“ピアノの伝道師”西村由紀江「人と人をつなげられる」 コロナ禍で向き合った基礎

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 “ピアノの伝道師”ことピアニストで作曲家の西村由紀江(54)が今年、デビュー35周年を迎え、春にニューアルバム「PIANO SWITCH 2」をリリースした。「聴く人も弾く人もピアノを楽しむスイッチを入れてもらえたら」と作られた本作や、35年におよぶ活動、地元・関西などへの思いを聞いた。

 西村はバブル経済が始まった1986年にデビューした。イケイケな時代風潮の中、それまでいなかったタイプのピアニストは「作っている音楽が伝わらない」というジレンマを長く抱えた。生来の口下手な上に、歌詞がないインストは説明しづらく、「一番つらかったのは『10曲全部同じに聴こえる』と言われた時に、説明する術を持っていなかったこと」と振り返る。

 頑張れた原動力は、西村の音楽を必要とするファンの声だった。バブル崩壊後は癒やしソングがブームとなり、「癒やしといえば西村由紀江」との認識も増えた。時代の波の中で「少しずつ自分らしく、楽しくなってきて今がある」という。

 新作はコロナ禍の中で制作。ステイホームで「基礎トレーニングを徹底的にやった。それまではコンサートが立て込んでいるので、コンサートで弾く曲を練習するのがメインになってしまった。基礎トレーニングがしっかりした中での曲作りができたのが、すごく大きい」と、ピアニストとしての足腰を鍛え直す時間が持てた。

 オンラインレッスンを初めて行い、「ピアノって人と人とをつなげられる素晴らしい楽器なんだって、アナログに感動できたのも大きかった」という。

 本作は2019年に発表した「PIANO SWITCH」の第2弾。「ピアノで弾いて楽しいってことに特化」したシリーズだ。

 「(前作の後で)『数十年ぶりにピアノのふたを開けて練習しました』、『グランドピアノを買いました』とか、皆さんにスイッチが入ったっていうのを聞いて、私にもまたスイッチが入って」

 指に障害を持つ人のために作曲した、両手の親指と人さし指だけで弾ける「鍵盤のカルテット」、ペダルが主役の「ペダルズ・ソング」など、ピアノ1台ながら表現は多彩。中でも「スマイルピアノ」は10年間取り組む、東日本大震災の被災地にピアノを届ける活動「Smile Piano 500」への思いを込めた。

 「何にもない、人の気配もないし、がれきが積み上げられているだけっていう状態から活動が始まって、次に来た時には草木が生えていて、家が少しずつ建って、人が戻ってきて町がだんだん活気づいていく様子を、同じメロディー(の繰り返し)だけどだんだん華やかというか、分厚くなっていく構成の曲にしました」

 ジャケット写真には故郷・豊中のペイントピアノを使った。世界的なブームのストリートピアノを「豊中でも展開したい」と進めたプロジェクトで、豊中の学校で使われなくなったピアノを再利用し、豊中の子供たちがペイントしたものだ。

 地元・関西への思いは「ただいま」にも表した。西村と関係が深い神戸のライブハウス「チキンジョージ」などがコロナ禍に苦しむ中、「気持ちの上で何かご一緒できることがあったらいいなと思って作った」、「大阪、神戸に対する愛を曲にしたもの」だという。

 現在は発売記念ツアー中。「生の響きを、こんな時だからこそこだわって大事に届けていきたい」と、今日もピアノに向かう。

 ◇西村由紀江(にしむら・ゆきえ)1967年5月8日生まれ、大阪府出身。作曲家、ピアニスト。3歳でピアノを始め、小学校時代にヤマハジュニアオリジナルコンサートに参加、世界各国で演奏。桐朋学園大入学と同時にデビュー。これまでに41枚のアルバムを発表し、「101回目のプロポーズ」、「親愛なる者へ」などのドラマや映画、CMの音楽を多く担当。2016年、アルバム「My Stories」が香港IFPI「Best Sales Awards」受賞。20年、故郷・豊中市のストリートピアノプロジェクト親善大使就任。

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  • 6/30 5:59
  • デイリースポーツ

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