非、イタリアが誇る自然の美しさも堪能してもらいたいです。

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