『シェフ 三ツ星フードトラックはじめました』に思うアメリカ映画の魅力

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「アイアンマン」シリーズのジョン・ファヴロー監督が主演を兼ねた『シェフ 三ツ星フードトラックはじめました』はほんとうに面白いアメリカ映画である。その面白さの秘密は、キャラクターの魅力からきている。ひとりのシェフがフードトラックの乗り込む本作の物語は、ひとえにキャラクターの決断に託されている。

■一流シェフの破天荒ぶり

(C)2014 SOUS CHEF,LLC. ALL RIGHTS RESERVED

ロサンゼルスの有名フランス料理店のシェフのカール・キャスパー(ジョン・ファヴロー)は、本場で修行を積み、腕前はピカイチで、料理界でも新進気鋭の存在として一目置かれていた。ある日、ディナーに著名な料理評論家がやって来ることになり、カールは新作メニューで腕を振るおうとする。しかしオーナーのリーバ(ダスティン・ホフマン)は、店の定番王道メニューで迎えることを指示する。ここ5年同じメニューを出し続けていることにカールは不満を抱いていたが、口論の末しぶしぶ了解する。これが仇となるとはこの時誰も予想はしなかった。

その夜、ディナーを終えた評論家のラムジー・ミッシェル(オリヴァー・プラット)が公開したレビュー記事は散々なものだった。ラムジーは、もともとカールに敬意を持っていたことを述べながらも、ディナーで出された料理についてはひとつひとつに酷評の嵐である。ラムジーが敬意を持っていたのは、あくまで新進気鋭のシェフとしてのカールにである。それが今や時の流れとともに斬新さは身を潜め、有名店の名前に胡座をかき、シェフ自身の身体は肥満しているとラムジーは指摘するのだ。これに激怒したカールは、息子に影響されSNSを始め、拡散された酷評記事を前に反撃に出る。Twitter上での激しい応酬の末、新作を試しに再来したラムジー相手に店内で暴れ回るカール。その様子を捉えた動画があれよあれよという間に拡散され、結局カールがこの戦いに破れるかたちで店を追いだされてしまうのだったが……。

■キャラクターの決断

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とまあ前半部のあらすじを追ってみただけでも、このカール・キャスパーというシェフがいかに破天荒な人物であるかがお分かりいただけるだろう。彼が時に激昂するタイプで、店をめちゃくちゃにしても、一流の腕前を持ったシェフであることは変わらない。この物語が面白いのは、カールが店をクビになった後の物語がとにかくどうなるのか、その先が知りたくなることだ。別に物語の筋が特に優れているわけでも、得意に映像センスが光るわけでもないのに、本作がすこぶる面白いのは、ただカール・キャスパーというキャラクターが一目見ただけで観る者の心を鷲掴みにしてしまう魅力を持った人物として描かれているからだ。全編で流れるキューバ音楽がまたキャラクターを際立たせるアクセントになっていて飽きる暇を与えない。

彼は店をクビになった後、兼ねてから妻に勧められていたフードトラックの営業を開始する。ただそれはカールにとっては屈辱で、一流シェフとしてのプライドが許すものではなかった。しかし彼は潔く決断した。映画のキャラクターは常に決断を迫られる。その決断によってドラマの方向性が決まるからだ。作劇上の都合として選ばれたキャラクターの決断は形式的になるが、キャラクターが生身の人間として自ら行動に移す場合は違う。そこには作劇上の都合をはるかに超えて、キャラクター中心主義的なアメリカ映画の魅力が浮上するからだ。そしてフードトラックの営業を始めたことによって、カールはこれまで見つめてこなかった人生について深く考えさせられ、自分がほんとうに楽しいと思う料理に向き合う姿勢に目覚めただけでなく、愛する息子との絆を強化することにもなったのだ。ひとりの一流シェフが人生の分岐点で大きな決断をして、たった一台のフードトラックに乗り込んだだけで、これだけの映画作品が出来てしまうなんて、全くだからアメリカ映画はいつみても面白いと思ってしまう。

■アメリカ映画の魅力

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それにしてもアメリカ映画を観てつくづく思うのは、主人公がいかに魅力的なキャラクターとして描かれているかで、どんなにハチャメチャでもキャラクター造形が面白いの一言に尽きる。 MCUの超人気作「アイアンマン」シリーズのジョン・ファヴロー監督が本作の主演を兼ねている点も素晴らしい。「アイアンマン」シリーズでは主人公のトニー・スタークの運転手役を演じたり、割と出たがりの監督であるなとは感じていたが、本作でのシェフ役はファヴロー以外には演じられないと思った。ファブロー自ら演じることでキャラクターに命を吹き込み、エネルギッシュなカール・キャスパーという人物が画面上で暴れ回り、自然と活気を与える。これは監督ではなく、俳優としてのション・ファブロー一世一代の白眉だと言えるだろう。

とはいえ、映像表現の観点からすると魅力的なキューバ音楽とともに映像がテンポよく流れ、特に拘りが感じられるわけでもなく、それは監督としての仕事よりも俳優としての表現に注力してしまった結果ではある。御年91歳のクリント・イーストウッドのようにはなかなかうまく監督と俳優を兼任することは容易ではないのだろう。それでも本作を観て筆者が感じた映画の息吹は本物である。やはりアメリカ映画はキャラクターの魅力が全てなのかもしれないと再確認したのだった。

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