“ある失言”で、その場が静まり返り…。由緒正しき名家との婚約顔合わせで起きた事件

アッパー層が集結する街・東京。

その中でも特に裕福な、純金融資産“1億円”以上の富裕層はどのくらいの割合か、ご存知だろうか?

ある統計によると 「日本の全世帯のうち2.5%程度」というデータがあるらしい。

なかなか出会えない、2.5%の富裕層たち。

レアな生き物である彼ら"かねもち"たちの、ちょっと変わった生態を覗いてみよう。

▶前回:30億稼ぐ投資家の自宅に誘われて行ったら…。ドアを開けた瞬間に見てしまった、まさかの光景

婚約を控えた損保OL・織絵(23)


青々と茂った芝生に並べられているのは、おしゃれなガーデンテーブルセット。

木漏れ日の中のラグジュアリーな空間は、この前の休日に彼と行った軽井沢のデザイナーズコテージみたいだ。

でもここは軽井沢じゃない。東京の閑静な住宅街・成城。

デザイナーズコテージの何倍も大きな一軒家のお庭で、私は去年から付き合っている恋人・樺之(かばゆき)さん…かばちゃんのご家族に、初めて紹介されていた。

「織絵さん、やっとお会いできて嬉しいわ。樺之は三人兄弟の真ん中だからか、マイペースで抜けたところがあって。まったく頼りないでしょう」

「いえ、そんな…。樺之さんには大学のゼミでご一緒させていただいていた頃から、本当にお世話になりっぱなしなんです」

「織絵さんのような清楚で素敵な女性がいるなんて、早稲田もまだまだ捨てたもんじゃないね。バンカラだった僕の時代とは大違いだなあ」

そう言って、かばちゃんのお父様とお母様が朗らかに笑う。ご両親の両隣に寛いで座っているお兄様も弟さんも、優しい微笑みを浮かべていた。

和やかな雰囲気に、ガチガチの緊張がほんの少しだけ和らぐものの…。私は隣に座るかばちゃんと視線を合わせて笑いながら、心の中で叫び声を上げる。

― かばちゃん~!ご実家のお金持ち具合、聞いてたよりもだいぶ凄いんですけど!?

初めて会う、彼のご家族。その計り知れない正体とは

早稲田政経のゼミで2年先輩だったかばちゃんとは、私がたまたま同じ損保会社に入社したことで距離が近づき、お付き合いが始まった。

その特殊な名前のせいで、もともとゼミでも「お金持ちイジリ」をされていたかばちゃんだったけど、本当にお金持ちだということを告白されたのはつい最近なのだ。

「織絵とは、そろそろ結婚も考えてるから知っておいて欲しいんだけど…」

そんな軽いプロポーズを皮切りに告げられたのは、かばちゃんのご実家が老舗の医療機器専門商社だということ。そして三兄弟が、いずれは3代目として本社・支社の取締役になること。

それから家族はみんな幼稚園から暁星で、大学は早稲田かそれ以上なこと…。

「家とかちょっと大きめでびっくりするかもしれないけど、親も兄貴も弟も、みんな気取らない素朴でおちゃめな人たちだから。きっと織絵もすぐに打ち解けられると思うよ」

かばちゃんが言っていた通り、たしかにご両親もご兄弟もとっても気さく。でもお金持ち度合いのスケールは思っていた以上だった。

大人数で外食するのも気を使うから、と言ってご実家のお庭でお茶をすることになったけど、まさかここまで広いお庭だとは…。

それに少しだけ目にした自宅の中も、絵画や置物がたくさん飾ってあって、まるで美術館みたいだった。

― こんな上流階級のご家庭に、私みたいなフツーの人間が認めてもらえるのかな。今日は絶対に、何ひとつミスするわけにはいかないよ…!

5m以上も先で軽快に芝を潤すスプリンクラーを見つめながら、少しでも緊張をほぐすために深呼吸をする。

でも心を落ち着けようとしすぎるがあまり、私はご家族との会話をおろそかにしてしまっていたらしい。気づけばお母様が、こちらを心配そうに覗き込みながら私の名前を呼びかけていた。

「…さん、織絵さん?」

「あっ、は、はい!なんでしょう!」

ようやく反応があってホッとした様子のお母様が、申し訳なさそうに尋ねる。

「ごめんなさいね、私ったら飲み物もお出ししないで話し込んでしまって。織絵さんは何を召し上がる?紅茶、コーヒー?」

絶対にミスをしないと心に誓ったそばから、お母様にこんな顔をさせてしまった。

焦った私は、背筋をピンと伸ばしながら、あたふたとご家族の様子をチェックする。皆さんもまだ何も召し上がっていない状態。それなのに、私が好き勝手に飲み物を選ぶわけにはいかないはずだ。

― 落ち着け、私。素敵なお嬢さん、って思っていただくためには礼儀正しく、足並み揃えなきゃ…!

半ばパニックに陥っていた私は、慌てながらも「皆様と同じ物をいただければ!」と答える。

でも、その後すぐに…。つい、口が滑って言ってしまったのだ。

「ね、かばちゃんは何飲むの?」


その瞬間、場の空気が一瞬止まった。…ような気がした。

― しまった、この空気…!こんなお上品なご家族の前で、彼のことをあだなで呼んじゃうなんて…。今までちゃんと「樺之さん」って呼べてたのに、私のバカー!!

背中にどっと冷や汗が流れるのを感じながら、私はゆっくりと視線を上げてご家族の表情を確認する。

さっきまで途切れずに続いていた会話は静まり返り、その代わりに、ご家族全員がニヤニヤとした笑みを浮かべていた。

そして、お父様も、お兄様も、弟さんも。からかうような眼差しを私に向けながら、言ったのだ。

富裕層一族の前でフランクになりすぎた女を襲った、奇妙な状況

ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、お父様とお兄様、弟さんは口々に言う。

「僕はコーヒーにしようかな!」

「俺はもう昼から飲むわ、ビール」

「俺、コーラで」

なぜ皆さんが急に飲み物を宣言し始めたのか、まったくわからない私は、思わずかばちゃんの顔を見る。

隣に座るかばちゃんは、口元を押さえながらプルプルと震えている。そして必死に笑いを噛み殺しながら、こう言ったのだ。

「ごめん、織絵。言ってなかったっけ…」

そしてそこまで言うと、ついにかばちゃんは吹き出して大声で笑い始めてしまった。

「だめだ、織絵のその顔!ごめん、すっかり言ったと思ってた。わかんなくて当然だよね。あのさ、俺んちって…。男はみーんな“かばちゃん”なの」


かばちゃんが吹き出したのを皮切りに、ご家族もみんな揃って「ドッキリ大成功!」とでも言い出しそうな様子で、いたずらっぽい笑い声を上げた。

ポカンとする私に、お母様だけが困り顔で謝る。

「まったく、うちの男たちは…。織絵さん、重ね重ねごめんなさい。うちの家系はね、男の子が産まれたらみーんな“樺”の字をつけるのが、古くからの決まりなの」

呆れ顔のお母様の横で、少年のようにおちゃめな表情を浮かべたお父様が「そう、僕は樺久。かばちゃん!」とおどけてみせた。

お兄様は樺明。弟さんは樺彦。男性全員が“かばちゃん”だというこの一族は「かばちゃん」と呼ばれて全員振り返るのが、もはや定番のジョークのようなものなのだという。

「あ、あはは…」

奇妙すぎるこの状況に、複雑な笑顔を浮かべることしかできない。

でも、子どもみたいに楽しそうに笑う皆さんを見て、本当に気取らない素敵な人たちなのだということがよくわかった。

「ね?そんなに緊張しなくても平気って言ったでしょ?」

彼氏のかばちゃんが私に向かってそう笑いかける。その顔を見て私はようやく、肩の力が抜けたような気がしたのだった。



結局私は、かばちゃんと一緒にペリエをいただいた。…カフェイン入りの飲み物は、念の為ちょっと控えておこうと思っていたところだったから。

― まさかね…。でも、もう少し待っても来なかったら、検査薬を試してみなきゃ。

かばちゃんにもまだ伝えていない、この秘密。

「順序が逆だ!」なんて反対されたらどうしよう。そう心配していたけれど、もし想定外の妊娠をしていたとしても、この温かいご家族だったら受け入れてもらえそう?

私は木漏れ日の下でペリエのグラスを傾けながら、未来を空想する。

もしも、本当にそうだったら。

もしも、男の子だったら…。

そして隣に座る彼氏のかばちゃん…樺之さんに向かって、微笑みながら言った。

「ねえ。かばちゃんのこと、今のうちから呼び方変えておこうかな…?」


■かねもちのへんな生態:その3■

名前を呼んだら、全員がこちらを振り向く一族がいる


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